被物(読み)かずけもの

精選版 日本国語大辞典 「被物」の意味・読み・例文・類語

かずけ‐もの かづけ‥【被物】

〘名〙 (「かつげもの」とも)
① 人の労をねぎらい、功を賞して与える衣服類。衣服類を相手の肩にうちかけて与えたところからいう。祿(ろく)纏頭(てんとう)
書紀(720)天智元年五月(北野本訓)「褒(ほ)めて爵祿(カつけモノ)賜ふ」
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「あるじの事すべきに、はやかづけものの事せさせ給へ」
祝儀として人に与える品物金銭芸人などに与える祝儀。纏頭(はな)
人情本・春色江戸紫(1864‐68頃)二「彼のお花には取わきてかづけ物など多くあたへ」
外観だけよく見えて中身の悪いもの。くわせもの。にせもの。
浮世草子・色里三所世帯(1688)中「さもしくかづけ物にはあらず」
④ だまされて、自分のしたこととして負わせられること。他人のはらませた子を、自分の子だとだまされて負わせられること。また、その子。
※浮世草子・庭訓染匂車(1716)二「かづけ物かもしれねども」

かぶせ‐もの【被物】

〘名〙
① だまして他へおしつけた物。
※浄瑠璃・行平磯馴松(1738)一「弟の業平と、二条の后がててくって、其間懐胎せしを、父帝へかぶせ物」
表面だけを、立派なもののようにしてごまかしたもの。まやかしもの。
※浮世草子・世間化物気質(1770)二「かやうなかぶせものとは、中々以て暫時も置事叶はず」
歌舞伎の下座音楽で、あらかじめ定められている鳴り物に、新しく別の音を加えること。また、その鳴り物。

かずき‐もの かづき‥【被物】

〘名〙 (「かつぎもの」とも)
① 頭にかぶるもの。被衣(かずき)帽子など。かぶりもの。
※虎明本狂言・眉目吉(室町末‐近世初)「なふなふ、はやうかつき物をとらさせられひ」
② 自分の負担損失となるもの。やっかいもの。しょいこみ。
※浮世草子・色里三所世帯(1688)下「なさけない事は此床のわるさ肌(はたへ)ひややかにして御茶入むしゃうに広沢のかづき物」

きせ‐もの【被物】

〘名〙
① 衣服など、物の表面にかぶせ着せるもの。きせるもの。かぶせるもの。
※玉塵抄(1563)四五「ひろう大にくびを打ををうやうに癭をかくすきせものをぬうぞ」
② ある物の上に他の物をかぶせ包み、それと見せかけるもの。かぶせもの。〔羅葡日辞書(1595)〕

ひ‐もつ【被物】

〘名〙 労をねぎらい、功を賞して与える衣服類など。かずけもの。ひぶつ。
吾妻鏡‐文治四年(1188)正月八日「心経会也。〈略〉事訖賜御布施。導師分被物二重。馬一疋」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の被物の言及

【祝儀】より

…今日でも,地方の農村などには祝儀不祝儀と称し,祝儀をとくに婚礼およびその祝いの金品の意に用いているところもある(不祝儀は葬式,香奠)が,一般には御祝儀にあずかると称して正規の報酬とは別にその労をねぎらい謝意を表して贈る心付けのことを指す場合が多い。被物(かずけもの),纏頭(てんどう),花ともいう。被物,纏頭は祝儀として与えられた衣装を肩に掛けたり頭に載せたりする作法に由来し,花は物を贈るのに古くは花の枝を添えたことによる。…

※「被物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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