裏・裡(読み)うら

精選版 日本国語大辞典 「裏・裡」の意味・読み・例文・類語

うら【裏・裡】

〘名〙 物事において、人の目にふれない部分。また、二面ある物事のうちで、人目につかない側面。⇔おもて
[一] おおわれたり囲まれたりしている、物事の内側や内面の部分。
① ある限られた範囲のうち。内部。うち。なか。
※万葉(8C後)一五・三七五〇「天地のそこひの宇良(ウラ)に吾(あ)が如く君に恋ふらむ人は実(さね)あらじ
② 物事の表面にあらわれないところ。隠れているところ。
四河入海(17C前)一八「我が詞の裏にはなんでかあるらう」
③ 外部からは簡単にうかがうことのできない部分。また、内に秘められた物事。
(イ) 公表をはばかるような事情。内幕。内情。
※熊の出る開墾地(1929)〈佐左木俊郎〉「作事って、何が裏にあったんだらうか?」
(ロ) 正式でない違法の手段。抜け道
※労働者誘拐(1918)〈江口渙〉「あっちぢゃ検査は大へんゆるいんだ。ちょっと裏からうまくやればどうにでもなるからなあ」
④ 表だたない、簡略にされた物事。本格的でない技術や方法。
※わらんべ草(1660)一「拍子に、本、末、上、中、下、裏、表、やこゑにも、うくると、うけざると、陰、陽、順、逆あり」
[二] 一対をなすものの補助的な方。
① 物の正面の反対側。通常目に見える面の反対側。また、後ろ側、下部、背部、内側などの部分。
※蜻蛉(974頃)下「右の方の足のうらに」
※源氏(1001‐14頃)常夏「点がちにて、うらには『まことや、くれにもまゐりこむと思う給へたつは、〈略〉』とてまた端(はし)にかくぞ」
② 衣服の内側や重ねた衣服の下の方。
(イ) 衣服などの内側につける布。裏地。
※万葉(8C後)一八・四一二九「針袋取り上げ前に置き反(かへ)さへばおのともおのや宇良(ウラ)も継ぎたり」
(ロ) 襲(かさね)の色目の下に重なっている方。
※枕(10C終)八三「桜の直衣のいみじくはなばなと、裏のつやなど、えもいはずきよらなるに」
(ハ) 鎧などの内側。→裏をかく
草木の葉の裏面
※家持集(11C前か)秋「神なびのみむろの山の葛かづらうら吹きかへす秋は来にけり」
④ 連歌、俳諧で、二つに折った懐紙の裏面。また、そこに記した句。たとえば、一巻三六句のものでは、懐紙を二つ折りにして、第一面に六句書いて、これを「表」六句といい、七句から一八句までをその裏面に書いて「初裏」一二句という。次は「二の表」一二句、最後が「二の裏」または「名残の裏」六句である。特に「初裏」をさす場合もある。
※人情本・春色玉襷(1856‐57頃)二「漸(やっ)と表丈(だけ)出来たが、裏の二句目がひどく附け悪(にく)くって」
⑤ 家屋の後ろの部分。
(イ) 家屋の大通りに面していない部分。玄関と反対の側。また、家屋またはその敷地の後ろに続く地。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※浮世草子・好色盛衰記(1688)一「うらの広き家を買てもらひます」
(ロ) 特に、便所をさしていう。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※咄本・鳥の町(1776)億病「大をくびゃうなる侍、夜うらへ行に気味わるく思ひ」
⑥ 裏通り。露地。街の一角で、表通りに面しない部分。
※雑俳・扇の的(1716‐36)「囲い者囲者産み古い裏(ウラ)
⑦ 身体の後部。
(イ) 腹部と反対の方。背面。背中。
浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油屋「一と寝入りしてこまそと裏(ウラ)へ転(こ)け込む」
(ロ) 肛門。転じて男色をいう。うらもん。
※雑俳・柳多留拾遺(1801)巻一〇「弘法も只は居まひとうらを行き」
⑧ (富士谷成章の「脚結抄(あゆいしょう)」に見える術語) 言語主体が自分のことを述べること。〔あゆひ抄(1773)〕
⑨ 遊里の語。
(イ) 第二回目の登楼をいう。二会。二会目。江戸時代、初会のあと、「うらを返す」といって、間もなく二度目の登楼をすべきものとされていた。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)二「此裏を仕懸ける身代の器量があれば」
(ロ) 深川の岡場所、裏櫓(うらやぐら)略称
※洒落本・辰巳之園(1770)「裏(ウラ)関口に清兵衛や忠公が居るゆへ」
⑩ 劇場で、舞台に向かって左側。また、おもて(舞台)に対して舞台の背後、楽屋。〔随筆・守貞漫稿(1837‐53)〕
⑪ 野球で、先攻のチームが守備にまわっている時をいう。
⑫ (裏番組の意) テレビやラジオで、ある番組と同じ時刻に放送されている他局の番組。
※大統領の密使(1971)〈小林信彦〉三「よし、裏(番組)は、どうだ?」
[三] 一方の側から見た正反対。相反するような物事。
① 逆。反対。「うらはら」「うらうえ」など。
※寸鉄録(1606)「これ仁者のこころ也。不仁者は、このうらなり」
② 本心とはかけ離れたこと。多く「うらを言う」という表現をとる。
※日葡辞書(1603‐04)「Vrauo(ウラヲ) ユウ」
③ 相手の予想に反すること。多く「うらをかく」「うらへ回る」「うらを行く」などの表現をとる。
※道草(1915)〈夏目漱石〉一三「彼の態度は明かに此予期の裏(ウラ)を行った」
④ 命題の仮定と結論とをともに否定して得られる命題。すなわち、「AであるならばBである」という命題に対して、「AでなければBでない」という形の命題をいう。裏命題。

り【裏・裡】

[1] 〘名〙
① 物のうらがわ。うら。また、内部。うち。
※文明本節用集(室町中)「以賞為表以罰為(り)」 〔詩経‐邶風・緑衣〕
② 特に、体の奥。古く医学の用語で、「理」「利」の字をあてて用いることもある。
[2] 〘語素〙 状態を表わす漢語に付いて、その状態のうちに物事が行なわれることを表わす。「秘密裏に事件を処理する」
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生の人生観「真に生きる実践的な力を得、不退の安心裡に住し得る底の現実力となって来なくては嘘だと」 〔無門関〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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