血清病(読み)けっせいびょう

精選版 日本国語大辞典 「血清病」の意味・読み・例文・類語

けっせい‐びょう ‥ビャウ【血清病】

〘名〙 血清注射をしたときに副作用として起こる症状。動物の血清を注射した時に起こるアレルギー現象。発疹、関節痛、嘔吐、下痢にはじまり、呼吸困難をおこして死亡することもある。〔育児読本(1931)〕

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デジタル大辞泉 「血清病」の意味・読み・例文・類語

けっせい‐びょう〔‐ビヤウ〕【血清病】

ジフテリア・破傷風などの治療の際に、動物の抗毒素血清を注射したときに起こるアレルギー性疾患。軽いものでは発疹はっしん・発熱・浮腫ふしゅなどが現れ、重いものではショック症状を起こす。

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内科学 第10版 「血清病」の解説

血清病(アレルギー性疾患)

概念
 血清病は,異種血清投与1~2週後に形成された免疫複合体(immune complex:IC)の沈着により皮疹,発熱,関節痛,リンパ節腫脹などを生じる病態としてvon Pirquetと Schickにより提唱された疾患概念である.類似の病態は,ハチ毒,細菌やウイルス感染,薬剤が原因となり生じることが知られており,血清病様反応(serum sickness-like reaction)と表される.
病因・疫学
 破傷風,ジフテリア,狂犬病などに対する抗血清療法の減少に伴い,わが国では古典的な血清病は比較的まれなものとなった.一方,再生不良性貧血の治療に用いられる抗胸腺細胞グロブリン製剤による血清病や,近年関節リウマチや炎症性腸疾患などの免疫疾患やリンパ腫などの血液疾患の治療に用いられることが多くなった生物学的製剤に起因する血清病が増加している. 血清病様反応もペニシリン系やセファロスポリン系抗生物質の使用量の増加に伴い増加している.その他,サルファ剤,ヒダントイン,サイアザイド,抗炎症薬などによる血清病様反応も報告されている.
病態生理
 血清病は,異種蛋白などの抗原に対し抗体が産生され,その結果形成されたICが血管壁や腎糸球体などに沈着して組織傷害を引き起こすⅢ型のアレルギー反応である.ICの組織傷害性は,ICを構成する抗体のサブクラスに依存し,一般に古典的経路で補体を活性化するIgG1,IgG2,IgG3,IgMはIgG4,IgA,IgEより組織傷害性が高い.ICの組織傷害性は,ICの大きさにも依存し,抗原過剰域で形成される中等大の可溶性ICが組織に沈着しやすいとされる.組織に沈着したICは補体系を活性化し,C3a,C5aなどアナフィラトキシンの産生により,マスト細胞の活性化,血管透過性の亢進,好中球の遊走を惹起する.炎症細胞の局所浸潤には,接着分子やケモカインの発現も関与する.さらにICは好中球やマクロファージのFc受容体を活性化し,炎症性サイトカインの産生,ライソゾーム酵素の遊離,スーパーオキシドの産生を誘導し組織を傷害する.薬剤による血清病様反応では,薬剤が血清蛋白と結合しハプテンとして作用し,異種血清と類似の免疫応答を惹起すると推測される.
臨床症状
 異種血清の投与1~2週後に発熱,皮疹,関節痛,倦怠感,リンパ節腫脹を生じる.蛋白尿,血尿,浮腫などの腎症状,悪心,腹痛,血便などの消化管症状,筋肉痛,末梢神経炎,漿膜炎,心筋炎,ブドウ膜炎なども起こりうる.皮膚症状は頻度が高く(90%以上),一般に関節症状に先行して出現する.じんま疹が最も多いが,麻疹様の皮疹,手指および足趾側面の紅斑,手掌紅斑,触知可能な硬結を伴う紫斑を呈することもある.Stevens-Johnson症候群とは異なり粘膜病変や潰瘍を呈することはまれである.関節症状は手首,足首,膝などの大関節に多く,疼痛が強いのが特徴である.軽症例の多くは,数日で症状が自然消失するが,重症例では数週間持続することもある.1カ月以上続く場合は膠原病など他疾患を疑う必要がある.薬剤による血清病様反応の場合も原因薬剤の中止とともに速やかに改善する.すでに感作されている症例では,投与後早期(1~4日)に全身のじんま疹,呼吸困難,喘鳴などアナフィラキシー様の重篤な症状が出現することがある.
検査成績
 血清病に特徴的な検査所見はない.白血球数は増加する例が多いが減少例もある.異型リンパ球が出現することもある.CRPは陽性化し,赤沈は亢進する.補体価(C3,C4)の低下とICの増加を認める.軽度の蛋白尿や血尿を認めることもある.皮疹部の生検では免疫蛍光法で血管壁にC3,IgG,IgM,IgAの沈着を認める.
診断・鑑別診断
 異種血清や薬剤の投与後3週間以内に発熱,皮疹,関節痛,リンパ節腫脹を認めたら血清病を疑う.注射部位の瘙痒,腫脹,発赤は診断の糸口となる.被疑薬や異種血清の希釈液を皮内に注射し,発赤と膨疹が出現すれば原因である可能性が高い.伝染性単核球症,リウマチ熱,悪性リンパ腫,成人発症Still病,反応性関節炎,薬剤性過敏症症候群,顕微鏡的多発血管炎,全身性エリテマトーデスなどの膠原病,淋菌感染症などとの鑑別が必要である.
治療・予後
 異種血清や薬剤の投与を中止する.中止すれば自然に軽快し,予後は一般に良好である.対症的に,じんま疹,血管運動神経性浮腫には抗ヒスタミン薬,発熱,関節痛には非ステロイド系抗炎症薬を投与する.重症例にはプレドニゾロン20~40 mg/日を投与し,症状の改善にあわせて慎重に減量,中止する.通常2~3週で中止可能である.
予防
 異種血清を使用する場合には,過去の異種血清治療歴を問診し,皮内試験法あるいは点眼試験法で血清過敏症が存在しないことを確認してから投与する.皮内試験や点眼試験が陽性の際はできる限り使用を避けるべきであるが,使用が必須の場合は急速減感作を行う.[中島裕史]
■文献
Wener, MH: Serum sickness and serum sickness-like reactions. In: UpToDate, Feldweg AM (ed), UpToDate, Waltham, 2010.

