血友病(ヘモフィリア)(読み)けつゆうびょうへもふぃりあ(英語表記)Hemophilia

家庭医学館 「血友病(ヘモフィリア)」の解説

けつゆうびょうへもふぃりあ【血友病(ヘモフィリア) Hemophilia】

◎遺伝する先天性出血性疾患
[どんな病気か]
◎ささいなけがでも出血する
[症状]
[検査と診断]
凝固因子輸注(ゆちゅう)
[治療]

[どんな病気か]
 血液(血漿(けっしょう))中には、出血したときに血液を固めて止血する物質が含まれています。この物質を血液凝固因子(けつえきぎょうこいんし)といいます。
 これまでに12種類の凝固因子の存在が明らかにされ、Ⅰ(1)から(13)までローマ数字の番号が付されています。ただしⅥ(6)は欠番です。
 血友病は、この血液凝固因子のうち、第Ⅷ(8)因子か第Ⅸ(9)因子の欠乏や異常のために血液が固まらず、出血すると止血しにくくなる病気です。
 遺伝する先天性の出血性疾患のなかで代表的な病気です。
 第Ⅷ因子が欠乏や機能の異常を示すものを血友病A、第Ⅸ因子が欠乏や異常を示すものを血友病Bといいます。
 健常人の凝固因子活性を100%とすると、1%以下を重症、1~5%を中等症、5%以上を軽症と分類します。数%の凝固因子活性のちがいで、出血の頻度程度が左右されるからです。
●遺伝のしかた
 血友病は、祖先からの病的遺伝子を受け継いだ女性(保因者(ほいんしゃ)といい、発病はしません)から生まれる男児に50%の確率で発病します。この遺伝のしかたを伴性劣性遺伝(ばんせいれっせいいでん)と呼びます。
 保因者でない女性から生まれる突然変異の患者さんも、数十%存在します。この場合も、病的遺伝子は、以後、伴性劣性遺伝で子孫に受け継がれます。
 保因者の女性と、血友病でない男性との間に生まれる男児は、50%の確率で発病し、女児は50%の確率で保因者となります。
 血友病の男性と保因者でない女性との間に生まれる男児は発病することがなく、女児はすべて保因者となります。
 血友病の男性と保因者の女性との間に生まれる男児は、50%の確率で発病し、女児は50%の確率で保因者、50%の確率で発病しますが(女性血友病)、このようなケースはまれです。
●頻度
 血友病は世界中のすべての人種にみられ、その頻度は大差ないものと考えられています。
 日本での血友病Aの頻度は、男児出生数の1万人に1人で、血友病Bはその5分の1から8分の1の頻度です。

[症状]
 ふつうなら出血がおこるはずのないような、ささいな外傷で出血がおこってしまいます。明らかなけがをした覚えもないのに、出血がおこることもあります。出血は、関節内や筋肉内などのからだの深部臓器にくり返しおこるのが特徴です。皮下(ひか)、口腔内(こうくうない)、頭蓋内(ずがいない)などにもおこります。
 通常、欠乏している凝固因子を静脈注射で補わなければ、十分な止血は得られません。
 新生児期(生後1か月まで)に出血をきたすことはまずないのですが、まれに、分娩(ぶんべん)時に頭蓋内出血や帽状腱膜下出血(ぼうじょうけんまくかしゅっけつ)をきたすことがあります。
 乳児期(生後1歳まで)の初めのころも出血することはまれですが、ハイハイ、つたい歩きをするころから、ささいな外傷で臀部(でんぶ)(おしり)などの皮下に出血するようになります。
 幼児期・学童期になると血友病に特徴的な関節出血、筋肉内出血をたびたびおこすようになります。
 そのほか、血尿(けつにょう)、吐血(とけつ)、下血(げけつ)、抜歯後(ばっしご)の出血、手術後の過剰出血など、出血症状は多彩です。
 軽症型の場合、抜歯後の出血、手術後の過剰出血が最初の症状となることもしばしばです。
 関節出血がおこりやすいのは、足関節、膝関節(しつかんせつ)そして肘関節(ちゅうかんせつ)です。初期症状は、関節がむずむずするなどの違和感、ついで痛み、熱感をともなった腫(は)れ、運動制限という三主徴がみられます。同じ関節に出血が何度もくり返されると、関節は変形し、最終的には曲げ伸ばしができなくなる(関節強直(かんせつきょうちょく))こともあります。
●受診する科
 新生児・乳幼児・学童は小児科、思春期以降は内科を受診しますが、血液の専門医、なかでも血液凝固学の専門医のいる病院を受診するのが望ましいと思います。

