触手動物(読み)しょくしゅどうぶつ

精選版 日本国語大辞典 「触手動物」の意味・読み・例文・類語

しょくしゅ‐どうぶつ【触手動物】

〘名〙 無脊椎動物うちホウキムシ類コケムシ類腕足類の三群をあわせたもので、これを一門として扱うこともあるが、近年はそれぞれを独立した門とすることが多い。頭部には口をとりまいて触手冠があり、肛門は触手冠の外側に開く。主として海産で、殻や管をつくってその中にすむ。腕足類の出現は古く、カンブリア紀にさかのぼる。

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デジタル大辞泉 「触手動物」の意味・読み・例文・類語

しょくしゅ‐どうぶつ【触手動物】

無脊椎動物の一門。触手が口の周囲を冠状に囲む。消化管はU字形に曲がり、肛門は触手冠の外側に開く。コケムシ類・腕足類ホウキムシ類の3綱に分けられる。
[類語]無脊椎動物原生動物原虫中生動物海綿動物腔腸動物刺胞動物有櫛ゆうしつ動物扁形動物紐形動物曲形動物袋形動物軟体動物環形動物有爪ゆうそう動物舌形動物節足動物星口動物毛顎動物有鬚ゆうしゅ動物半索動物棘皮動物

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「触手動物」の意味・わかりやすい解説

触手動物
しょくしゅどうぶつ

動物分類学上の1門Tentaculataの名、およびそれを構成する動物群。触手冠動物(かんどうぶつ)ともよばれる。かつては、軟体動物に外観的に類似するとして擬軟体動物とよばれたこともあるが、現在ではこの語は用いない。体の前端に触手冠をもち、付着あるいは潜生生活をする動物群で、ホウキムシ類、コケムシ類、腕足類の3綱を含む。そのうちコケムシ類は群体を形成する動物である。

[馬渡峻輔]

特徴

触手冠は、中央に口の開く盤状部と、そこから生えた数本から数十本の触手よりなる。他の動物群にはみられない構造である。触手動物の触手は、内部に中体腔(ちゅうたいこう)の延長である細長い管状の腔を有し、表面に繊毛を密生する点で特異である。そのほかの特徴を次に示す。

(1)U字形に曲がった消化管をもち、肛門(こうもん)は触手冠の外、背側に開く。

(2)幼生、成体とも前・中・後の3体節に分かれ、それぞれ前・中・後体腔を内部にもつ。

(3)体の保護のためキチン質石灰質の構造物を分泌する。

(4)循環系を備え、生殖輸管を兼ねた腎管(じんかん)をもつ。

(5)卵割は全割で放射型。

(6)原口が口となり、肛門は二次的に開口する。

 これらの特徴には次のような例外がある。

(1)腕足類の一部には肛門が体の後端に開くもの、あるいは消化管が盲嚢(もうのう)に終わるものもある。

(2)コケムシ類の幼生は体節制を示さず、成体も多くは前体節を欠く。

(3)分泌物は腕足類では背腹2枚の殻に、コケムシ類では虫室となって外骨格の役目を果たすが、ホウキムシ類では体に密着せずに棲管(せいかん)となる。

(4)コケムシ類は循環系と排出器系を欠く。

(5)ホウキムシ類の一部で螺旋(らせん)卵割が観察されている。

(6)ホウキムシ類では原口の延長上に口ができる。

[馬渡峻輔]

分類

触手動物を構成する前述の3綱は、地史的に古くから分かれており、形態・発生上の相違点も多いため、それぞれ独立の門とする説も提唱されている。しかし、触手冠は完全な共通形質であり、相違点も生活生態上の適応形質と考えられるものが少なくない。

[馬渡峻輔]