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家庭医学館 「血清病」の解説

けっせいびょう【血清病 Serum Sickness】

[どんな病気か]
 ジフテリア、破傷風(はしょうふう)、狂犬病(きょうけんびょう)、ボツリヌス菌による中毒、ハブやマムシなどの毒ヘビにかまれる蛇咬症(じゃこうしょう)など、血液に毒が入った場合、この毒を抗原(こうげん)とする、ほかの動物(ウマなど)の抗体(こうたい)を与えて、抗原抗体反応(こうげんこうたいはんのう)をおこして毒性をなくすことで治療します。
 この抗体は、ウマなどの動物の血清に含まれているものを注射するので、注射された人の血液には、この血清を抗原とする抗体ができ、アレルギー反応(免疫のしくみとはたらきの「アレルギー反応」)がおこることがあります。これを血清病といいます。
[原因]
 以前は、細菌や動物の毒によっておこる中毒症に対して、ウマなどからつくる血清剤(けっせいざい)(抗血清(こうけっせい))を使用したため、アレルギー反応が生じ、血清病がおこることが多かったのです。しかし、アレルギー反応がおこりやすい、種の異なる(異種(いしゅ))動物の抗血清を使うことは激減しており、最近では、ペニシリンなどの抗生物質、サルファ剤、ヒダントイン系薬物、サイアザイド(チアジド)系利尿薬などの薬物を使用することでおこる血清病が増えています。
 血清病では、異種動物の抗原に対してつくられた抗体が反応して、免疫複合体(めんえきふくごうたい)というものが血中にできます。
 これが、血管、腎臓(じんぞう)、関節などに沈着して、アレルギー反応をひきおこし、組織の障害がおこるのです。
[症状]
 発熱、発疹(ほっしん)、リンパ節の腫(は)れ、関節の痛みなどが、よくみられる症状です。
 抗血清の注射では、注射後1~2週間で、発熱、全身のだるさ、じんま疹(しん)、リンパ節の腫れ、関節の痛み、むくみ、白血球(はっけっきゅう)の減少、尿へのたんぱくのもれ(たんぱく尿)がみられます。
 2回目の注射では、より少ない量で、より早く(8日以内)、より激しく症状が現われます。
 薬物が原因である場合は、発熱、全身のだるさ、じんま疹、関節の痛み、腎炎(じんえん)、神経炎といった症状が、薬物を使用してから、1~3週間で現われます。ふつう、これらの症状は、薬物の使用を中止すれば数日で消えます。
[検査と診断]
 血清病だけにみられる検査結果はありません。血液中の免疫複合体の増加、炎症反応(えんしょうはんのう)(血液沈降速度、血中のC反応性たんぱく質の増加)、軽いたんぱく尿、血尿などがみられます。
[治療]
 ふつう、症状は軽く、数日で自然によくなるので、それぞれの症状を抑えるようにします。
 じんま疹には、抗ヒスタミン薬が効きます。発熱や関節の痛みには、消炎鎮痛薬(しょうえんちんつうやく)が効きます。
 重症の場合は、ステロイド(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン)が使用されます。
[予防]
 抗毒剤として異種動物の血清を使うことを避け、ヒトの血液でつくるヒト血清を使用するようにします。
 やむをえず異種動物の血清を使う場合は、まず皮膚をひっかいて血清を滴下させるなどのテストをして、反応をみきわめてから、慎重に使います。

