衣装哲学(読み)イショウテツガク(英語表記)Sartor Resartus

デジタル大辞泉 「衣装哲学」の意味・読み・例文・類語

いしょうてつがく〔イシヤウテツガク〕【衣装哲学】

原題Sartor Resartus: The Life and Opinions of Herr Teufelsdröckh英国の評論家カーライル著作。1836年、米国刊行。英国版は1838年に刊行。原題は「仕立て直された仕立屋」の意。架空のドイツ人大学教授、トイフェルスドレックの著作をカーライルが抄訳したという体裁で、自身の思想哲学を記したもの。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「衣装哲学」の意味・わかりやすい解説

衣装哲学
いしょうてつがく
Sartor Resartus

イギリスの歴史家トマス・カーライルの著作。「トイフェルスドレック氏の生活と意見」という副題にあるように、架空のドイツ人教授の著書を翻訳、紹介するという形式で書いた一種の象徴論。1833~34年に雑誌に連載発表されたのち、36年アメリカのボストンで、38年にイギリスで刊行された。全体は2部に分かれ、表題の『サーター・リサータス』(「つぎはぎの仕立屋」の意)から想像される衣装哲学の部分は、宇宙のあらゆる象徴、形式、制度はしょせん一時的衣装にすぎず、動かぬ本質はそのなかに隠れてある点を多面的に例証したもの。

 一方著者の教授を紹介した小説的部分は、実は教授の仮面を借りたカーライル自身の精神自叙伝で、なかでも美しい文体でロマン主義的魂の苦悩とその超克を語った「永遠の否定」「無関心の中心」「永遠の肯定」の3章は有名である。全体としてドイツ・ロマン派、とりわけジャン・ポール・リヒターの影響が濃いといわれている。

[前川祐一]

『石田憲次訳『衣装哲学』(岩波文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「衣装哲学」の意味・わかりやすい解説

衣装哲学 (いしょうてつがく)
Sartor Resartus

イギリスの思想家カーライルの哲学的・風刺的散文作品。1833-34年雑誌に連載され,アメリカで36年,イギリスで38年に出版された。原題はラテン語で〈仕立て直された仕立屋〉の意。変人のドイツ哲学者トイフェルスドレックの〈衣服の哲学〉と称して,宇宙の万物は永遠の精神がまとう衣装にすぎないという奇想を展開し,その見地から当代の社会を風刺する。また第2部のトイフェルスドレックの伝記には,カーライル自身の思想的遍歴と苦悩が〈永遠の否定〉から〈永遠の肯定〉への道として描かれている。1909年土井晩翠によって翻訳された。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「衣装哲学」の意味・わかりやすい解説

衣装哲学
いしょうてつがく
Sartor Resartus

イギリスの歴史家,評論家 T.カーライルの自伝的著作。原題名は「仕立て直された仕立屋」の意。 1833~34年『フレーザー』誌に発表,36年ボストン版,38年イギリス版。ドイツの大学教授トイフェルスドレック (悪魔の糞) の伝記という形をかりて,カーライルがみずからの思想の発展を述べたもので,ドイツの超越的観念論の影響のもとに,感傷的ロマン主義と功利的産業主義を否定し,この世の人間的制度や道徳は,すべて存在の本質がそのときどきに身に着ける衣装で,一時的なものにすぎないという哲学を力説した。「永遠の否定」から「無関心の中心」を経て,「永遠の肯定」にいたる精神的危機の物語は,狭い主我的な懐疑と苦悩に閉じこもるバイロン的傾向を捨てて,明るく広いゲーテ的境地に救いを求めた,カーライル自身の経験による。日本では明治,大正期に広く読まれ,ことに新渡戸稲造,内村鑑三らに大きな影響を及ぼした。

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百科事典マイペディア 「衣装哲学」の意味・わかりやすい解説

衣装哲学【いしょうてつがく】

原題はSartor Resartus。イギリスの思想家カーライルの半自伝的な散文。1833年―1834年作。架空のドイツ人大学教師トイフェルスドレックの著作の抄訳の形をとり,宇宙を永遠の精神がまとう一つの衣服とみなし,その比喩(ひゆ)で地球上のすべてを説明しようとする。著者の批判的・風刺的な社会観,歴史観を展開。

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