系統

動物界における触手動物の系統的位置に関しては諸説があり、これまでは、原口が口になること、螺旋卵割がみられることを重視し、幼生をトロコフォラ型とみなして、前口動物に含められてきた。ところが、近年ホウキムシ類の研究が進み、原口そのものは口にならないこと、螺旋卵割はおそらく異常例であること、幼生はディプリュールラ型に近いこと、アクチノトロカ幼生の3体節3体腔制はそのまま成体へ受け継がれること、などが証拠だてられた。現在ではこれらの証拠に従って、触手動物は半索(はんさく)動物や棘皮(きょくひ)動物などの後口動物に近いとする説が有力である。

[馬渡峻輔]

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改訂新版 世界大百科事典 「触手動物」の意味・わかりやすい解説

触手動物 (しょくしゅどうぶつ)
Tentaculata

無脊椎動物の中の一動物門。特有な触手冠をもつことからこの名がある。ホウキムシ類,コケムシ類,腕足類の各綱が含まれ,外観はそれぞれかなり異なっているが,体に体節がなく,口の周囲には繊毛のある触手をもっており,口と肛門とは接近していて肛門は触手冠の外側背方に開き,真の体腔があるなどの共通点をもっている。しかし,3綱の間にはなお多くの相違点も見られるので,それぞれ独立した動物門(菷虫動物門,外肛動物門,腕足動物門)として扱う場合が多い。

 体制は基本的には左右相称で,前体,中体,後体の3部に分かれる。前体には先端に口が開く口上突起があり,中体にはそれを取り巻く触手冠があり,後体は体幹になっていて諸器官が内蔵されている。単体なものと多数の個虫が群体をつくるものとがあり,いずれも他物に付着して生活する。大部分が海産で,コケムシ類の一部が汽水と淡水中にすむ。触手動物は発生の過程で,口が原口の位置に生じ,幼生はトロコフォアの変形であることから前口動物に入れられる。しかし,他の前口動物と一致しない点もあり,前口動物と後口動物とが生じてまもなく,独自の分化をたどったものと考えられる。

 ホウキムシ綱Phoronidaは体は細い円筒状で,自身が分泌した薄いキチン質の管の中に入って,浅海の砂泥中にすむ。体の先端に馬蹄(ばてい)状をした触手冠があって数十~数百本の触手が並んでいる。閉鎖血管系が発達している。雌雄同体。アクチノトロカ幼生actinotrochaを生ずる。世界で約20種。

 コケムシ類Bryozoaは石,貝殻,海藻の上などに付着した小さな個虫が,それぞれに石灰質やキチン質の虫室をつくりながら一つの群体を形成する。ホンダワラコケムシでは長さが約1mの群体になる。内臓は簡単で,U字状の消化管と生殖腺はあるが,血管系,呼吸器官,腎管などは存在しない。雌雄同体。キフォナウテス幼生cyphonautesを生ずる。いろいろな生物や諸施設に付着して害を与えるので汚損生物の一つとされる。

 腕足綱Brachiopodaは体は背腹に位置する2枚の貝殻で包まれ,殻の後端から筋肉質の柄を出している。殻腔内には馬蹄状の腕骨があり,これで触手冠を支えている。開放血管系がある。雌雄異体。現生種は260種。シャミセンガイ古生代における形態とほとんど変化がなく,〈生きている化石〉の一つ。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「触手動物」の意味・わかりやすい解説

触手動物
しょくしゅどうぶつ
Tentaculata

触手動物門に属する動物の総称。苔虫類ホウキムシ類腕足類の3綱に分けられる。形態は円柱状で前体,中体,後体の3部に分けられ,各部に,前腔,中腔,後腔とそれぞれ体腔をもつ。前体の先端に口があり,周囲は触手で囲まれている。消化管はU字形に曲り,肛門は触手環の外側に開いている。変態を行い,幼生はトロコフォラ型である。体制的には前口動物であるが,後口動物の特徴もそなえていて,毛顎動物棘皮動物に似た点がある。主として海産であるが,淡水産のものもある。世界で約 5000種が知られている。

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