虹(気象)(読み)にじ(英語表記)rainbow

翻訳|rainbow

日本大百科全書(ニッポニカ) 「虹(気象)」の意味・わかりやすい解説

虹(気象)
にじ
rainbow

雨上がりのときなどに、太陽と反対方向に現れる色のついた光の輪。太陽の光が雨滴の中で屈折し反射してできる。月の光でもできるが、太陽のときに比べ色が薄い。

[大田正次]

虹の種類

虹には主虹(しゅにじ)、副虹(ふくにじ)などのほか次の各種がある。

(1)主虹 太陽と観測者を結んだ線の延長方向の点を対日点というが、この対日点を中心として半径約42度(赤色の部分)で、輪の外側が赤、内側がすみれ色でその幅が約2度の虹である。普通によく見られる虹であるが、いわゆる「虹の七色」(赤、橙(だいだい)、黄、緑、青、藍(あい)、すみれ色)全部が同時に現れることは非常にまれである。どの色が現れやすいかは雨滴の大きさによる。大きい雨滴(直径1~2ミリメートル)のときは、赤、橙、緑、すみれ色がはっきり出る。また小さい雨滴(直径0.2~0.3ミリメートル)のときは橙、緑の2色くらいとなり、虹の幅も広くなる。

(2)副虹 主虹より一回り大きい虹で、対日点を中心として半径約51度(赤色の部分)である。色の配列は主虹とは逆で、内側が赤、外側がすみれ色でその幅は主虹の約2倍(約4度)である。主虹より薄いので、うっかりすると見落としてしまう。色も不鮮明で白い光の帯に見えることもある。主虹は雨滴の内面で太陽光が1回反射して出てきたものであるが、副虹の場合には2回反射してできる。

 虹あるいは虹の写真を見て感じるのは、虹の内側の空が比較的明るく見えることである。さらに細かくみると、副虹の外側の空も明るく見える。主虹の内側や副虹の外側が比較的明るく見えるのは、内側や外側に浮かんでいる雨滴の内部で反射した太陽光が目のほうへ戻ってくるためである。

(3)過剰虹(または干渉虹) 主虹の内側のすみれ色のすぐ近くにふたたび赤色や緑色の虹が部分的に現れる虹。この虹は主虹の脚(あし)の部分(下部)よりも頂(いただき)に近い部分(上部)に現れやすい。光の屈折や反射に干渉が加わって生じた虹であることから干渉虹ともいう。主虹の方向、すなわち対日点から半径約42度のすぐ近くの角度で雨滴から出る光が互いに干渉して弱め合ったり、強め合ったりして目に入るためにできる。副虹の外側にもできるが、これはきわめてまれである。

(4)反射光虹 主虹の脚(下部)の位置から立ち上がり、主虹より高い位置により円い虹として出る虹。色の配列は主虹と同じである。観測者の背後に海や湖などの水面があって、太陽光線がいったん水面で反射し、その反射光の反射対日点の周り42度にできた虹で、反射光主虹ともいう。副虹の脚(下部)の位置から立ち上がる反射光副虹もできることがある。反射光虹とは別に反射虹がある。これは、観測者の前面に湖などの水面があり、虹がいったん水面で反射して目に入ったものである。これは空の虹がそのまま水面で反射したものではなく、別の雨滴にできた虹が水面で反射したものである。

(5)霧虹(きりにじ) 霧の幕の上に現れる虹。霧粒(きりつぶ)は雨粒に比べて小さいので、太陽光は霧粒の中で屈折反射しさらに回折によって虹ができる。対日点を中心として半径約42度の白い帯になる。虹の幅は通常の虹より広く2倍くらいである。しかしよく見ると外側に薄い赤、内側に薄い青が見られる。色が薄いので白虹(しろにじ)ということもある。

 霧虹は御光(ごこう)(またはブロッケンの妖怪(ようかい))と同時に現れることがある。飛行機の窓から下の雲海を見下ろしたとき、雲海の上に飛行機の影が映り、そのすぐ周りに色のついた光の輪が現れる。これは御光である。さらにその周りに大きな白い光の輪が現れる。これが霧虹(この場合雲虹(くもにじ))で、虹の形は普通、線形または楕円(だえん)形となる。これは目と雲海上の対日点を結ぶ半径約42度の円錐(えんすい)が雲海と切り合った曲線である。この切り口は太陽の高さが42度以上になると楕円になり、さらに高くなると円に近づく。

 霧虹には過剰虹ができることがある。霧虹と過剰虹の中間の黒い帯の角度、すなわち対日点からの角度を測って霧粒の直径を計算することができる。霧虹は気温が零下10℃くらいのときでも現れる。この場合の霧は氷晶ではなく、過冷却した水粒であることがわかる。

(6)月の虹 月を光源としてできる虹。月の虹は非常に薄く、白色に見える。しかしカラーフィルムで撮影すると着色された映像が得られるという。月の虹は月の暈(かさ)と間違いやすいが、月の虹は月を背にした側に出るので月の暈と区別できる。

