言語心理学(読み)げんごしんりがく(英語表記)psychology of language

精選版 日本国語大辞典 「言語心理学」の意味・読み・例文・類語

げんご‐しんりがく【言語心理学】

〘名〙 言語行動を、その主体である人間、またはその集団における人間の心理との関連において研究する言語学、または心理学の一部門。心理言語学

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デジタル大辞泉 「言語心理学」の意味・読み・例文・類語

げんご‐しんりがく【言語心理学】

言語行動を人間の心理との関連において研究する学問分野。言語活動、言語の学習と発達などを対象とする。→心理言語学

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最新 心理学事典 「言語心理学」の解説

げんごしんりがく
言語心理学
psychology of language

言語は人間の心理プロセスかつ言語行動verbal behavior,あるいは発話行為speechとしてとらえることができる。およそ人間の知的活動,すなわち知覚・注意・思考・記憶・想起・感情・想像・理解・問題解決など,ほとんどに言語がかかわるのであるから,言語を解明することは人間の知を解明することといっても過言ではない。このような観点での研究領域として言語心理学,または心理言語学psycholinguisticsがある。前者は心理学分野において言語を扱う場合に用い,後者は言語学分野において心理との関連で言語を扱う場合に用いることが多い。

 話す,聞く,読む,書くことは,本来思考の一種である。話す,書くことは,イメージを社会的に構成し,かつ共有された言語構造へと変換する過程であり,聞く,読むことは,逆に言語的な構造をイメージへと変換する過程である。この変換の過程で思考は停止することはない。逆に,思考のどの瞬間も言語が無関係ではない。思考は言語によって行なわれるのである。したがって,言語心理学が包含する主要な研究テーマは,言語と思考,記憶,想起,想像などの関係や,言語の生成と理解,言語と非言語のメカニズムはどうなっているのか,言語と感情,社会性などはどのように関係しているのかなどである。

【生得説と経験説】 話したり聞いたりの研究は,当初から発達心理学developmental psychologyや認知心理学cognitive psychologyの領域でかなりの研究知見が蓄積されてきた。言語学領域では,生成文法generative grammarとの関連で言語獲得の研究がなされてきた。言語は構造をもち,ことばは人間が思考に関するある種の一般法則の担い手であることによると主張している。言語のもつ真の構造と機能を見いだしうるならば,思考の一般法則をも見いだしうるはずである。話すことと聞くことは言語の不可欠な部分を成しているから,言語を研究することによって,話し,聞いて,理解する方法が見いだせると考えたのである。ことばを話し,理解するには,音を意味に結びつける暗黙ルール,すなわち文法grammarに従わなくてはならない。チョムスキーChomsky,N.(1972)によると,人間がきわめて短期間に言語を獲得してしまうのは,言語固有の生得的な言語獲得装置language acquisition devise(LAD)を有しているためであるという。

 人間発達において何が生得で,何が経験によるのかをめぐる論争が続いているが,言語獲得language acquisitionにおいても例外ではない。チョムスキーは言語学が解くべき問題としてプラトンの問題Plato's problemを掲げた。プラトンの問題とは,第1に言語使用の創造的側面creative aspect of language useに関するもので,人間はひとたび母語の文法を獲得してしまえば,必要に応じていくらでも新しい文を理解したり産出したりできるのはなぜか,第2に人間に獲得可能な文法には経験のみ,あるいは経験と一般的な知識獲得機構を想定しただけでは説明できない属性が含まれているのにもかかわらず,文法獲得が可能なのはなぜか,という二つの問いを指している。これらの問いにチョムスキーは領域固有domain specificの生得的原理を仮定してプラトンの問題を解決しようとする。これに対して発達心理言語学developmental psycho-linguisticsでは,生得的な原理を所与のものとするのではなく,領域一般domain generalの学習原理に基づき語意や文法規則や言語についてのメタ知識が創発されると考える。領域一般の学習原理には「原理抽出の学習メカニズム」(針生悦子・今井むつみ,2000),「類似性比較と類推メカニズム」(Gentner,D., & Medina,J.,2000),「差異・共通性抽出原理」(Uchida,N., & Imai,M.,1999; 須賀哲夫,2000)などが想定されている。彼らは言語獲得においては,方法論的経験主義methodological empiricismの立場を取る。すなわち,言語獲得の生得性仮説がどこまで母語の言語獲得を説明できるのかを検討したうえで,この仮説が,最終的に完全に否定された場合に初めて言語固有の生得的原理を受け入れようという立場である。

