表音文字(読み)ひょうおんもじ

精選版 日本国語大辞典 「表音文字」の意味・読み・例文・類語

ひょうおん‐もじ ヘウオン‥【表音文字】

〘名〙 (「ひょうおんもんじ」とも) ことばを音声の面から分析して、その一つ一つの音声に対応させた文字。一字一字は音を表わすだけで、特定の意味を表わさない。かな、ローマ字の類。音字。
※閑耳目(1908)〈渋川玄耳文学の視覚的美感「羅馬字(ローマじ)其他の表音文字(ヘウオンモンジ)を専用するに至れば」

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デジタル大辞泉 「表音文字」の意味・読み・例文・類語

ひょうおん‐もじ〔ヘウオン‐〕【表音文字】

文字の分類の一。一つ一つの字が意味をもたず、音のみを表す文字。かなローマ字梵字など。音節文字音素文字とがある。音字。音標文字。→表意文字
[類語]文字文字もんじ鳥跡ちょうせき鳥の跡用字表記点画てんかくレター邦字ローマ字アルファベットハングル梵字ぼんじ大文字小文字頭文字イニシャル英字数字漢字仮名真名片仮名平仮名万葉仮名字母表意文字音字意字象形文字楔形くさびがた文字甲骨文

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改訂新版 世界大百科事典 「表音文字」の意味・わかりやすい解説

表音文字 (ひょうおんもじ)

言葉を音声面と関連づけて表記する文字をいい,表意文字に対する。単音ごとに表記する単音文字音節単位で表記する音節文字に分類できる。ラテン・アルファベット(ローマ字)は前者を代表し,日本の仮名文字は後者を代表する。現在地球上で使われる文字の大部分は表音文字であり,なかでも単音文字が大勢を占めている。表音といっても言葉の音声面の単位と厳密に対応させて書き表す文字はほとんどなく,その形態をまとめると,次の四つのタイプになる。

 (1)子音のみを書き表し,母音は原則として書かないタイプ。母音文字はあるが規則的な母音の変化が文法意味を担うため,文脈に応じて母音を補って読む。アラビア文字が代表するセム系文字の一般形態である。(2)子音・母音・子音のように子音字と母音字が同じ資格で並べられるタイプ。ローマ字がこれを代表する。(3)子音文字が主体で母音文字を子音字の上・下,左・右につけて表記するタイプ。子音文字は単独ではa母音またはo母音をつけて読む。デーバナーガリー文字などインド系文字一般の形態である。(4)子音と母音の組合せを一つの字形で書くタイプ。これは日本の仮名,クレタ線文字Bなどである。

 (1)(2)(3)は単音文字に属し,(4)は音節文字である。それぞれのタイプの中で,字形の作り方はさまざまで,(2)にはローマ字のように,たとえばaはどの位置でも同じ字形で書き表されるのに対して(大文字・小文字の使い分けは別にする),語頭,語中,語末の位置で違った字形を使う蒙古文字のような形態もある。また(4)には,中国の規範イ(彝)文(イ文字)のように子音と母音と声調を一つの独立字形で書く文字も含まれる。また,ハングルや中国の注音符号などははじめから表音文字として作成されたが,ローマ字のようにもともとは表意(象形)字であったのが,(1)のタイプの表音字に変わり,そしてギリシア人が母音を補足して(2)のタイプの文字を完成させたといった経過をたどった文字の方が多い。日本の仮名も表意文字である漢字から来源しているし,規範イ文もその起源は同じく象形文字であった。現在新たに表記法を考案する必要のある民族の多くは,最も簡便な表音字ラテン・アルファベットを採用している。
アルファベット →仮名 →文字
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「表音文字」の意味・わかりやすい解説

