複眼(読み)ふくがん(英語表記)compound eye

翻訳|compound eye

精選版 日本国語大辞典 「複眼」の意味・読み・例文・類語

ふく‐がん【複眼】

〘名〙
節足動物甲殻類昆虫類・カブトガニ類・ムカデ類に通常一対ある眼。多数の個眼により形成される(イエバエで四千、トンボで一万~二万八千)。個眼の表面は六角形または五角形で密に並んでおり、それぞれの個眼は角膜レンズ円錐晶体からなる光学系と通常七個の視細胞とそれを取り巻く色素細胞から成る。
※動物小学(1881)〈松本駒次郎訳〉下「蟻の複眼〈略〉には五十の小眼ありて」
② 多くの人の目。また、いろいろな立場角度から物事を見ること。

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デジタル大辞泉 「複眼」の意味・読み・例文・類語

ふく‐がん【複眼】

節足動物などにみられる、多数の小さな個眼が束状に集まった目。物の形や動きの識別ができ、昆虫では紫外線偏光も識別。⇔単眼
対象をいろいろの見地から見ること。

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改訂新版 世界大百科事典 「複眼」の意味・わかりやすい解説

複眼 (ふくがん)
compound eye

節足動物の昆虫類と甲殻類などにある1対の側眼は,多数の個眼ommatidiumが集まってできた眼で,複眼と呼ばれる。それぞれの個眼は1個のレンズをもち,その下に少数(8~9個)の視細胞があり,隣接する個眼との間には色素細胞がある。個眼の数は原始的な甲殻類ではわずか数個とひじょうに少ないこともあるが,多いものでは数千個あり,大型のトンボでは1万個から2万個以上にもなる。

 複眼には各個眼の感杆(かんかん)が円錐晶体の直下に接し,色素細胞が各個眼を包み,隣接する個眼が光学的に分離されている連立像眼(図左)と,感杆が個眼の中枢側に偏在し,感杆層と円錐晶体層の間に透明帯があり,色素細胞の色素は暗時には上下に移動する重複像眼(図右)がある。連立像眼はおもに昼行性昆虫に,重複像眼はおもに夜行性昆虫に見られる(セセリチョウは例外的に昼行性だが,重複像眼をもつ)。重複像眼では隣接する個眼のレンズを通って屈折してきた光が一つの感杆に重なって重複像ができるので,暗所で見るのに適している。昼間は色素が拡散し,各個眼は光学的に独立した単位となる。

 複眼では一般に隣接する個眼間の視軸の傾きと各個眼の視細胞の受容角はほぼ等しく,これが分解能を決めている。複眼の分解能は通常2~3度である。しかし,動物によっては複眼の部分により感度が異なる。カマキリやトンボの複眼では両眼視に関係する部分にとくに分解能のよい部分があり,偽中心窩(ぎちゆうしんか)と呼ばれる。昆虫のうち昼行性で速く飛ぶハエやミツバチの複眼は,200~300Hzという高いフリッカー融合頻度を示し,動くものに対して敏感である。しかし,甲殻類や直翅(ちよくし)類などの動きの遅いものの目のフリッカー融合頻度は50Hz以下である。

 昆虫の複眼はすぐれた色彩弁別能をもっており,緑と青と紫外線にそれぞれ感度がよい3種の視細胞が見いだされている。また,複眼は偏光を解析できることで,脊椎動物の眼とおおいに異なる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「複眼」の意味・わかりやすい解説

複眼
ふくがん

昆虫および甲殻類の頭部に一対あり、これらの動物に特有な目をいう。個眼とよばれる光受容単位が多数集合してつくりあげているのでこの名がある。個眼は、キチン質からなる透明な凸レンズ状の角膜、集光した光の通り道である4個のガラス体細胞、それらの間隙(かんげき)を埋めているガラス体(円錐(えんすい)晶体)、細長く伸びる7~8個の視細胞とその中心にある感桿(かんかん)(受光部)を主要な部分としている。視細胞の最奥部は神経繊維となって光刺激を脳に伝える。この個眼は、洞穴動物や土壌昆虫のように退化してしまったものは除いて、比較的少ないイエバエで400、もっとも多いトンボの類で2万8000ぐらいが集合して複眼を構成する。各個眼の角膜は六角形で、互いにすきまなく並んで球面状の複眼表面を埋め尽くしている。各個眼で受光する光刺激が全体としてどう総合されるかは明らかではないが、一つのレンズで像をつくる脊椎(せきつい)動物のカメラ眼と同様、像を見ていることが知られている。その解像力(近接した2点の間を区別する能力)は、ミツバチの場合ヒトの100分の1、ショウジョウバエで1000分の1とされている。複眼では動くものを感じ取ることもできる。複眼をもつ昆虫の色覚はヒトに比べて短い波長側に感受性が高く、紫外線の部分まで感じ取るという。このほかミツバチで偏光の方向を認める働きのあることが調べられている。

[竹内重夫]


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百科事典マイペディア 「複眼」の意味・わかりやすい解説

複眼【ふくがん】

多数の個眼がハチの巣のように集合してできた眼。昆虫類・甲殻類・カブトガニ類などの頭部または頭胸部にふつう1対ある。複眼を構成する個眼の数は数個(原始的な甲殻類)から2万個以上(トンボ)のものまである。各個眼が光学的に分離されている連立像眼と部分的な重複が起こる重複像眼とに大別され,主として前者は昼行性,後者は夜行性の昆虫に見られる。昆虫の複眼にはすぐれた色覚があり,緑,青,紫外線に特に敏感なほか,偏光を識別することもできる。
→関連項目昆虫単眼

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「複眼」の意味・わかりやすい解説

複眼
ふくがん
compound eye

昆虫類,甲殻類などがもつ眼で,小さな個眼が多数集合してできている。頭部に通常1対ある。個眼は太さがおよそ 10~100μmの細長い棒形で,レンズに相当する角膜と水晶体,光刺激の感受部位である感桿と視細胞,およびこれらを取巻く色素細胞とから成る。複眼による像形成は,色素の移動の仕方により連立像眼と重複像眼の2タイプに分けられているが,実際にどのような像が形成されるかは明らかでない。1個の複眼を形成する個眼の数は種によって異なり,トンボ類で1万~2.8万個,イエバエで 4000個である。

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世界大百科事典(旧版)内の複眼の言及

【単眼】より

…昆虫の成虫にみられる複眼とは異なる簡単な構造の眼や,完全変態する昆虫の幼虫の眼を単眼ocellus(複数形はocelli)という。成虫単眼は背単眼dorsal ocellus,幼虫単眼は側単眼lateral ocellusともいう。…

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