認知科学の台頭】 認知科学cognitive scienceが台頭したのを機に言語研究は新しい時代を迎えた。認知科学は,人間の知の研究知見を人工知能やロボット研究に結びつけようとして1960年代に計算機科学分野から興り,1970年代に心理学,言語学,哲学,経済学,政治学,社会学までをも巻き込んで発展しつづけている。認知科学の隆盛の中で,さらに包括的な認知言語学cognitive linguisticsという分野が確立し,言語を人間の認知システムcognitive system,あるいは情報処理過程information processという枠組みからとらえ直すアプローチが発展しつづけている。認知科学分野では,かつて伝統的な実験心理学では非科学的だとして排除された方法論,たとえば発話思考法think-aloud protocol methodや内観報告法retrospective protocol methodなどを実験科学の伝統にとらわれずに使い,認知システムという見えない心的過程を可視化しようとする。認知科学の伝統にとらわれない発想や方法論に影響を受けて,言語の研究は,話す,聞く,読む,書くなどの活動の背後にある心的過程を,情報処理アプローチで明らかにしようとする研究へと拡大・発展している。 →認知言語学 →文法論
〔内田 伸子〕

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百科事典マイペディア 「言語心理学」の意味・わかりやすい解説

言語心理学【げんごしんりがく】

言語学の一分野。言語活動,その機能を心理的側面から説明しようとするもの。19世紀末ごろから盛んになり,特にH.パウルは,その成果を言語変化の形態面にとり入れて,音法則の例外を説明しようとした。最近では言語習得過程や,バイリンガルのメカニズムなどにも関心が寄せられる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「言語心理学」の意味・わかりやすい解説

言語心理学
げんごしんりがく
psycholinguistics

言語をその使用する個体の行動面から研究する心理学。言語と使用者との関係を取扱う分野ともいえる。この意味で,個々の使用者を離れて言語の一般的体系をつくり上げようとする言語学とは,目的,方法などにおいて異なっている。その研究領域は,言語の発達,言語と認知,思考との関係,言語と行動との関係,言語コミュニケーションの問題などかなり広範にわたっている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「言語心理学」の意味・わかりやすい解説

言語心理学
げんごしんりがく

心理言語学

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世界大百科事典(旧版)内の言語心理学の言及

【言語学】より


【境界領域】
 以上述べたものは,主として言語そのものを研究する分野であるが,言語が人間および人間社会のその他の事象と無関係に存在するものではないことから,言語とその他の事象との関係を研究する分野が必要になる。言語と心理との関係,発話行動における心理などを考える〈言語心理学〉,幼児の言語習得過程を研究し,母語教育に役立てようとする〈幼児言語学〉(〈幼児語〉の項を参照)または〈発達言語学〉,言語障害を研究する〈言語障害学〉,母語や外国語の教育方法を研究する〈言語教育学〉(〈言語教育〉の項を参照),などがあり,また,〈言語社会学〉または〈社会言語学〉と呼ばれる分野は,言語の側の差異と人間集団の差異(階層のちがいとか出身地のちがいとか)の関係を多方面にわたって研究し,〈言語人類学〉は,言語の諸事象と文化人類学的諸事象の間の関係を調査・研究する。〈言語社会学〉には,言語政策などを扱う分野(〈言語工学〉とも呼ばれる)もはいり,また,複数の言語が話される国などの問題を扱う言語教育学的研究も含まれる。…

※「言語心理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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