表音文字
ひょうおんもじ

各字の示す単位が音韻形式、いいかえれば、(1)語形を分割した音節、または(2)音節をさらに分割した子音と母音、に対応する文字体系。つまり、(1)音節文字と(2)字母文字のこと。また、古代文字の表音的部分。漢字など単語文字logographは、一定の形式(音韻)と一定の内容(意義)に結び付いていて、それだけで語義が見やすいので、表意文字ideographとされる。しかし、読音(表音機能)からは離れられない。「木(き)」は、生えてもいるが、「木(もく)」は、筋目だった材である。音韻なくして語は定まらない。音節文字や字母文字では、語形が細かくばらされ、つねに前後をたどらなければ、意義もくみ取りにくい。語をつづらなければならない文字が表音文字phonographとよばれる。そのうち、(1)音節文字syllabographには、(a)開音節(子音+母音)型の「仮名」、(b)開・閉音節(母音+子音)型の「古代ペルシア文字」、(c)子音中心型(アルファベットまがい)の「アラビア文字」やインド系諸文字など、(2)字母文字alphabetには、(a)つなぎ書きの「モンゴル文字」、(b)横並べの「ラテン文字」、(c)音節まとめ書きの「ハングル(朝鮮文字)」などがある。

 注意すべきは、仮名書きが1音節を2字または3字で記す場合が多くあることである。たとえば、「今日」の「今(コン)」は一音節だが、「コン」と2字。「きょう」と読んで、1音節なのに仮名では3字になる。むしろ、漢語を漢字表記のままで見れば、1字1音節が実現していることが多い。

[日下部文夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「表音文字」の意味・わかりやすい解説

表音文字
ひょうおんもじ
phonogram

言語単位としての音節または音素を表わす文字。前者を音節文字と呼び,後者をアルファベット (音素文字) と呼ぶ。音節文字の例としては日本のかながあり,アルファベットの例としてはローマ字やギリシア文字がある。またハングルのように音素を表わす要素を組合せて音節を表わす一個の文字をつくったり,デーバナーガリー文字のように母音を付属的な符号で表わしたりする方式は,音節文字とアルファベットとの中間をいくものといえよう。歴史的には,表意文字から音節文字へ発達し,音節文字からアルファベットが出てきた。なお表音といっても音声記号などと違って,その言語の音を発音されるとおりに忠実に表わすものではないのが普通である。

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百科事典マイペディア 「表音文字」の意味・わかりやすい解説

表音文字【ひょうおんもじ】

音だけを表す文字。表意文字の対。アルファベットのように単音を表す音素文字・単音文字と,仮名のように音節を表す音節文字に二大別される。漢字でも万葉仮名のように使えば表音文字になる。→文字

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「表音文字」の解説

表音文字(ひょうおんもじ)
phonogram

仮名やアルファベットのように,語の音を表現する文字。音節文字と単音文字(音素文字)に分かれる。実用的目的から表意文字の字形をとり,これを単に音を表す記号として転用することに始まるが,正字法の発達とともに必ずしも表音的でなくなる(英語のknightなど)。その発達する地盤は表意文字が誕生した先進文明社会(エジプト,中国など)ではなく,周辺社会(シリア・パレスチナ,日本など)であった。

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旺文社世界史事典 三訂版 「表音文字」の解説

表音文字
ひょうおんもじ
phonogram

音を表す文字
代表的なものとしてアルファベットや日本の「かな」がある。

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世界大百科事典(旧版)内の表音文字の言及

【チベット文字】より

…範となった文字がどこの文字であったのかについて諸説があるが,グプタ文字説が有力である。 チベット文字は表音文字で,基本的には子音字30とi,u,e,oを表す母音記号4から成り,ほかにサンスクリットを転写するのに用いる子音字6と母音記号3がある。左横書きで,単語の切れ目は示されないが,音節の切れ目は点によって示される。…

【表意文字】より

…漢字は代表的な表意文字であるが,多くの場合1字形が1単語を表記するため,表語文字logogramとも呼ばれる。表意文字は,言葉の意味単位を表記する点で,音声面を書き表す表音文字に対立する。一方,象形文字と呼ぶのは,字形の作り方から分類した名称で,必ずしも象形文字すなわち表意文字とは限らない。…

【文字】より

…文字が(音声)言語を表記するものであるといわれるのはこのような意味においてである。したがって,文字の分類として常識的に行われている〈表意文字〉と〈表音文字〉との別は,後にも述べるように,〈文字〉の性質を正しく表すものといえない。表意的とか表音的とかいう性質は体系としての〈文字〉についてみられるのではなくて,それぞれの体系を構成している個々の要素である〈字〉についていわれることなのである。…

※「表音文字」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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