西夏文字(読み)セイカモジ

デジタル大辞泉 「西夏文字」の意味・読み・例文・類語

せいか‐もじ【西夏文字】

西夏で用いられた表意文字。1036年国定文字として公布され、以後400年余り使われた。漢字によく似た形をもち、総数六千数百字。縦書きで、楷書行書草書篆書てんしょの書体がある。日本の西田竜雄により、その大部分解読された。

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精選版 日本国語大辞典 「西夏文字」の意味・読み・例文・類語

せいか‐もじ【西夏文字】

〘名〙 西夏語の文字。一〇三六年に公布、約四〇〇年間使われた。漢字にならって作られており、総数六一三三字、楷書・草書・行書・篆書(てんしょ)体がある。日本の西田龍雄により解読された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「西夏文字」の意味・わかりやすい解説

西夏文字
せいかもじ

1036年に公布されて、以後約400年余り使われた西夏国の国定文字。全部で六千数百字あって、書体には、楷書(かいしょ)、行書、草書、篆(てん)書がある。漢字によく似た形をもち、偏、旁(つくり)、冠(かんむり)などの要素の組合せでつくられるが、漢字とは違って象形字や指事字はなく、西夏人の独特の発想を背景として構成される会意字が圧倒的に多く、形声字もある。たとえば、「血」に皮偏をつけると「血管」になり(会意)、「空(から)」ngahを音符として「注ぐ」ngahがつくられる(形声)。左右に同じ要素を並べたり(「集」、「双」)、要素の配置を左右逆にしてつくられる対称文字「人」と「心」、「盗む」と盗人」も特徴的である。また、基本字から派生字をつくるのに二つの手順があった。〔1〕基本字に別の要素を添加する接合法、「切る」に「金冠(かねかんむり)」をつけて「のこぎり」。〔2〕基本字の一部を別の要素と入れ替える置き換え法、「文字」の旁を「造る」の偏と置き換えて「筆」。

 文字相互の間の関連づけがおもしろい。西夏人がこのような表意文字を考案したのは、単に漢字を模倣しただけではなく、西夏国内でいろいろのことばを話す少数部族に、どのように発音しても同じ意味を伝達できる便利な通達手段を与えるためであった。種々の仏教経典、論典はもとより、法律文書、文学、詩、格言からおみくじに至るまで、多量の資料が残り、西夏人の日常生活もこの文字によって記録されている。西夏国滅亡以後もなおこの文字は使われていた。

西田龍雄]

『西田龍雄著『西夏文字――その解読のプロセス』(1980・玉川大学出版部)』『西田龍雄著『西夏文華厳経』全3巻(1975~77・京都大学文学部)』『西田龍雄著『アジアの未解読文字』(1982・大修館書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「西夏文字」の意味・わかりやすい解説

西夏文字 (せいかもじ)

西夏国(1032-1227)の国定文字として,1036年に公布され,西夏国滅亡後も使われていた文字。西夏語の表記に用いられた。最も年代の新しい資料は,近年,中国河北省保定で発見された明代初期の碑文である。建国の英主,李元昊(りげんこう)が野利仁栄(やりじんえい)に作らせたと伝えられる。全体で6133字あり,漢字と似て約300種の冠(かんむり),偏,旁(つくり)などの要素を組み合わせて(44通り)構成され,形声字,会意字が多い。たとえば,木冠に〈先端〉は梢,水偏に〈重い〉は沈む,金冠に〈二つに切る〉は鋸(のこぎり)などの会意字の作り方には,西夏人の独特の思考が反映されていてたいへんおもしろい。字形の構成法はほぼ解明されており,基本字の一部を置き換える方法,別の要素を添加する方法,魚と水,太と大のように左右あるいは上下の要素を入れ替えて対称にする方法など,種々の派生法があった。この文字は上から下へたて書きされ,行は右から左に移る。時代による字形の改変は少なく,書体には楷書体のほかに草書,行書,篆(てん)書体があった。

 西夏文字資料は多量に現存し,〈死の町〉ハラホトから持ち帰ったサンクト・ペテルブルグにあるコズロフ・コレクション,ロンドンにあるスタイン収集品,そして北京図書館の蔵本が有名である。また,フランスと日本に少量の写本,刊本(木版本,木活字本)がある。400点に及ぶ仏典の翻訳(漢文とチベット文から)や《論語》《孟子》《孝経》などの中国古典の訳本のほかに,韻書,詩書,法律書などの西夏人の創作をはじめ,医学,占い,契約文書などが残され,当時の西夏人の日常生活のありさまを伝えている。
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百科事典マイペディア 「西夏文字」の意味・わかりやすい解説

西夏文字【せいかもじ】

中国,西夏で行われた文字。楷書(かいしょ),行書などいくつかの書体があり,右からの縦書き。多くは表意文字で,漢字の構成法を模倣して6000字ほど作られている。音価など不明のものがかなりある。近年西田竜雄によって解読された。
→関連項目カラ・ホト西夏語西田龍雄

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「西夏文字」の解説

西夏文字(せいかもじ)

タングート語表記のために西夏でつくられ使用された文字。創製者については諸説あるが,李元昊(りげんこう)が1036年に公布したとされる。漢字の影響を受け,漢字の部首にあたる300種以上の文字要素を数十の方法で組み合わせて合成される複雑な字体を持つ。文字構成要素の大部分は表意文字である。漢訳やチベット訳から重訳された仏典,碑文,辞書など多数の文献が発見され,日本やソ連の学者によって解読が進んだ。西夏の滅亡後も使用され,北京北方の居庸関(きょようかん)などに残っている。

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旺文社世界史事典 三訂版 「西夏文字」の解説

西夏文字
せいかもじ

タングートの建国した西夏でつくられ用いられた文字
景宗李元昊 (りげんこう) の創製になるなど,諸説がある。全6133字。漢字を模倣して構成され,ほとんどが表意文字。合成文字が多く,書体に楷書・行書・草書・篆 (てん) 書があって,複雑であるが,今日ほぼ解読されている。『大蔵経』の刊行や漢籍の翻訳など盛んに行われ,西夏滅亡後もなお元代まで用いられた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「西夏文字」の意味・わかりやすい解説

西夏文字
せいかもじ
Xi-xia wen-zi; Hsi-hsia wên-tzǔ

西夏王国でタングート語を書き写すためにつくられ,用いられた文字。漢字に似た外見と構造をもち,6133字ある。現存するこの文字で書かれた文献には,仏典の翻訳,辞典などがあり,多く敦煌から出た。

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世界大百科事典(旧版)内の西夏文字の言及

【西夏】より

…また榷場貿易ではラクダ,馬,牛,羊,毛氈などのほか,甘草,蜜蠟などを輸出して,絹織物,香薬,磁器,漆器などを輸入した。
[文化]
 李元昊は西夏文字の創造に独立意識を燃やし,この文字を公布した広運3年(1036)を記念して,年号を大慶元年と改めた。以後,西夏国の公用語は,おそらくそれまで使われた漢語に替わって西夏語となり,公用文字は西夏文字に定められた。…

※「西夏文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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