(7)水平虹 水面に浮かんだ塵埃(じんあい)などに、朝方に露がつき、その露に太陽光が屈折反射してできた虹。この虹は水平になる。

(8)赤虹(あかにじ)、赤外虹(せきがいにじ) 夕方太陽が水平線に沈むころ東側の空の雲に出る赤色の虹。雲に出る虹は白虹に近いのが本来の姿であるが、日没ごろは太陽光は長い距離の大気を通過してくるために散乱によって青色を失い、赤色となる。そのため虹も白虹でなく赤虹となる。赤外線フィルムおよび赤外線用フィルターを組み合わせて、光の波長800~930ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)のみに感光するように調整して虹を撮影すると、肉眼では見えない赤外線領域にも虹が出ることが1971年ごろ判明した。

[大田正次]

その他の虹

虹が出る場所としては、自然現象としての虹のほかに、ホーススプリンクラーの散水や噴水の際、また滝のしぶき、芝生に降りた露、クモの巣に付着した水滴などによっても現れる。なお虹の観察法としては色の配列の順序や角度判定がある。腕を前に伸ばして指をいっぱいに広げると、親指の先と小指の先とを結ぶ幅が約20度になるので、角度判定に利用できる。

[大田正次]

諸民族の虹認識

虹に対する認識は諸民族によって一定していない。虹は一種の自然現象であって、世界中どこでも虹の現象には本質的な差異がないが、虹をいかに考えるかは、かならずしも一定していない。虹の色の認識についても、メキシコのマヤ系ツォツィル語を話すチャムラの集団においては、一説では、虹の色は7色でなく3色である。上からアオ(青=緑)、黄、赤の順序である。チャムラはまた、虹の出ているとき雨に当たると病気になり、虹を指さしてはいけないという。チャムラに隣接して住んでいるシナカンタンの集団では、子供が虹を指さすと指が腐るといい、子供は虹を見つめてもいけないとされている。

 虹を指さしてはいけないというタブーは、不思議にかなり広く分布している。同じアメリカ大陸についてみれば、南米コロンビアの先住民デサナの社会でも、虹を指さしてはいけないとされている。その神話では、一種のウナギのような魚が世界の大火のあと水から出てきて、天と地との仲介者になった。これを指さすと、虹が魚の姿に戻ってかみつくという。ベネズエラのパナレの人々は、創造主マナタシが視覚に訴える形で姿を現したのが虹であると信じている。

 東南アジアでは、アッサム地方のセマ・ナガ人は虹を「神霊の橋」とし、アンガミ・ナガ人も虹を神の用いる通路としている。台湾の原住民(中国語圏では、「先住民」に「今は存在しない」という意味があるため、「原住民」を用いる)ブヌン、サイシャットなどにおいても、虹を指さしてはいけないという。ベンガル湾東部のネグリト系のアンダマン群島民は、虹を死者の世界との間にまたがる杖(つえ)とみなし、死者がこの世にやってくるときはこの虹を伝わってくるといい、虹を不吉な兆し、病気の前兆と考えている。インドネシアスラウェシ(セレベス)島のトラジャのシャーマンは、神がかりのなかで虹を伝い天に昇ると信じられている。

 オーストラリア先住民のシャーマンも同じように虹を伝わって天に昇れるといわれている。トルコ人、北欧のサーミ人、ノルウェーなどにも、虹を天と地との橋とみる観念がみられる。この観念は古代ギリシアにさかのぼることができる。ギリシア神話の女神イリスは虹の神で、天と地、神々と人間を結ぶとされ、神々の使者とされている。

 虹は蛇であるという観念も広くみられる。インドネシアのランバタ島では、泉には守護霊である大蛇がすんでいて、泉の近くに現れる虹はこの蛇であるといわれる。ここでも虹を指さしてはいけないとされている。日本でも虹は水神の現れとされ、水神は蛇のことが多く、虹を指さすなというタブーがあった。虹と蛇との結び付きはこのほかに、マレー半島、フィリピンのミンドロ島、オセアニアのフィジー島、アフリカのイボ、ハウサ、バンバラ、アザンデの人々、コンゴ地方のムブティ人、南アメリカ、その他にみられる。虹と蛇との結合がよく現れ、それが世界観のなかで重要な、ときには中心的な位置を占めているのがオーストラリア先住民の「虹蛇」Rainbow-Serpentである。

 虹に関連する観念の分布を検討すると、虹を天と地との媒体とする観念や、虹を蛇と結び付ける観念が広く分布していることがわかる。このなかには、伝播(でんぱ)によるものもあろうし、独立に発生したものもあろうが、いずれもいまからそれを実証することは困難である。いずれにしてもそこには、人類に類似の内在的傾向が働いているのであろう。虹をなんらかの意味で神聖なものとしてとらえた場合、それには、指さしてはいけないなどのタブーが伴いやすい。聖なるものは状況によっては危険視されるからである。

[吉田禎吾]

『『古野清人著作集 第4巻』(1972・三一書房)』『吉田禎吾著『宗教人類学』(1984・東京大学出版会)』『福井勝義著『認識と文化――色と模様の民族誌』(1991・東京大学出版会)』


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