血液凝固(読み)けつえきぎょうこ(英語表記)blood coagulation

精選版 日本国語大辞典 「血液凝固」の意味・読み・例文・類語

けつえき‐ぎょうこ【血液凝固】

〘名〙 体外や血管外へ出た血液がかたまること。血漿中の特殊な蛋白質が変化してフィブリンという固形体になるために起こる現象。高等動物の血液にみられる。〔医語類聚(1872)〕

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デジタル大辞泉 「血液凝固」の意味・読み・例文・類語

けつえき‐ぎょうこ【血液凝固】

血管外に出た血液がかたまる現象。これによって止血作用が発揮される。

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改訂新版 世界大百科事典 「血液凝固」の意味・わかりやすい解説

血液凝固 (けつえきぎょうこ)
blood coagulation

血液は,血管外に出るとその流動性を失う。すなわち,凝固する。この血液が凝固する性質は,止血にとって必要な性質であり,血液凝固が正常に起きないと,止血が円滑に行われなくなり,出血傾向を呈するようになる。

 先天的あるいは後天的に血液凝固機序が異常を呈するために,出血傾向が生ずる場合が多数存在する。先天的なものの代表は血友病である。一方,血液凝固が血管内に起こると,血栓症あるいは血管内凝固症候群が起こる。

血液凝固に関与する因子群(血液凝固因子blood coagulation factor)は,13種のタンパク質性因子と,カルシウムリン脂質血小板リン脂質)からなる。リン脂質以外の血液凝固因子を表にあげる。表に示すように,これらの大部分は,国際凝固因子命名委員会によって,ローマ数字を付して呼ばれている。タンパク質性の凝固因子は,ⅠとXIII因子さらに組織因子Ⅲを除いて,タンパク質分解酵素と,その補助因子である。Ⅱ,Ⅶ,Ⅸ,Ⅹの4因子は,ビタミンKを必要とする酵素系によって,肝臓細胞で産生される(これをビタミンK依存性凝固因子という)。

血液凝固機序は,これら一連のタンパク質分解酵素の活性化連鎖反応から成立しており,最終的に繊維状の安定したフィブリン網が析出して,血液がゲル化することによって終了する。連鎖反応の各段階を経るごとに反応は増幅され,わずかな凝固開始の刺激も血液凝固を完了させるように働く機構になっている。血液凝固機序は,血液が負の荷電を有する固相(たとえばガラス)に接して開始される場合と,組織中に存在する血液凝固の組織因子(組織トロンボプラスチン)に接して開始される場合に分けられる。前者を内因系の血液凝固,後者を外因系の血液凝固という。止血あるいは血栓形成の場合は,内因系,外因系の両者の血液凝固機序がともに関与していると考えられている。

 内因系の血液凝固は,Ⅻ因子,Ⅺ因子,プレカリクレインが固相に吸着されて,固相上で活性化されることによって開始される。血液凝固の作用が開始されると,ひきつづいて各因子による連鎖反応が起こり,形成された複合体にⅡ因子(プロトロンビン)が結合して活性化され,活性化Ⅱ因子(トロンビン)がフィブリノーゲンに働きフィブリンに転換する。フィブリンは自然に重合を起こし,フィブリン網を形成し,血液はゲル化する。トロンビンとカルシウムイオンで活性化されたXIII因子は,フィブリン分子間に共有結合による架橋結合を形成し,フィブリン網を機械的に安定化させる。架橋結合したフィブリンは,尿素によっても溶解しないので,尿素に可溶性の架橋結合していないフィブリンに対して,不溶性フィブリンとも呼ばれる。

 外因系の血液凝固は,血液が組織細胞傷害の結果遊離する組織因子と接触することによって開始される。途中,内因系の血液凝固とは異なった過程を経るが,X因子の活性化以降は,内因系と外因系の血液凝固機序はまったく同一である。

血液凝固が血管内で無制限に進展することを防ぐため,生体には血液凝固の制御機構が存在する。活性化凝固因子とくにリン脂質との複合体は,網内系細胞によって処理され循環血中から除去される。血漿中には,アンチトロンビンⅢという凝固阻止因子が存在し,トロンビン,活性化Ⅸ因子,活性化Ⅹ因子,活性化Ⅺ因子などの活性化凝固因子の活性を中和する。ヘパリンは,アンチトロンⅢのこれら活性化凝固因子を中和する反応を著しく促進することによって,凝固を阻止している。
血液
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「血液凝固」の意味・わかりやすい解説

血液凝固
けつえきぎょうこ

体外に取り出された血液、あるいは、体内において血管から組織に出血した血液が数分後に凝固する現象をいう。この現象は、生体から血液が失われるのをできるだけ防ぐ止血機能の表れと考えられる。血管が傷害されると、まず、その部位の血管の収縮がおこり、ついで血小板が粘着して白色血栓(白栓)をつくる。そして、最後に血液が凝固することによって完全に止血が達成される。

