親子(読み)おやこ

精選版 日本国語大辞典 「親子」の意味・読み・例文・類語

おや‐こ【親子】

〘名〙
① 親と子。親と子としての結びつき。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「よきほどなるおやこばかりなる中にも」
② 親と子のように、親しみ、むつびあう間柄。
※御伽草子・花みつ(有朋堂文庫所収)(室町末)「尊氏将軍の御時、既に一天下親子になり給ひしかば」
③ 親戚。親類。
※虎明本狂言・清水(室町末‐近世初)「なんぢがおやこの内に、おにになった者はなひか」
④ 仮の親子関係の親と子。取り上げ親子など。
⑤ 親と子との関係にたとえられるもの。「親子電話」など。
※社会観察万年筆(1914)〈松崎天民〉続淪落の女「『親子(オヤコ)か何か、おごって頂戴よウ』『旦那は会社員? 官吏? 銀行員?』」
⑦ 株式で親株(旧株)と子株(新株)との併称。〔最新百科社会語辞典(1932)〕

しん‐し【親子】

〘名〙
① 親と子。おやこ。
※正法眼蔵(1231‐53)山水経「生児のときは、親子並化するか」
曾我物語(南北朝頃)一二「又しんし恩愛のいたって切なる事、人の申し習はすをも、我身の上かと」
② 親に対する子。
※大観本謡曲・錦戸(室町末)「君臣二つは二体の義、君を重んじ親子(しんし)の孝行」
③ 法律で一親等の直系血族関係にある者(実親子)、または民法が認めたこれに準ずべき親族関係にある者(養親子)。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「親子」の意味・読み・例文・類語

おや‐こ【親子】

親と子。また、その間柄。「親子の情」
親と子の関係にたとえていう二つのもの。「親子電話」
親子どんぶり」の略。
親類。親戚。
「汝が―の内に、鬼になった者はないか」〈虎明狂・清水
[類語]父子母子家族一家家内家人うちの人肉親親兄弟妻子骨肉血肉けつにく身内身寄り係累家累家眷かけん一家眷属いっかけんぞく妻子眷属さいしけんぞく一族ファミリー家庭

しん‐し【親子】

親と子。おやこ。
法律で、直系一親等の自然的血縁関係のある実親子、または法定血族である養親子

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「親子」の意味・わかりやすい解説

親子 (おやこ)

父母と子の関係を指すが,生みの親と子の血縁的な関係だけではなく,養親と養子,親分と子分,親方と子方の関係のように,法制上,習俗上親子関係が擬制される関係(擬制的親族関係)を指しても用いられる。

親子関係では,とくに血のつながりという自然的要素が強調されるが,いずれの社会でも,血のつながりがあればただちに社会的にも親子関係が発生するとされているわけではない。このことは早くからB.マリノフスキーら社会人類学者によって指摘されている。南太平洋のトロブリアンド諸島原住民は,子の出生にあたっての父親が果たす役割を知らない。にもかかわらず,家族生活では,タマと呼ばれる男性が子どもにとっては母親の親しい人であり,愛情をこめて自分たちを養育してくれる男親であって,今日の父親のイメージと本質的には異ならない。彼らは父子間の血のつながりを知らないにもかかわらず,社会的な父親の存在を認めていることになる。このようなことのため,一般に,社会的な父親と自然的な父親が区別され,前者はペーターpater,後者はジェニターgenitorと呼ばれる。

 今日の社会では,受胎から出生に至る自然のしくみを前提とするかぎり,自然的な親子関係と社会的な親子関係とは通常は一致する。また,今日の血縁に関する遺伝学上の観点からは,父子関係も母子関係と同一に考えられている。しかし,近時,少なくとも自然的な父子関係も,それぞれの社会における親子関係決定に関する規範によって社会的に決定されると主張し,父子間の血のつながりを当然視することに疑義をもつ説(フォックスR.Foxなど)も現れている。母子関係では,母親の,子を分娩し授乳するという行動により,自然的要素や依存関係が強く意識される。しかし,アメリカの心理学者ハーローH.F.Harlowは,実験室での子猿の実験により,子猿が,哺乳瓶を備えているが針金で作られた人工代用の母親より,柔らかい布で作られた授乳しない人工代用の母親に対して愛着を感じていることを明らかにした。母子関係でも,子に対する養育活動は社会的母が血のつながりとは区別されることを示し,父親の場合と同様に,それをマターmater,自然的な母親をジェニトリックスgenetrixと区別すべき余地があるともいわれる。

洋の東西をとわず,子の利益,福祉が家族,財産,親よりも優先され,第一義的に保護されるべきものと考えられるようになったのは,親子間の実態においても,また規範秩序にあっても,歴史の上では比較的最近のことで,とくに人権思想の発展をみてからである。

