西廂記(せいそうき)(読み)せいそうき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「西廂記(せいそうき)」の意味・わかりやすい解説

西廂記(せいそうき)
せいそうき

中国、元(げん)の雑劇(ざつげき)作品。「せいしょうき」ともいう。王実甫(おうじっぽ)作。13世紀後半、雑劇が大都(だいと)(北京(ペキン))を中心として最初の隆盛期を迎えた時期の作品。遊学の途中の書生張珙(ちょうきょう)と崔相国(さいしょうこく)の娘鶯鶯(おうおう)が、蒲州(ほしゅう)(山西省東郊の普救寺を舞台に繰り広げる物語は、もとは元稹(げんしん)の小説『鶯鶯伝(会真記)』から出ている。唐の伝奇小説では、女が家柄の差をあきらめて身を引いて他に嫁して終わるが、宋(そう)代以降の民間演芸に語り継がれるなかで、文学土壌の変化を写して、あえて、封建道徳の教えにあらがい、父母の決めた婚約者を押しのけて恋を成就するものに変わっていく。侍女紅娘(こうじょう)の助けを借りて、2人がついに相国未亡人に結婚を認めさせ、張珙の状元(じょうげん)及第任官を待って団円するというストーリーは、すでに諸宮調(しょきゅうちょう)『董解元(とうかいげん)西廂記』に語られているところだが、王実甫はそれを改めて5本21折の長編雑劇に脚色した。純粋で誠実な張珙、ためらいつつも大胆な鶯鶯、聡明で溌剌(はつらつ)とした紅娘、頑迷固陋(ころう)の相国未亡人と、登場人物の性格がすっきりと描き分けられ、場面構成もより多彩になって、諸宮調を超える高い文学的完成をみせている。優美な雅文調に口語生気を調和させた曲詞もまた元曲の代表的な達成の一つにあげられ、後続戯曲に多大の影響を与えた。通例の雑劇を5本重ねて、主要人物がみな歌う場面をもつという、雑劇としては破格の構成であったことも幸いして、明(みん)代に入って流行の中心が長編構成の南曲伝奇に移ったのちも、北曲脚本としては例外的に、南方の地方調の演劇に移されて上演が続けられた。伝奇『琵琶記(びわき)』と並んで数多くの評注校刊本が出版されたが、清(しん)代に入って金聖嘆(きんせいたん)の、末尾4折を削って張珙の旅立ちを結末とした悲劇仕立ての『第六才子書西廂記』が出てからは、もっぱらそれが読まれた。明・清2代の伝奇、雑劇には、李日華(りじっか)、陸采(りくさい)の両『南(曲)西廂記』をはじめ多数の改編本、続編本がつくられている。

[傳田 章]

『田中謙二訳「元曲西廂記」(『中国古典文学大系 52 戯曲集 上』所収・1960・平凡社)』

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