訓点(読み)くんてん

精選版 日本国語大辞典 「訓点」の意味・読み・例文・類語

くん‐てん【訓点】

〘名〙 漢文を訓読するための手がかりとして書き入れる文字や符号。ヲコト点返り点音訓(仮名点)などの総称
※応永本論語抄(1420)述而第七「礼記にも臨文不諱と云り。清家に御読に候する時、或は文を除て申し、訓点をよみかゆること故実多し」

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デジタル大辞泉 「訓点」の意味・読み・例文・類語

くん‐てん【訓点】

漢文を訓読するために、漢字の上や脇などに書き加える文字や符号。ヲコト点返り点送り仮名振り仮名などの総称。「訓点を施す」

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改訂新版 世界大百科事典 「訓点」の意味・わかりやすい解説

訓点 (くんてん)

漢文を日本語の文章構造に従ってよみ下すために,原文の行間や字間につける文字や符号。返点(かえりてん)すなわち,レ(かりがね),一・二・三・四,上・中・下,甲・乙・丙などの符号,およびヲコト点,朱引(しゆびき)などをもちいて,漢字の音読・訓読の区別,字音・訓・よむ順序・句の切り方などを示すもの。傍に片仮名を併用することが多い。奈良時代に訓点はすでに行われたと推測されるが,奈良時代末に訓注を万葉仮名でつけた例が正倉院文書にある。年代の明らかな最古の例は〈成実論(じようじつろん)天長5年点〉で,それ以前のものと推測される〈唐写阿毗達磨(あびだつま)雑集論古点〉〈央掘魔羅経古点〉〈西大寺本金光明最勝王経古点〉などがある。訓点は,講義を聞いて備忘のために記入するものと,教授者が正しい訓法を記録するためにていねいに記入したものとがある。平安時代中期以降,日本的文化の固定期に伝承を尊重する風が興り,訓点も古い訓法を継承するようになり,訓点はきわめて伝統的になって秘密を守る風も生じたらしい。これら古い時代の訓点は,胡粉(ごふん),朱,墨,藍(あい),緑,黄および角筆(かくひつ)(骨の先でこすりつけて書くもの)などで書かれている。

 訓点をつけた言語は,原文が漢文であり,語序が日本語と相違し,語彙ごい)も日本語にないものが多く,音韻も中国語の音韻組織は日本語より複雑なので,種々の特徴があり,日本語の文章史上特異な位置を占め,他の記録文や,文学作品に大きい影響を与えた。また訓点の言語は多く男性・学者僧侶がこれを読み,学んだので男性語的なものとして受け取られ,中国尊重の一般的気風にささえられて,学者語としての性格もにない,一般の日常会話語とはかけ離れた一つの特質を保っていた。訓点語にしか使わない特有の語彙があり,訓点語独特の語法としては敬語が簡単で,情緒的な語彙にとぼしく,推量などの助動詞用法が素朴である。しかしこれは,日本語の文章語として最も早く現れたものであるから,この文体を見習っておよばなかったところに,いわゆる変体漢文,日記体,記録体の文章が現れた。日本最初平仮名の日記文学《土佐日記》には,訓点語的なスタイルが見え,《古今和歌集》の仮名の序や,物語の最初という《竹取物語》の文体も,訓点語の形式にならったところが少なくない。《今昔物語集》や《打聞集(うちぎきしゆう)》の文章も訓点語の影響は顕著で,鎌倉時代に現れた軍記物語の文体も,訓点語と,女流物語文体との混合の上に成立している。訓点語は,法語や和讃などにまで大きい影響を与えた。江戸時代にはいって,佐藤一斎などが,訓点の法を改めようと試みたりしたが,訓点語の大体は平安時代中期に確立して以来,根本には変化なく伝えられ,日本の文章史上大きい勢力を保っていた。
仮名
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百科事典マイペディア 「訓点」の意味・わかりやすい解説

訓点【くんてん】

漢文の訓読を示すため,原漢文に記入した文字・符号の総称。一般に句読点返り点送り仮名および振り仮名を用いる。振り仮名は片仮名が主だが近時は平仮名をも交用する。訓点の記入は8世紀末ごろから生じ,最初は句読点,返り点のみであったが,9世紀に入ると振り仮名,送り仮名も生じた。当初は万葉仮名,平仮名,片仮名を併用し,また多くは〈をこと点〉と交用した。10世紀ごろから仮名は片仮名がもっぱら用いられた。をこと点は12世紀ごろが最盛期で,後には次第に片仮名だけの訓点が多くなった。講義を聞いて備忘のために記入するものと,教授者が正しい訓法をていねいに記録したものとがあり,訓点をつけた言語は日本語の文章史上,特異な位置を占め,他の記録文や文学作品に大きい影響を与えた。また古訓点は国語学史料として重視され,訓点資料と称される。
→関連項目春日政治片仮名訓読国語学平仮名

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「訓点」の意味・わかりやすい解説

訓点
くんてん

漢文を日本語として読み下す,いわゆる訓読の際,その読み方を示すために漢字の四隅,かたわらなどに書き加えた文字や符号の総称。返り点,乎古止点 (おことてん) ,万葉がなで読み方を示す方式が併用された。このような訓点記入を加点といい,加点された本を (訓) 点本,または加点本という。訓点をつけた国語資料を訓点資料,そのなかに書かれている国語を訓点語,訓点語も含めて漢文訓読に用いられた国語を総称して (漢文) 訓読語という。訓点本の最古の資料は,奈良時代末期までさかのぼる。漢文訓読語は一種の学者語であり,促音便や撥音便の存在,訓読語特有の語彙の存在により,和文とは異なる独自の文語体をつくり上げた。

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普及版 字通 「訓点」の読み・字形・画数・意味

【訓点】くんてん

漢文の訓読につける返り点と送り仮名。

字通「訓」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「訓点」の意味・わかりやすい解説

訓点
くんてん

訓読

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