 フランスの歴史の中での親子関係をみた場合に,中世以後,長子があととりとして予定された貴族階層以外の,一般民衆の親子関係の実態が,最近,アナール学派によって明らかにされた。それによれば,17世紀まで,子どもたちは親の手によって教育されたのではなく,7~8歳に達すると,村落共同体の中でおとなといっしょに生活し,働いたり,あるいは徒弟奉公に出されるなかで生活者としての教育を身につけるように仕向けられるか,軍隊や修道院に送り込まれ,生涯親もとに帰って来ない者もいた。ここでは,子どもがおとなと同様に働き,広義の手伝いという一定の社会的役割を果たすことが期待されていた。

 17~18世紀に,親子間に顕著な変化が生じ,今日の親子に近いものになる。このころから,子どもはひとつの人格として尊重されはじめ,子どもの間で財産を均分する慣行が一般化し,小学校などの学校制度の発展により親は子どもを就学させ,子どもたちは家庭にとどまるようになる。生残りのための戦いという日常の営為から最初に解放され,19世紀には支配的な階層になったブルジョア階層の家庭での親子の感情の交流が親子関係のモデルとなり,家庭での子のしつけや家庭教育などが重要視されはじめ,近代的な親子関係が形成されていくのである。

 日本の武家社会を中心に親子間の規範秩序を歴史的にみると,古くから儒教の影響が強い。8世紀初頭,律令の継受により中国思想の影響を受け,親子は同籍同財の密接な関係ではあるが,親には子の婚姻に対する同意権や教令懲戒権が広く認められ,子に対しては孝養の義務が課され,家父長制的規範秩序が形成されていた。その後,戦国分国法では領主権により親の権利に制約が加えられたこともあったが,近世の後半からは,再び儒教的家父長制原理が強化され,男尊女卑,嫡男子優先が顕著になった。さらに,幕藩領主の家長権保護政策により,親には強い懲戒権や勘当権,監禁権が認められたほか,非分ある子を殺害しても罪にはならなかった。武家社会の親子間の支配・服従関係を偏重する規範秩序が他の階層の親子に対して大きな影響を与えたことは疑いない。明治政府は,武家社会の儒教的家父長制規範秩序や,村落や都市をとわず広範囲に存在していた〈親子成り〉による擬制的親子関係の慣行の中で,とくに〈家〉制度の維持に重要な役割を果たすものを取り上げ,それを民法で立法化した。第2次大戦後,現行憲法の施行とともに,親子は対等独立の人格者どうしの関係として設定されたが,日本の社会組織においては社会的には親分子分関係,官僚組織などに象徴されるいわゆる〈タテ社会〉の特徴は失われていない。

現代家族法がモデルとしているのは夫婦と未成熟子からなる個別家族であり,現代の親子法はそのような親と未熟子の関係を規制の対象にする。親子法の理念はかつてのように〈家〉本位,親本位にあるのではなく,もっぱら子本位であり,子の福祉や利益の保護を目的とし,最大限にそれを尊重するところにある。このため,〈家〉本位,親本位の親子法が親子間の支配・服従を基軸にし,〈家〉の利益あるいは親の意思が優先したのに対して,現代の親子法では,親の未成熟子に対する監護教育が中心である。すなわち,親がつぎの世代を担う子どもに対して健全な心身発達,向上をもたらす監護教育を果たす義務を負っており,親子法はこのような親の責任を強化する趣旨で,親権その他の規定を置いている。現代の親子法の特色としては,つぎの二つがある。(1)親子間では,親は子の独立,平等の人格を承認したうえで,子を監護教育する義務を負うのである。しかも,親子関係は家族構成員間の関係であるために,独立,平等といっても相互に権利・義務の対抗関係に立つのではなく,親の子に対する一方的な義務を中心にする。

 (2)親子関係は生物学的な血縁関係を基礎にすることから,現代親子法も原則としてこの血縁主義の原理によっているし,また,学説,判例により血縁主義を貫徹させようとする解釈がなされている。たとえば,婚外子について,以前は,認知は意思表示であって,するしないは父親の自由であり,認知すれば,その効果として親子関係が形成されると解されていた。しかし,現在では,認知をもってすでに存在している親子の生物学的な血縁関係を法律の面で確定するものとされている。母子関係についても,今日では,認知をまたずに,分娩という生物学的事実によって当然に発生するとされる。今日の親子法において,意思的要素,社会的関係を排して,血縁主義をどこまで貫くことができるかは問題があるし,また,前述のように,親子関係は単なる生物学的関係ではなく,社会的関係であってみれば,血縁重視の考え方も反省を迫られるに違いない。
子ども →親族
執筆者:

