空中へ煙とともに有効成分を拡散してカを駆除する渦巻状の燻煙剤(くんえんざい)。夏の風物詩であり、また生活の必需品でもある。カと人間の戦いの歴史は古く、『万葉集』にはすでに「蚊火(かび)」という語がみられる。江戸時代には「蚊遣(かやり)」といって煙をくゆらせてカを追い払う方法として種々の草木が広く用いられるようになった。1885年(明治18)には殺虫効果のあるジョチュウギク(除虫菊)がアメリカ人のH・E・アーモアなどによって紹介され、90年にジョチュウギク粉による棒状蚊取り線香(長さ約30センチメートル、燃焼時間約1時間)が創案された。そして95年には、現在のような画期的な渦巻状の蚊取り線香が考案された。
現在の蚊取り線香には、主成分のピレトリンと、これによく似た分子構造をもつ一連の合成品であるピレスロイドが使用されている。これの特性はカなどの害虫に対して速効を示し、また抵抗性もつきにくいが、逆に人畜にはきわめて低毒で、生体内における分解、排泄(はいせつ)が速やかになされるという選択毒性をもっている点である。製法は、ピレスロイドと、燃焼剤として木粉(もくふん)、粕粉(かすこ)(除虫菊乾花の抽出粕)、粘結剤としてデンプン、たぶ粉(タブノキの葉や樹皮などの粉末)、着色剤を調合し水を加えてよく練り、押出し機にかけて板状にしたものを渦巻型に打ち抜き、乾燥したものである。点火すると、燃焼部分(約800℃)の少し離れたところ(約250℃)から超微粒子となったピレスロイドが空中に拡散され、約7時間半の効果が持続する。最近はピレスロイドを含むマットや液体を、電気加熱板で空中拡散させる電気蚊取り器も普及している。
なお、現在ジョチュウギクの主産地は、アフリカのケニア、タンザニアなどで、日本での生産は、瀬戸内海沿岸の一部地方で、観光用として、わずかに栽培されているにすぎない。
[勝田純郎]
(2014-7-15)
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