藤原氏(鎌足に始まる氏族)(読み)ふじわらうじ

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

藤原氏(鎌足に始まる氏族)
ふじわらうじ

初め中臣(なかとみ)氏と称する。古代において政権を握り、朝廷の中心となった氏族。大化改新に功のあった鎌足(かまたり)が、没する直前に天智天皇(てんじてんのう)から藤原朝臣(あそん)の姓(かばね)を賜ったことに始まる。藤原は大和国(やまとのくに)高市(たけち)郡の地名によるもの。ついで中臣氏で藤原と称する者も多くなってきたが、698年(文武天皇2)より鎌足の子不比等(ふひと)の子孫のみが藤原朝臣を称するようになった。不比等は大宝律令(たいほうりつりょう)、養老律令撰定(せんてい)に功多く、平城宮の経営に参加するなど、また、その女(むすめ)宮子が文武天皇(もんむてんのう)夫人として聖武天皇(しょうむてんのう)を産み、外戚(がいせき)を確立した。同じく、光明子(こうみょうし)が臣下として初めて聖武天皇の皇后にたつなどして藤原氏の隆盛の基礎を開いた。ここに律令官僚貴族としての藤原氏の地位を築いた。

 一方、不比等の子に武智麻呂(むちまろ)、房前(ふささき)、宇合(うまかい)、麻呂(まろ)の4人があって、奈良朝初期の政界重きをなしていた。南家の仲麻呂(なかまろ)(恵美押勝(えみのおしかつ)。武智麻呂の子)、式家は広嗣(ひろつぐ)、百川(ももかわ)(宇合の子)、京家は浜成(はまなり)(麻呂の子)らが一時的に栄えたが、政治的事件に関係して衰え、このうち房前の北家のみが発展してゆく。北家も奈良時代は永手(ながて)、真楯(またて)、清河(きよかわ)、魚名(うおな)らがいたが、たいして権力をもつわけではなかった。しかし、平安朝に入って真楯の子内麻呂(うちまろ)、その子冬嗣(ふゆつぐ)らが出て、にわかに勢力を出し、冬嗣は嵯峨天皇(さがてんのう)に信頼が厚く、蔵人頭(くろうどのとう)になるなどして大いに権力を振るった。冬嗣の子良房(よしふさ)は人臣摂政(じんしんせっしょう)の始まりであり、ついで良房の養子基経(もとつね)は関白となり、これより以後、代々北家より摂政、関白、太政大臣(だいじょうだいじん)となる者が多くなり、中宮にも北家の女が多くなった。良房の女明子(あきらけいこ)(文徳女御(もんとくにょうご)、清和(せいわ)母)、基経(もとつね)の女穏子(おんし)(醍醐(だいご)后、朱雀(すざく)・村上(むらかみ)母)、師輔(もろすけ)の女安子(あんし)(村上后、冷泉(れいぜい)・円融(えんゆう)母)、伊尹(これただ)の女懐子(かいし)(冷泉女御、花山(かざん)母)、兼通(かねみち)の女子(こうし)(円融后)、兼家の女超子(ちょうし)(冷泉女御、三条(さんじょう)母)、同詮子(せんし)(円融女御、一条母)、道隆(みちたか)の女定子(ていし)(一条后)、道長の女彰子(しょうし)(一条中宮、後一条・後朱雀(ごすざく)母)、同妍子(けんし)(三条中宮)、同威子(いし)(後一条后)、同嬉子(きし)(敦良(あつなが)親王〈後の後朱雀天皇〉妃、後冷泉(ごれいぜい)母)等々である。外戚関係を築きつつ、権力の座をめぐって北家一族の兄弟(兼通、兼家)あるいは叔父(おじ)、甥(おい)(道長(みちなが)、伊周(これちか))の争いはすさまじいものであった。

 その結果、道長の時代が最盛期となり、摂政・関白・太政大臣以下重要な官位を一族で独占した。道長の長男頼通(よりみち)のときまで氏長者(うじのちょうじゃ)として一族を代表し、氏長者印や朱器台盤を伝領した。しかし、頼通が外戚を築かなかったことをはじめとして、藤原氏の権力は崩れ始め、院政とそれに続く武家勢力の発展とともに、鎌倉時代に入って五摂家(近衛(このえ)、鷹司(たかつかさ)、九条、二条、一条)に分かれるようになった。頼通の子孫忠通(ただみち)の子の基実(もとざね)流(近衛家)、兼実(かねざね)流(九条流)に次いで兼実の孫道家の代に、道家の子頼経(よりつね)は鎌倉の将軍となり、朝幕間に権勢を振るい、道家の3子、九条教実(のりざね)、二条良実(よしざね)、一条実経(さねつね)がそれぞれ摂関となり、九条家から分かれて、二条家、一条家が成立した。それ以後、五摂家が交代して摂関になり江戸時代にまで及んだ。その間、五摂家のほかに閑院(かんいん)、花山院、御子左(みこひだり)、四条、勧修寺(かじゅうじ)、日野、中御門(なかみかど)など傍系が多い。日本の代表的な貴族の家である。日本史上、他に類をみない氏であるといえよう。また、奥州藤原氏もある。

[山中 裕]


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