虚偽(読み)きょぎ(英語表記)fallacy

翻訳|fallacy

精選版 日本国語大辞典 「虚偽」の意味・読み・例文・類語

きょ‐ぎ【虚偽】

〘名〙
① 真実ではないと知りながら、真実であるかのように、故意によそおい、見せかける事柄。また、特に誤った思考、知識。うそ。いつわり。そらごと。こぎ。
古事記(712)序「諸家の(も)てる帝紀本辞、既に正実に違(たが)ひ、多く虚偽を加ふときけり
※懶室漫稿(1413頃)七・寿岳居士香「翁之忠貞、奉主一点無虚偽」 〔荘子盗跖
② 外見上は正しく見えるが、妥当ではない議論。論理学でいう。

こ‐ぎ【虚偽】

〘名〙 (「こ」は「虚」の呉音) うそ。いつわり。虚妄であって真実でないこと。きょぎ。
※勝鬘経義疏(611)一乗章「云虚偽衆生七地以下未変易

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デジタル大辞泉 「虚偽」の意味・読み・例文・類語

きょ‐ぎ【虚偽】

真実ではないのに、真実のように見せかけること。うそ。いつわり。「虚偽の申し立て」
[類語]偽り法螺そら嘘っぱち嘘八百偽善まことしやか二枚舌はったり虚言虚辞そら言そら音もっともらしいでたらめ出任せ出放題荒唐無稽事実無根根も葉もない

こ‐ぎ【虚偽】

きょぎ(虚偽)」に同じ。
「今までの―、本心にかへって、仏の道に入れ」〈浮・一代女・六〉

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改訂新版 世界大百科事典 「虚偽」の意味・わかりやすい解説

虚偽 (きょぎ)
fallacy

一見正しく見えはするがほんとうはまちがっている議論のこと。虚偽はある場合は他人をあざむくために使われ,ある場合には,あざむく意図がなくとも知らずにうっかり使われる。しかしいずれの場合にしても虚偽を使用することは好ましくないことであり,それゆえ論理学の目的の一つはそうした虚偽をあばきだし,その使用を食い止めることにある。虚偽とは人間の理性がおかされる病気といえるが,ちょうど生理学が人体の病気の研究である病理学から発展したのとおなじように,論理学は理性の病気の研究である虚偽論から発展してきた。それゆえ論理学の創始者といわれるアリストテレスが優れた虚偽論を書いたことは当然のことだといえる。彼はそこでいろいろな虚偽を列挙し分類しただけではなく,それがなぜ虚偽であるかをはっきりと示してみせたのである。

 アリストテレスは虚偽を〈言語上の虚偽〉と〈言語外の虚偽〉に大別した。言語上の虚偽は同一の語あるいは文によって同一のものが意味されないことから生じる。例えば〈笑うところのものはなんでも口をもつ。しかるに花が笑っている。ゆえに花は口をもつ〉において〈笑う〉という語が二義的に使われているからそうした議論は虚偽である。つぎに言語外の虚偽は〈エチオピア人は歯において白い。ゆえにエチオピア人は白い〉のように条件つきの前提から条件をはずした結論をひき出す議論とか,〈これは長さの点でそれの2倍である。これは幅の点で同じそのものの2倍ではない。ゆえにこれは2倍であり2倍でない〉のように同一の観点を保持すべきなのにそれを無視する議論がその例である。そしてこれら2例がともに言語外の虚偽であることは明らかである。アリストテレスは以上のような虚偽論とは別に三段論法理論をつくったが,この理論によれば,三段論法であるようにみえて実は正しくない議論はすべて機械的に発見することができる。そしてそうした種類の虚偽は形式的虚偽といわれる。近代論理学は三段論法以外の何種類かの形式的論理体系をつくりあげたが,そうした体系にもとづいて各種の形式的虚偽を機械的に摘発することが可能である。

