西洋事情(読み)せいようじじょう

精選版 日本国語大辞典 「西洋事情」の意味・読み・例文・類語

せいようじじょう セイヤウジジャウ【西洋事情】

政治地誌歴史書。三編一〇冊。福沢諭吉著。慶応二~明治三年(一八六六‐七〇)刊。欧米を巡遊して得た知識見聞を基にアメリカオランダイギリスロシア、フランス各国の歴史、政治、文化などを紹介、説明したもの。幕末・明治初頭の人々に西洋近代社会を理解させ、対外知識を深めさせた教科書的な啓蒙書。

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デジタル大辞泉 「西洋事情」の意味・読み・例文・類語

せいようじじょう〔セイヤウジジヤウ〕【西洋事情】

欧米の紹介書。10巻。福沢諭吉著。慶応2~明治3年(1866~70)刊。遣欧使節随行で得た知識をもとに、西洋諸国の政治・風俗・経済制度などを紹介したもの。

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改訂新版 世界大百科事典 「西洋事情」の意味・わかりやすい解説

西洋事情 (せいようじじょう)

福沢諭吉が著した西洋文明と欧米5ヵ国の紹介書。〈初編〉1866年(慶応2),〈外編〉68年(明治1),〈二編〉70年刊。福沢は1862年(文久2),幕末遣外使節団の一員としてヨーロッパを訪れ,精力的に視察・調査を行い文献・資料を集め,本書はこれをもとに著された。執筆のねらいは,当時の西洋諸国を敵視して,これと戦うためにこれら諸国を知ろうとすること,あるいは西洋文明の受容が科学技術や兵学に限られるというゆがみを正し,西洋の実態を政治・社会制度の根本から正しく理解して,それにふさわしい国際関係をきずくことにあった(〈初編〉序言)。〈初編〉では,福沢自身のヨーロッパ視察・調査の記録をもとにして,西洋諸国に共通の政治・外交・科学技術・社会制度を説明する〈備考〉を掲げた後,アメリカ,オランダ,イギリス各国について,歴史と政治・軍事・財政の現状が紹介される。彼はさらに,西洋各国に共通する文明の根本原理を説明することが必要だと考え,チェンバースの《政治経済学》を基礎とし,ウェーランドの《政治経済学要綱》などからも抄訳し,〈外編〉とした。福沢は,なお西洋理解の基礎を確かなものにするため,〈二編〉でもブラックストンの《イギリス法注解》とウェーランドの《政治経済学要綱》を抄訳して始めに収め,そのうえでロシア,フランス両国を紹介した。《西洋事情》は,それまで主として中国の書物を通して西洋を知ってきた日本における最初の,自前の西洋紹介書であり,本書の西洋理解は中国や朝鮮のそれにぬきんでていた。《西洋事情》は幕末・明治初年に日本の上下を通じて広く読まれ(〈福沢全集緒言〉によれば〈初編〉だけで15万部,偽版も含めれば推定20万~25万部刊行),攘夷論から開国論への転換,さらに〈政体書〉など明治新政権の政策にも大きな影響を及ぼした。その余波は朝鮮の開化派にも及び,彼らの改革構想には本書によるものが見られる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「西洋事情」の意味・わかりやすい解説

西洋事情
せいようじじょう

西洋文明を紹介した福沢諭吉(ゆきち)の名著。3編からなり、初編は1866年(慶応2)、外編は68年(明治1)、2編は70年の刊行。西洋諸国の歴史、制度、国情、西洋文明社会に共通する文物や社会、人間のあり方を紹介して、鎖国から解かれたばかりの当時の人々にとって好個の西洋世界入門書となり、ベストセラーとなった。ほとんどが洋書を種本としているが、新聞、病院、貧院、図書館の紹介、アメリカ独立宣言の紹介、自由自主や人間の権利を中心とした文明社会の解説は、福沢の鋭い洞察力を示すものである。

[広田昌希]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「西洋事情」の解説

西洋事情
せいようじじょう

福沢諭吉の著作。幕府の遣外使節に3度随行して実見した西欧の知識と原書の抄訳などにより,西洋諸国の諸制度を紹介。1866年(慶応2)初編3冊,68年(明治元)外編3冊,70年2編4冊を刊行。初編は政治にはじまる文物・制度の説明と,アメリカ・オランダ・イギリスの歴史・政治・海陸軍・財政について,外編ではチェンバーズ社の経済書で社会関係をのべ,2編でブラックストンのイギリス法による人間の通義,ウェーランドの経済書で収税論を論じ,初編でもれたロシア・フランスにもふれている。偽版も含めると25万部売れたともいわれ,福沢の評価を高めた。

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旺文社日本史事典 三訂版 「西洋事情」の解説

西洋事情
せいようじじょう

幕末,福沢諭吉の著した啓蒙書
1866〜70年刊。3編10冊。福沢が外遊で得た見聞と書物から,西洋近代社会の原理や欧米各国の政治・経済・歴史・思想・軍事などの概略を紹介。その啓蒙的役割は大きく,発行部数は15万部をこえた。

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世界大百科事典(旧版)内の西洋事情の言及

【地理教育】より

…地形,気候などの自然条件と,そこに展開されている人間生活との関係を理解すること,さらに郷土や国土および諸外国についての学習が中心となる。
[歴史]
 明治初期の内外情勢の急激な変化に伴い,世界についての知識が渇望されるなかで,福沢諭吉の《西洋事情》《世界国尽》をはじめとする啓蒙書が広く読まれ,地理教育の一翼をになったが,学校における地理の授業も大きな役割を果たした。1872年(明治5)の〈学制〉成立によって地理教育は,小学校では〈地学読方〉〈地学輪講〉として行われ,翌年の改正小学教則で〈地理学読方〉〈地理学輪講〉に改められ,授業時数が若干減らされたものの,算術,習字などに次ぐ教科として位置づけられていた。…

【福沢諭吉】より

…60年(万延1)最初の幕府使節のアメリカ派遣に際し,軍艦奉行木村摂津守の従者となって渡米,以後61‐62年(文久1‐2)のヨーロッパ6ヵ国派遣使節,67年(慶応3)の遣米使節の一員として3回にわたり西欧の文化をその母国において摂し,〈封建門閥〉の重圧の下で実力をのばす機会を模索していた彼は〈変革〉,開国と〈富国強兵〉への構想をはぐくみはじめる。幕末・明治初年のベストセラーとなって日本社会の上下に大きな影響を与えた《西洋事情》(1866‐69)は,この文化接触の経験にもとづいて著された。 最初のアメリカ行から帰った年に福沢は幕府外国方に雇われ,1864年(元治1)に召し出されて幕臣となった。…

【ベストセラー】より

…ベストセラー(ズ)という語は,1895年アメリカの文芸雑誌《ブックマンThe Bookman》によって広められ,日本には1914年1月に《学鐙》誌上の広告で紹介されたが,定着したのは第2次大戦後である。
[第2次大戦前]
 明治初期のベストセラーは福沢諭吉の著作で,とくに《西洋事情》(1866‐70)は偽版も加えると20万部以上に達した。このほか中村正直《西国立志篇》(1871),矢野竜渓《経国美談》(1883‐84),東海散士《佳人之奇遇》(1885‐97)などがベストセラーであった。…

※「西洋事情」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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