西田税(読み)にしだみつぎ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「西田税」の意味・わかりやすい解説

西田税
にしだみつぎ
(1901―1937)

いわゆる昭和維新国家改造運動における青年将校のリーダー。明治34年10月3日鳥取県米子(よなご)市の仏具屋の家に生まれる。陸軍士官学校34期在校中から大アジア主義の影響を受け、さらに北一輝(きたいっき)の『支那(しな)革命外史』『日本改造法案大綱』を読んでこれに傾倒、陸士同期の秩父宮雍仁(ちちぶのみややすひと)に国家改造の必要を説き、『日本改造法案大綱』などを贈呈した。1922年(大正11)騎兵少尉に任官したが、1925年病気のため退官、予備役に編入され、大川周明(おおかわしゅうめい)主宰行地社(こうちしゃ)に入り、機関誌『月刊日本』の編集を担当、かたわら大学寮の寮監兼軍事学の講師となった。1926年大川対立、北一輝の門下に走り、以後北の忠実な弟子として生涯をともにする。この間多数の青年将校と交わり、代々木の自宅の集まりを「士林荘(しりんそう)」とよび、1927年(昭和2)7月「天剣党規約」「天剣党大綱」などを配布して憲兵隊の取調べを受けた。1932年の五・一五事件では計画途中陸軍青年将校の参加を拒んだためスパイ視され、15日自宅で井上日召の弟子川崎長光に拳銃(けんじゅう)で撃たれ瀕死(ひんし)の重傷を負った。1936年の二・二六事件に連座、翌年8月19日北一輝とともに銃殺された。

[大野達三]

『澤地久枝著『妻たちの二・二六事件』(1971・中央公論社)』『高橋正衛解説『現代史資料23 国家主義運動1・3』(1974・みすず書房)』『松沢哲也・鈴木正節著『二・二六事件と青年将校』(1974・三一書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「西田税」の意味・わかりやすい解説

西田税 (にしだみつぎ)
生没年:1901-37(明治34-昭和12)

国家改造運動推進者。二・二六事件の指導者。鳥取県出身。陸軍士官学校(34期)卒業。士官学校在学中に北一輝の思想に大いに啓発され,軍隊による国家改造を志す。1925年予備役となり,行地社に入るが,同社の内紛により退社し,北に師事した。同社および27年に設立した士林荘の活動を通して青年将校と北を結びつけ,7月ころ,士官候補生の卒業式に際して《天剣党規約》を配布,国家改造主義の立場を明らかにした。三月事件後,陸軍と海軍の青年将校を一時合同させたが,十月事件後合法的運動へ転進したため,五・一五事件で井上日召派から狙撃された。以後皇道派の一翼を担って,相沢事件公判闘争などを積極的に展開した。二・二六事件に際して逮捕され,翌年銃殺刑に処せられた。
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百科事典マイペディア 「西田税」の意味・わかりやすい解説

西田税【にしだみつぎ】

昭和前期の国家改造主義運動のリーダー。鳥取県出身。1922年陸軍士官学校卒。陸士在学中に北一輝の軍隊による国家改造論に深く共鳴,北のいた猶存(ゆうぞん)社に参加。1925年大川周明主宰の国家主義団体行地(こうち)社に入るが,内紛により退社,1927年には士林荘を結成した。こうした活動を通じて士官学校生や青年将校らと知り合い,信奉する北理論を彼らに広め組織した。二・二六事件では民間側の首謀者とみなされ,北とともに死刑に処された。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「西田税」の解説

西田税
にしだみつぎ

1901.10.3~37.8.19

昭和前期の国家主義者。鳥取県出身。陸軍士官学校卒。士官学校時代から国家主義的傾向を強め,予備役編入後,北一輝(いっき)の「国家改造案原理大綱」の理念を実現するため,行地(ぎょうち)社などを活動拠点に青年将校を組織。1927年(昭和2)には天剣党事件をおこした。軍隊を通じての国家改造をめざし,31年の10月事件などに関与。36年の2・26事件では民間側の主謀者の1人とされて北とともに死刑となった。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「西田税」の解説

西田税 にしだ-みつぎ

1901-1937 昭和時代前期の国家主義者。
明治34年10月3日生まれ。大川周明の行地社にはいったが,大川と対立して北一輝(いっき)の門下となり,国家改造運動に参加。昭和2年士林荘を設立して天剣党規約などを配布。五・一五事件で血盟団員に狙撃され負傷。11年二・二六事件に連座,12年8月19日処刑された。37歳。鳥取県出身。陸軍士官学校卒。

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世界大百科事典(旧版)内の西田税の言及

【北一輝】より

…ロンドン海軍軍縮条約反対のスローガンとなった〈統帥権干犯〉は北の造語ともいわれる。また西田税(みつぎ)を通じて皇道派青年将校に深い影響をあたえた。満州事変期には大川周明,権藤成卿らとともに国家改造をめざす運動の中心的指導者の位置を占めたが,その間,三井財閥から情報料として多額の活動資金を入手していた。…

【行地社】より

…機関誌として月刊《日本》を発行。初め満川亀太郎,笠木良明,安岡正篤,西田税など猶存社の主要メンバーが集まったので,当時最も有力な国家主義団体とみられていた。しかし,25年の安田生命争議や宮内省怪文書事件をきっかけに国家主義者間の大川派と北一輝派との対立が表面化すると,社内でも内訌(ないこう)がおきた。…

【日本改造法案大綱】より

北一輝の著作。北が1919年(大正8)8月に上海において書きあげ謄写版で印刷して配布した〈《国家改造案原理大綱》〉が内務省により発売頒布を禁止され,23年に改造社より〈《日本改造法案大綱》〉の題名で削除と伏字だらけで刊行され,26年に西田税の手により再刊され,28年(昭和3)には同じく西田の手で削除と伏字を復活させた版が刊行された。改革された在郷軍人会を実行主体とし,天皇大権を発動してクーデタを行うというこの〈改造法案〉は,西田税を媒介にして主として陸軍青年将校の支持を得て,二・二六事件を招来したことは有名である。…

※「西田税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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