けっせいびょう【血清病】

 ジフテリアや破傷風(はしょうふう)の治療のために、ウマの免疫抗毒素血清(めんえきこうどくそけっせい)を注射したときにおこる副作用が、血清病です。
 最初の注射では、リンパ節の腫(は)れ、発熱、発疹(ほっしん)、たんぱく尿などがおこりますが、軽症です。
 1回目の注射の後、1週間以上の間隔をおいて2回目の注射をすると、ショックをおこし、死亡することが多いものです。
 したがって、以前、抗毒素血清の注射を受けたことのある人は、事前に医師に報告する必要があるのです。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「血清病」の意味・わかりやすい解説

血清病
けっせいびょう

異種の免疫血清である異種抗血清(おもにウマ免疫グロブリン)の注射による過敏反応として生ずる一定の症状群をいう。注射後発症までの日数により、次の3型に分けられる。

(1)一次性血清病 注射後1~2週間の潜伏期を経て発熱、皮疹(ひしん)(じんま疹型のことが多い)、関節痛(関節炎)、リンパ節腫脹(しゅちょう)などを生じ、心・腎(じん)障害や神経炎が出現することもある。大量の抗原を注射すると、それに対する抗体が産生され、残存している抗原と結合して免疫複合体が形成されるためで、症状は通常、数日で消失する。

(2)促進型血清病 再注射により生じ、すでに抗体が産生されているので症状の出現が1~4日と早い。

(3)アナフィラキシー型血清病 ときに注射後ただちにアナフィラキシーショックがおこることがある。アトピー素因者に生じやすい。

 血清病は、予防的能動免疫の実施、抗生剤の開発、ヒト抗毒素血清(たとえば破傷風)の使用などにより減少しているが、現在でも蛇毒(じゃどく)、ガス壊疽(えそ)、ボツリヌス中毒などウマ抗毒素血清を使用せざるをえないものもある。通常、血清病という場合には一次性ないし促進型血清病を意味するが、種々の薬剤(とくにペニシリン)により同様の症状を生ずることがあり、広義に用いられることもある。対症的治療が行われ、皮膚症状に対しては抗ヒスタミン剤、発熱や関節痛に対しては消炎鎮痛剤を用いる。これらの薬剤が無効のときにはステロイド剤を使用する。

[高橋昭三]

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改訂新版 世界大百科事典 「血清病」の意味・わかりやすい解説