[検査と診断]
 出血の始まった時期や今までの出血状況、同じような出血傾向をもった人が家系内にいないかどうかなどを問診します。出血している部位があれば、その性状をよく観察します。つぎに血液検査を行ない、活性化部分にトロンボプラスチン時間の延長が認められ、第Ⅷ因子か第Ⅸ因子の凝固活性の低下が証明されれば診断がつきます。第Ⅷ因子に異常があれば血友病Aで、第Ⅸ因子に異常があれば血友病Bです。
 フォン・ウィレブランド病(「フォン・ウィレブランド病」)などとの鑑別のため、血液専門医の精密検査が必要になることもあります。

[治療]
 欠乏している凝固因子を輸注(静脈注射)する補充療法が、血友病の止血治療の原則となります。
 血友病Aには第Ⅷ因子製剤、血友病Bには第Ⅸ因子製剤を用います。
 輸注しても凝固因子の血中濃度は下降してきます。血中濃度が半減する時間は、第Ⅷ因子では8~12時間、第Ⅸ因子では12~24時間です。
 出血部位や程度によって止血に必要な輸注量は異なるので、適切な輸注量と輸注間隔を計算して輸注します。出血から時間がたつほど、輸注効果は少なくなるので早期補充がたいせつです。
 また、出血後には患部を冷やし、安静を保つこともたいせつです。運動会、遠足、旅行などの前に、予防的に、補充療法を行なうこともあります。
●止血に用いられる凝固因子製剤
 凝固因子製剤は、ヒト血漿を材料に純化・濃縮した製剤と、遺伝子工学を利用して試験管で培養した細胞につくらせたリコンビナント製剤に大別されます。
●凝固因子製剤以外の止血治療薬
 中等症や軽症の血友病Aでは、軽度の出血や抜歯などの小手術に対して、第Ⅷ因子を血管内に放出させる作用のあるホルモン(バソプレシン)の誘導体であるDDAVPが用いられます。
 線溶活性阻害剤(せんようかっせいそがいざい)であるトラネキサム酸は、鼻出血(びしゅっけつ)や口腔内(こうくうない)出血(抜歯後を含む)に有効です。しかし、腎(じん)・尿路(にょうろ)系の出血がある場合は凝血塊(ぎょうけつかい)(血液のかたまり)をつくるので禁忌(きんき)です。
●家庭での補充療法
 現在、病人自身か家族が、凝固因子製剤を輸注できるようになっています。早期輸注と予防投与を行なえるようにし、整形外科的合併症を軽減させること、重篤(じゅうとく)な出血の後遺症を防止し、病人の日常生活の質的向上を図ることが目的です。
 医師は、本治療法が安全かつ適確に行なえるように、注射技術を含め病人や家族を教育し、正しく行なえると判断したときに開始されます。
 家庭での補充療法が効果的に行なわれるように、医師は、本治療法の開始後、輸注記録表のチェック、定期的検診を行ない、問題点を再教育します。
●凝固因子製剤の副作用
 凝固因子製剤の輸注の最中や輸注後に、じんま疹(しん)、腰痛(ようつう)、ぜんそくのような呼吸困難がおこることがあります。
 このようなアレルギー様反応は、以前用いられていた新鮮凍結血漿、クリオではしばしば認められていましたが、現在用いられている製剤では、たいへんまれなものになりました。
 1980年代前半、ヒト免疫不全(めんえきふぜん)ウイルス(HIV)に汚染された非加熱濃縮製剤によって血友病治療剤の最大の副作用であるHIV感染が生じ、改善していた血友病の予後に大きな問題を投げかけ、現在においても本疾患における最大の問題となっています。しかし現在では、供血者検査や製剤の改良によって新たな感染は防止されており、安全なものとなりました。
 また、過去の輸血、凝固因子製剤(クリオ、非加熱濃縮製剤)により肝炎(かんえん)ウイルス(おもにB型とC型)に多くの人が感染しましたが、現在使用されている製剤は、供血者検査の進歩と製剤の改良により、安全性は著しく高まっています。
 一部の人ですが、輸注された凝固因子を中和し、その効力を無効にする抗体(こうたい)(インヒビター)ができることがあって、その対策が必要となります。
 そのほか、まれに溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)、血栓症(けっせんしょう)などがみられることがあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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