 血液凝固の過程は、1905年、ストラスブール大学のモラウィツPaul Morawitz(1879―1936)によって、(1)まず、血小板が壊れて組織トロンボプラスチンができる、(2)これがカルシウムイオンと共同に働いて、血漿(けっしょう)内に存在するプロトロンビンをトロンビンに変える、(3)トロンビンは同じく血漿内に存在するフィブリノゲンを不溶性のフィブリンに変える、という3段階で進行すると説明された。これを血液凝固の古典説という。今日でもその大筋には変わりはないが、最初の段階がこの説よりも、さらに複雑で、多数の酵素が関係していることが明らかにされている。モラウィツ以後、血液凝固に関係する因子が多数発見されたので、研究者相互の学術交流の混乱を防ぐため、1954年、スイスで国際凝固因子選定委員会が発足し、共通の番号をつけることが決められた。現在までI~ⅩⅢ(第Ⅵ因子は欠番)までの因子が決められている。

 血液凝固の始まりは、血液自体から始まる内因性凝固の過程(接触系)と、組織液との接触によって始まる外因性凝固の過程(組織系)がある。内因性凝固の場合は、血液中に存在する第Ⅻ因子であるヘイグマン因子が、まず作用する。破れた血管壁や採血した注射器のガラス壁などに触れるという器械的刺激が、この因子を活性化する。外因性凝固の場合は、出血した血液が組織液内に存在する組織トロンボプラスチン(第Ⅲ因子)を活性化する。いったん、これら内因性、または外因性の凝固の口火が切られると、次々と関係する凝固因子の活性化が続き、共通凝固因子であるスチュアート因子(第Ⅹ因子)からプロアクセレリン(第Ⅴ因子)の活性化へと進展する。これに古典説の第二段階以後の凝固過程が続くことになる。これらの凝固因子は、血小板や血漿中に含まれているので、本来、凝固は血漿内でおこる過程ということができる。しかし、その最終産物である不溶性のフィブリンは、血球を包み込んで固めるため、赤色の凝固塊ができあがることになる。凝固の酵素過程では、活性化された凝固因子が次の凝固因子の活性化に働き、次々と滝の水が落ちるように作用が連続していくところから、イギリスの血液凝固学者マックファーレンRobert Gwyn Macfarlane(1907―1987)は、これを酵素の瀑布(ばくふ)説として唱えた。凝固がこのような過程をとることは、二つの特性を示すことにもなる。その第一は、これは一つの増幅系であるから、最初のわずかな凝固因子の作用が最終的に莫大(ばくだい)な量のフィブリンの生成を引き起こす。第二には、凝固開始までには、通常、数分間の時間が一連の酵素の活性化の完結までに必要ということである。この特性は、実際の止血の場合にたいせつな指針となる。つまり、出血した場所をガーゼなどで押さえる場合、2~3分ごとに出血箇所を調べ、慌てて出血をぬぐっていては、いつまでも凝固が始まらないということである。少なくとも、数分以上はしっかりと傷害部を押さえて凝固の完結を待つことが必要である。

[本田良行]

フィブリン除去機構

凝固した血液は、やがて、ふたたび融解してしまう。これは、いったん不溶性となったフィブリンが、血漿中に生成されるプラスミンによって溶解されるためである。この過程は、体内で凝固した血液もやがて除かれていく過程でもある。プラスミンは、血漿内に存在するプラミノゲンが活性化されてできるものである。不思議なことに、その活性化にあずかる酵素は、内因性血液凝固の引き金となるヘイグマン因子である。つまり、血液は凝固の開始の時点で、すでに次の融解過程の準備を始めているということになる。

[本田良行]

血液凝固阻止剤

生体内に、生理的に含まれている強力な凝固阻止作用はヘパリンによるものである。これは結合組織の肥胖(ひばん)(肥満)細胞でつくられ、おもに抗トロンビン作用によって凝固を阻止する。古くから使用される抗凝固剤としては、凝固過程に参加するカルシウムイオンを沈殿させるシュウ酸塩、クエン酸塩などがある。

[本田良行]


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化学辞典 第2版 「血液凝固」の解説

血液凝固
ケツエキギョウコ
coagulation of blood, clotting of blood

血管が損傷すると,まず赤血球,血小板からアデノシン5′-二リン酸(ADP)が放出され,また血管内皮および組織からコラーゲン,組織トロンボプラスチンが出現する.同時に血漿トロンボプラスチンからは,微量のトロンビンが生成される.これらが血小板に作用して膜の変化をきたし,血管損傷部位への粘着と凝集による血小板血栓を形成する.また,血小板から放出されるセロトニンは血管の収縮に役立つ.一方,血管損傷により血液が生理的異物と接触すると,血漿中のハーゲマン因子が活性化され,以下,連鎖反応によって凝固因子第Ⅺ,Ⅸ,,およびⅩ因子が活性化される.最終的には,フィブリノーゲンがトロンビンの酵素作用によってフィブリンに変換され,フィブリンはさらに重合し,第因子によって不溶性フィブリン塊を形成する.これら血小板血栓とフィブリン塊とが共同して,強固な止血栓となり,出血を防ぐ.血液凝固に関与する因子を次に示す.