血清病 (けっせいびょう)
serum sickness

異種動物の血清や薬物の注射を受けて1~2週間後に発生する全身のアレルギー反応。本来はウマの抗毒素血清を注射したあとに現れる症状に用いられた用語だが,現在では広い意味に使われ薬物投与後に生ずる場合にも用いられている。異種血清や薬などの異物は生体内では抗原となって,これと反応する物質(抗体)が産生される。抗体は残存している抗原と結合して複合物ができ,これが血液に入って症状をひきおこす。発熱,皮膚の蕁麻疹(じんましん)や紅斑,リンパ節の腫大,関節の腫張と痛みは,血清病によくみられる四つの徴候とされている。以前に異種動物の血清や薬物に暴露されたことのある人は反応が早く,症状の出現が早く,症状の程度も強い。したがって,以前に破傷風などで抗毒素血清の注射を受けたことのある人は,再注射により重篤な血清病を起こしやすいので注意を要する。
アレルギー
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百科事典マイペディア 「血清病」の意味・わかりやすい解説

血清病【けっせいびょう】

動物血清の注射による一種の過敏現象。正常血清でも免疫血清でも起こるが,多くはジフテリアなどの血清療法の際に発病する。初回注射による症状は,発熱,発疹,浮腫(ふしゅ),関節痛,タンパク尿,リンパ腺腫脹(しゅちょう)などであるが,普通は軽く3〜4日でなおる。再注射の場合は前記症状が一般に重く,さらに嘔吐(おうと),けいれん,時に呼吸困難,チアノーゼ,虚脱をきたすことがある。
→関連項目アレルギー反応ジフテリア血清免疫血清

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「血清病」の意味・わかりやすい解説

血清病
けっせいびょう
serum sickness

異種蛋白に対する過敏現象で,ヒトに動物血清を注射したときに副作用として起る。反応は免疫血清でも正常血清でも現れ,一般には皮下注射より静脈内注射のほうが発生頻度が高い。初回注射の場合,大部分は7日以内に現れ,まず皮膚,ことに注射部位に発疹ができ,全身に及ぶ。リンパ節腫脹のほか,嘔吐,けいれんなどの症状が出現する。2回目以降の注射では,抗体がすでにつくられているので反応の現れ方が速く,症状も重篤となる。最近,治療血清は改良されているが,事前の検査は必要である。

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世界大百科事典(旧版)内の血清病の言及

【アレルギー】より

…しかし,抗毒素血清による治療は,動物に免疫した血清を用いるため,蕁麻疹,発熱,関節痛,リンパ節腫張,ときにショックを起こすなどの異常な反応をもたらした。これは今日血清病と呼ばれているものであるが,抗血清の注射による〈変じた反応〉として認識された。同年R.コッホは,健康なモルモットの皮下に結核菌を注射すると,1~2週間後にその局所に結節ができ,次いで潰瘍になり,死ぬまで治らないが,結核菌の感染を受けているモルモットでは1~2日後に硬結ができ,やがて潰瘍になるが,しかしこの潰瘍は急速に治ってしまうことを発見した。…

【抗毒素】より

…この血清から免疫グロブリンを精製したものが抗毒素製剤である。抗毒素は,E.ベーリング,北里柴三郎により1890年に開発され,以来ウマの抗毒素製剤が用いられてきたが,ウマの免疫グロブリンもヒトには異種のものであり,これに対する抗体が治療をうけた患者に生じることが原因となって血清病になることがあるので,抗毒素を多量に含むヒト血清から免疫グロブリンを精製した製剤が用いられるようになってきている。しかし,ヘビ,サソリなどの抗毒素はウマ血清由来のものが多い。…

【免疫】より

…血清療法が盛んになって,異種動物,ことにウマの血清を注射すると,数日のうちに蕁麻疹(じんましん),糸球体腎炎,血管炎などの病的反応が起こってくるが,これは注射された血清に対して,生体が免疫反応を起こして抗体をつくり,生体内で抗原抗体反応が起こったためである。これを血清病という。もし同じ血清を2度注射すると激しいショック症状(アナフィラキシーショック)を起こして,しばしば死に至る。…

※「血清病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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