蛮絵(読み)バンエ

デジタル大辞泉 「蛮絵」の意味・読み・例文・類語

ばん‐え〔‐ヱ〕【蛮絵/盤絵】

鳥獣草花などの形を丸く図案化した文様近衛随身褐衣かちえ舞楽装束調度などに用いられた。
(蛮絵)「南蛮絵」の略。

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改訂新版 世界大百科事典 「蛮絵」の意味・わかりやすい解説

蛮絵 (ばんえ)

特殊な袍(ほう)/(うえのきぬ)に用いた文様の名称。火炎を吐く獅子,熊または鳥の円文を摺文(すりもん)や繡(ぬい)で袍の表と背にあらわしたもの。武家装束のうち兵衛府随身に用いた布袍は,左近衛左衛門には獅子円文,右近衛右衛門は熊円文,兵衛には鴛鴦円文をつけ,兵衛を兼ねたものは獅子,熊いずれを用いてもよいことになっていた。また舞楽装束のうちにも蛮絵装束があった。伶人(れいじん)は兵衛府の官人がなる例であったので,その制服のままただちに舞踏したからであろう。袍の色は,ふつうは白地に墨色で摺文をしたものであるが,舞楽などには,左衣は浅紫,右衣は黄地で表に蛮絵を四つ,背に六つをつけ,五色の糸で繡ったものもある。源高明(914-982)著とされる《西宮記》に,〈延長六,七,八日,相撲……,了左右各舞二曲〈舞人〉服蛮絵袍……〉とあり,平安時代に行われたことが知られる。厳島神社蔵の火炎雲に囲まれた熊円文の蛮絵板木は,裏に永徳4年(1384)甲子3月の刻銘があり,南北朝時代のものである。おそらく室町時代末から安土桃山時代ころまでつづいたと思われる。

 蛮絵は文様を陽刻した円形板木に墨を塗り,織物に印花したもので,古くから字義について諸説がある。(1)南蛮絵とする説(《倭訓栞》),(2)蛮国から唐に伝わった女楽の服の紋とする説(《嬉遊笑覧》),(3)蛮々という比翼鳥の絵とする説(《禁秘抄階梯》),(4)盤絵から転じたという説(《禁秘抄》傍注,《錦所談》,その他)などがあり,(4)は江戸時代に最も広く行われたものである。私見では,技法上,板絵(板木絵の意)からではないかと思う。蛮絵毯代(たんだい)というのが別にある。平安時代から宮中宴席に公卿の座にしき,その末期には公卿の台盤の敷物となったことが大江匡房の《江家次第》元日宴会の条に〈近例……東西両行設親王公卿座,鋪紺布蛮絵毯代〉,また〈近例以件紺布蛮絵毯代,敷台盤下,不敷兀子下訛也……〉とあるので知られる。獅子円文をあらわしたものであろう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「蛮絵」の意味・わかりやすい解説

蛮絵
ばんえ

草花、鳥獣などのモチーフを丸く円文風にまとめた模様。摺(す)りや繍(ぬ)いで表した装束の蛮絵が、今日もっともよく知られているが、『類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう)』に「御調度蛮絵螺鈿沃懸地(らでんいかけじ)」、あるいは『今昔物語』に「蛮絵に蒔(ま)きたる硯(すずり)の箱の蓋(ふた)」とあり、調度品の蒔絵(まきえ)模様としても用いられた。また『延喜式(えんぎしき)』に「蛮絵下食盤四口」という記事があり、この名称はすでに平安前期から用いられていたことが知られるが、その字義については諸説があり、明らかでない。しかし、この種の円文はササン朝ペルシアに数多くみられるもので、おそらく西方の蛮国から伝わった模様という意味に、この模様の形式が丸い盤形であるのを懸けて蛮絵とよんだのではなかろうか。遺品としては、教王護国寺蔵・舎利会装束中の獅子(しし)と熊の蛮絵を摺文で表した麻袍(あさのほう)(鎌倉時代)が有名である。

村元雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「蛮絵」の意味・わかりやすい解説

蛮絵
ばんえ

盤絵とも書く。古くは外国の使臣を蛮客と称し,外国系統の鳥獣文を蛮絵といった。草花や鳥獣を丸い形に文様化して木版に陽刻し,墨で布地に摺ったり縫取りにした。平安時代以降,おもに近衛の随身の褐衣 (かちえ) や,舞楽の歌方の袍 (ほう) に用いられた。

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世界大百科事典(旧版)内の蛮絵の言及

【褐衣】より

…定まった色はなく檜皮(ひわだ)色,紫,紺,鈍(にび)などの色が用いられたようである。これにはまた蛮絵(ばんえ)といって,丸い形に模様化された鳥獣の紋を袖につけることが行われた。〈蛮絵の袍(ほう)〉といわれるものがこれである。…

【染色】より

…また絞染も結染(ゆいぞめ),括染(くくりぞめ)あるいは目結(めゆい),目染などと呼ばれ,引き続き行われたが,かつて盛んであった纈は姿をひそめてしまった。その代り摺染が下級者の文様表現として愛好され,それは後世に蛮絵(ばんえ)と呼ばれる技法に発展している。おもしろいのは牛飼いなど下級者の晴れの狩衣に,裏形というものが用いられたことである。…

※「蛮絵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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