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百科事典マイペディア 「血液凝固」の意味・わかりやすい解説

血液凝固【けつえきぎょうこ】

生体外にとり出されて放置された血液が,流動性を失いゲル状に固まること。まず血小板が破壊されてトロンボプラスチンが形成され,これがカルシウムイオンの存在下でプロトロンビンに働いてトロンビンを作る。トロンビンは血漿(けっしょう)中に溶解しているフィブリノーゲンをフィブリンに変え,フィブリンが血球をつづり合わせる微細な網を形成して血餅(けっぺい)を作り,液状の血清と分離して凝固は完成。傷口をふさぎ,出血を止める作用をもつ。→血友病
→関連項目血液血液製剤フィブリノーゲン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「血液凝固」の意味・わかりやすい解説

血液凝固
けつえきぎょうこ
blood coagulation

傷口などから血管外に流出した血液は,血漿中の線維素原 (フィブリノーゲン) が重合してできる線維素 (フィブリン) によって血球が閉じ込められて,凝固する。この現象は 15種の凝固因子が関与する複雑な反応で,血友病の場合には,この第 VIII因子または第 IX因子が先天的に欠乏しているため,出血性素因が生じ凝固が起らない。なお,血液の凝固したものを放置しておくと,液状の血清とゲル状の血餅に分離してしまう。

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栄養・生化学辞典 「血液凝固」の解説

血液凝固

 血液が血管の外へ出たときに流動性を失って固まる現象.血液中のフィブリノーゲンがフィブリンという線(繊)維状のタンパク質に変換されて凝固するが,その際血液凝固因子という一群の因子が関与する.カルシウムイオンが必須で,凝固を阻止する一つの方法にEDTA,クエン酸など,カルシウム隠蔽剤を使用する方法がある.

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世界大百科事典(旧版)内の血液凝固の言及

【血液】より

…これらは全身の各組織に運搬されるが,他の物質と結合してその物質の運搬にあずかるものもある。血漿中には血液の凝固に関与するフィブリノーゲン(繊維素原)凝固因子も含まれ,血小板と共働して血液凝固にあずかる。 血液凝固が完了したのち,凝固塊(これを血餅という)を取り除くと黄色透明な液体が残る。…

【血管系】より

…動脈硬化のおもな危険因子は,高コレステロール血症,高血圧,喫煙があげられ,そのほか糖尿病,肥満,職業的ストレス,家族歴などがある。
[血液凝固]
 血液は循環のためには血管内で流動性でなければならないが,内膜の損傷や動脈硬化などが起因して,血管内で凝固反応が開始され,凝血塊がつくられる。これが血栓である。…

【血球】より

…血小板が凝集するとき,もっていた物質を放出し,この物質が凝集をさらに強固にするとともに,血漿中の凝固因子の連鎖反応をよび起こし,フィブリンによる繊維網が形成されて出血部に強力な止血のための血栓が形成される。この過程を血液凝固という。血液【松本 昇】。…

【抗凝血薬】より

…血液の凝固を阻止する薬で,血液凝固阻止薬ともいう。血液凝固の機構には延べ10種以上の因子が関与して重要な役割をになっているが,それらの因子のいずれかを取り除いたり因子の活性を抑制することによって血液の凝固を防いだり凝固時間を延ばすことができる。…

【止血薬】より

…外傷,出血素因または各種疾患による出血を防止する薬物。多くの止血薬は,低下した血液凝固機能を補強するため,あるいは血管の抵抗性を強めるために全身投与が行われるが,表面出血を抑えるために局所に適用するものもある。作用機序のうえからは,血液凝固促進薬,繊維素溶解系阻害薬,血管強化薬などが含まれる。…

【出血】より

…血管損傷が小さい場合は,一次止血のみで止血がほぼ十分であるが,しかし,機械的な外力にもろく血流などにより容易に止血栓が崩壊し,再出血する。 一次止血にやや遅れて,血液凝固が起こり,生成したトロンビンにより血小板凝集塊がさらに進展し強固になり,また,血小板間にフィブリンが析出し,フィブリン網により止血栓は機械的に強固になる。これを二次あるいは永久止血栓といい,二次止血栓による止血を二次止血という。…

※「血液凝固」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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