 論理学の一部門に帰納法がある。そしてこの帰納法に関係するいくつかの虚偽がある。例えば〈あまりにも少ない証拠をもとにして結論を引き出すという虚偽〉や〈一方にかたよりすぎた証拠にもとづいて結論を引き出す虚偽〉などがそれである。以上はすべて論理学上の虚偽であるが論理学の範囲外とみられる虚偽もある。無生物を人間同様とみなす擬人観的虚偽や,経験科学的命題(〈である〉を使う命題)から倫理的命題(〈べきである〉を使う命題)を引き出す虚偽がそうである。形式的虚偽以外はどの虚偽も機械的には摘発できない。いくつもの虚偽のタイプを記憶し,進行中の議論がそれに属していないかに留意することが望ましい。
詭弁
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「虚偽」の意味・わかりやすい解説

虚偽
きょぎ

英語のfalsehoodなどに対応する概念であって、普通は「事実に反することを述べること」などと定義される。しかし、事実とはいったい何であるかについては、さまざまな哲学的な議論がある。たとえば、「目の前に桃色のゾウがいる」といったアルコール中毒患者は、虚偽を述べたことになるのであろうか。当人に見えたものを事実とすれば、おそらく当人は事実を述べているのである。しかし、他人にはそのゾウは見えない。そのことから虚偽だということにするなら、事実とは、他人に見えた事柄だということになるのか。しかし、それなら、他人が1人もいないときには、事実はないことになるのだろうか。こういったことを追いかけてゆくと、認識論上の長い議論に巻き込まれることになる。また、数学的命題の場合、表現している事実がかりにあるとしても、それは一義的には決まらない、とするのが、近ごろの論理学界の主流派の意見である。要するに「事実」というのは、哲学的に問題の多い概念なのである。

 ところで、数学的な命題は、無矛盾な公理論に組み入れられたとき、その否定が定理である場合には、正しくないものとされる。このように、なんらかの基準によって正しくないものとされる命題を「虚偽」あるいは「偽(いつわり)な命題」とよぶことがある。この言い方では、事実への言及を避けることができるが、そのかわり、虚偽であるかどうかは、基準に応じて変わる、相対的な性質だということになる。

[吉田夏彦]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「虚偽」の意味・わかりやすい解説

虚偽
きょぎ
fallacy

誤った思考。論理学では誤った推理。誤謬,論過ともいう。故意に行う虚偽の議論を詭弁という。アリストテレスの虚偽論以来,種々の分類が行われ一定しないが,おもなものは次のとおりである。 (1) 事柄の誤述 (a) 偶有性の虚偽 本質的性質と偶然的性質を混同する場合。 (b) 偶然の虚偽 一般原則を特殊事例にそのまま適用し,またその逆の場合。 (c) 論点相異の虚偽 議論中に恣意に論点を変更したり,相手の感情に訴えたりする場合。 (d) 論点先取の虚偽 いまだ証明されていないものを前提に加える,または前提が真であることを結論によって論証する場合。 (e) 帰結の虚偽 継起的判断を逆順とする場合。 (f) 不当理由の虚偽 理由にならぬことを理由とする場合。 (g) 前後即因果の虚偽 前後関係を因果関係とみる場合。 (h) 複問の虚偽 1つの質問に2つの意味を含ませる場合。 (2) 言語の誤用 語意や文意の曖昧。語や文が真でも結合や分解によって偽となること,文章の一部強調や語形の類似を意味の類似とみることからくる虚偽など。 (3) 推理過程の誤り 三段論法の規則に対する反則。真実性に対する沈黙のような消極的行為も虚偽とみなされることもある。動機が愛から出た場合は必ずしも退けられない。

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普及版 字通 「虚偽」の読み・字形・画数・意味

【虚偽】きよぎ

いつわり。〔荘子、盗跖〕子のは、狂狂、詐巧僞の事なり。以て眞をうすべきに非ざるなり。奚(なん)ぞ論ずるに足らんや。

字通「虚」の項目を見る

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百科事典マイペディア 「虚偽」の意味・わかりやすい解説

虚偽【きょぎ】

外見は正しいようにみえるが,実は誤っている論理。論理学では誤った推理(推論)をいい,推理の規則を守らないことからくる形式的虚偽とそれ以外の非形式的虚偽に分ける。後者には言葉のあいまいさ,前提の誤り,推理の循環から生ずるものなどがある。→詭弁
→関連項目循環論法真理

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