衣被(読み)キヌカズキ

デジタル大辞泉 「衣被」の意味・読み・例文・類語

きぬ‐かずき〔‐かづき〕【被】

平安時代ごろから、上流婦人が外出するとき、顔を隠すために衣をかぶったこと。またその衣や、それをかぶった女性。中世以降は単衣ひとえ小袖こそでを頭からかぶり、両手で支えて持った。かずき。
「―を脱がせて、おもてをあらはにして」〈著聞集一二
いわしをいう女房詞

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精選版 日本国語大辞典 「衣被」の意味・読み・例文・類語

きぬ‐かずき ‥かづき【衣被】

〘名〙 (「かずき」は「かぶる」意の動詞「かずく(被)」の連用形の名詞化。後世きぬかつぎ」とも)
① (━する) 衣をかぶること。特に、平安時代頃から、貴婦人が外出する時、単(ひとえ)小袖(こそで)を頭から背にかぶり顔を隠すこと。また、その衣服、服装。江戸時代には、襟肩(えりかた)を前へ一〇センチメートルほど下げて作り、模様もはなやかになり、袷(あわせ)なども用いた。かずき。かつぎ。
※古今著聞集(1254)一二「上臈女房〈略〉きぬかつきをぬがせて、おもてをあらはにして出されけり」
② 衣をかぶった女性。①を着けた女性。
※弁内侍(1278頃)寛元四年「卯の日は清暑堂の御神楽なり。〈略〉きぬかつき重なりてさらに道なし」
③ (━する) 陰茎が皮をかぶっていること。包茎
※古今著聞集(1254)一六「わづかなるこまらの、しかもきぬかつきしたるをかきいだしたりければ」
④ 鰯(いわし)をいう女房詞。おむら。おほそ。むらさき
※大上臈御名之事(16C前か)「一、いはし。むらさき。おほそとも。きぬかづき共」
里芋をいう。もと、女房詞。現在ではもっぱら「きぬかつぎ」といい、里芋の子を皮のままゆでたものをいう。皮をむいて、塩またはしょうゆをつけ、温かいうちにたべる。きぬかずきいも。《季・秋》
※御湯殿上日記‐文明九年(1477)一一月一七日「御すすりのふたにきぬかつきのまも入てまいる」
相撲の手の一つ。相手の手首を取ったまま首を入れて、引きかつぎ、片手を相手の内股(うちまた)へ差し込み、横様にかついで投げること。また、そのわざ。ぬきあげ。
※浄瑠璃・万戸将軍唐日記(1747)三「其出やうさへ習ふたりや。投けやうは、衣潜(きぬカヅキ)
⑦ 鳥「ひわ(鶸)」の異名

きぬ‐かぶり【衣被】

〘名〙 衣をかぶること。特に、僧侶などが用いた、衣被(きぬかずき)に似た衣。
袋草紙(1157‐59頃)上「長元歌合日、能因きぬかぶりして竊入てこれを聞く」

きぬ‐かつぎ【衣被】

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改訂新版 世界大百科事典 「衣被」の意味・わかりやすい解説

衣被 (きぬかずき)

外出時に婦人が頭からかぶる衣。日本では上代において〈おすひ〉という被り物があり,男も女もともにこれをかぶりはおったことがあった。〈きぬかずき〉もこうした風習のなごりであろう。平安時代には一部の婦女子は,外出時に衣あるいは薄衣をかぶっていたが,これは風やほこりを防ぐためばかりではなく,顔をあらわすのを恥じたためでもあった。この衣は腰のあたりで帯で結ぶ場合もあり,ただ手で前につぼねることもあって,これに市女笠(いちめがさ)をかぶった姿を壺装束(つぼしようぞく)と称した。鎌倉時代からしだいに小袖が発達して,その上に広袖の衣をかぶることも行われたが,この衣が小袖にかわって近世の被衣(かずき)が成立した。
被衣
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普及版 字通 「衣被」の読み・字形・画数・意味

【衣被】いひ

衣服。おおう。恩恵が及ぶ。〔文心雕竜、弁騒〕是(ここ)を以て枚(乗)・賈(誼)、風をうて以て麗に入り、馬(司馬相如)・揚(雄)、波にうて奇を得たり。其の詞人に衣被すること、一代のみに非ざるなり。

字通「衣」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「衣被」の意味・わかりやすい解説

衣被【きぬかずき】

被衣(かずき)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「衣被」の意味・わかりやすい解説

衣被
きぬかずき

被衣」のページをご覧ください。

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