日本における親子関係は多様な形式と内容をもっており,実の親子以外に日本人はさまざまなオヤとさまざまなコをもっている。オヤの種類から日本の親子をみれば,実親,義理の親,仮親(親分,親方)の三つがあった。実親は生みの親であり,親子関係の中心的な重要性をもつ親である。義理の親には,配偶者の父母であるシュウトオヤ,ママオヤと養子縁組による養父,養母がある。シュウトオヤについては実親と同等に扱われる場合とそうでない場合とがあり,とくに嫁の父母と聟との関係は,聟と聟の両親および嫁と聟の両親との関係に比べて低くみられることが多かった。同等に評価される例としては,婚姻の祝言において聟と嫁の両親および嫁と聟の両親とが等しくオヤコサカズキを交わす場合があり,これは両者のまったく同等の義理の親子関係の設定と考えられる。結婚後の聟家と嫁の実家との関係も対等性を特徴とすることが多い。これに対して聟の両親と嫁だけが祝言においてオヤコサカズキを交わす場合は,この関係だけに公式の義理の親子関係を設定して,嫁の里帰りのときに顔を合わすほどの関係であり,聟と嫁の両親との関係を低く評価するものである。この場合には結婚後も聟家が嫁の実家に対して優位に立ち,嫁の実家はさまざまな贈与をくり返す例が多い。とくに父性的傾向の強い日本の伝統的家族においては,夫の家に嫁入りした嫁と聟の両親との関係は実の親子とまったく同じとみなされる傾向があった。養子縁組にもとづく養父母との親子関係の新たなる設定は,法的親子関係の変更であり,日本では多くの場合家族集団の所属変更をともなうが,実の親との関係は結婚による姻戚関係に準ずる関係として継続される。

 仮親(親分,親方)は従来親子関係にない家族外の人との間に出生,成人,結婚などにあたって,新たに親子関係に類似する関係を設定するものであって,名付親,拾い親,元服親,鉄漿(かね)親,仲人親,草鞋(わらじ)親などがある。仮親は実親では克服することのできないさまざまなコの劣位状況の克服のために設定されるものであって,日本では家族集団の変更をきたさないのが一般的である。仮親との親子関係は短期間の一時的なものもあるが,一生にわたって関係が継続するものも多い。日本の親子関係の特徴のひとつは,このような擬制的親子関係の多様性と重要性にある。

 親子関係は本質的に顕著な対立関係を内包する関係であり,とくに父性的性格の濃厚な日本の伝統的家族においては父親と息子および嫁と姑の対立が著しい。父親と息子は財産相続と家長権継承をめぐる関係であり,嫁と姑は主婦権継承をめぐる関係であって,この事実と対立的関係との連関が強い。こうした対立関係は親子間の殺人によって最も顕在化する。親子関係の主要な機能は,親の子に対する養育に関連する〈しつけ〉と子の親に対する親孝行に関連すると思われる祖先祭祀であり,この二つは日本の家族の主要な機能ともなっている。
親子成り →親分・子分
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の親子の言及

【親子成り】より

…親子関係にない者が一定の手続を経て親子関係に類似した関係をとり結ぶことを一般に親子成りといい,親子成りによって成立する関係を仮の親子関係,親分・子分関係,擬制的親子関係,儀礼的親子関係などと一般的によんでいる。また,この関係における親を仮親という。…

【親分・子分】より

…日本の古代社会では政治的,宗教的,社会的な意味で,ウジ()やウジ連合共通の祖霊としてまつられたミオヤには御祖と当て字されもした。近世,近代にわたる日本の社会で,オヤとコという民俗語の示す生活組織は実に多様であって,漢字でそれに当てた親子という関係と,その擬制としての親分・子分として解するだけでは,近世日本の儒教や近代日本の政治イデオロギーないし欧米理論中心主義の学界風潮に毒されない,より深い日本文化=社会の実証的研究は達成されない。この観点が,柳田国男や有賀喜左衛門の,創造性に富んだ学風による多大な研究成果を生んだ。…

【子ども(子供)】より

…子どもの第2の意味である,〈親に対する存在としての子ども〉は〈こ〉という言葉のより古いあり方を示していよう。親子という言葉は現在では実の親子あるいは生みの親子に限定されて使用されているが,本来はそのような狭い限定的な意味ではなかったというのが有名な柳田国男のオヤコ論である。勢子(せこ),網子(あご),水夫(かこ),友子(ともこ)などさまざまな〈子〉が示すように,子は本来労働組織の構成単位としての人間を意味するものであり,それに対する親は労働組織・経営組織の指揮統率者のことであった。…

【実子】より

…実子は,その父母が法律上の婚姻関係にあるか否かによって,嫡出子と〈嫡出でない子〉に分けられる。一般に,親子間では実子が基本として構成されたのは,血縁に対する信仰があり,血縁至上主義が貫かれたからである。しかし今日の医学の発達により,血縁そのもののもつ意味が大きく変わり,実子とはなにかが新たに問われようとしている。…

【親類】より

…親族組織は特定の先祖を共通にする人々を組織化した祖先中心的親族組織と,現在生きている特定の個人を中心に組織化した自己中心的親族組織に大別することができる。日本にはこの二つの親族組織がみられるが,親類はこのうちの自己中心的親族組織の一種である。親類はオヤコ,オヤグマキ,イトコ,シンルイマキ,シンルイ,シンセキ,ヤウチ,イッケ,ハロウジ,キョーデーなど地域によって多様な民俗語彙で指示され,その内容も地域によって多様である。…

※「親子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android