日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
蟹工船(小林多喜二の小説)
かにこうせん
小林多喜二(たきじ)の中編小説。1929年(昭和4)5、6月『戦旗』発表。第二次世界大戦前は検閲制度による伏せ字が多く、68年(昭和43)の『定本小林多喜二全集』版でほぼ完全に復原された。北洋の蟹工船漁業で起きた事件をもとに「植民地における資本主義侵入史」をえぐろうとした。季節労働者として雇われ、国威発揚の美名のもとに悪辣(あくらつ)で残忍な搾取にさらされた未組織労働者が、自然発生的な闘いに立ち上がり階級意識に目覚める姿を描く。権力を握る「悪玉」的人間の描き方などに類型的な弱点もあるが、集団描写のみごとさと社会的、歴史的現実の把握と告発の深さ、強さにおいて、当時のプロレタリア文学の理論的、実作的水準を一挙に高めた画期的作品である。
[小笠原克]
『『蟹工船・党生活者』(角川文庫)』