薩摩歌(読み)さつまうた

改訂新版 世界大百科事典 「薩摩歌」の意味・わかりやすい解説

薩摩歌 (さつまうた)

人形浄瑠璃世話物。3巻。角書〈源五兵衛おまん〉。近松門左衛門作。《外題年鑑(明和版)》は1704年(宝永1)正月大坂竹本座初演とするが不確実。11年(正徳1)正月以前成立の《紫竹集》に本作の道行を収めるので,少なくともそれ以前の初演とみられる。源五兵衛・おまんを歌う近世初期の俗謡によって構想されたのであろう。《好色五人女》巻五〈恋の山源五兵衛物語〉からも趣向を得ている。薩摩の侍菱川源五兵衛はおまんとの恋が原因で国許を出て,京都の小万の屋敷草履取となり,ここで小万の許嫁(いいなずけ)笹野三五兵衛を知り,彼が探している父の敵のありかを教える。薩摩ではおまんが継母のためほかの男との結婚を強いられている。源五兵衛は帰国して名を変え,おまんの家に奉公していたが,京で小万の身代りとなって彼と契ったおらんが来たことがもとで追い出され,坊の津の彼の家に追って来たおまんと継母を斬って切腹し,かけつけた三五兵衛と小万に救われる。舞台的技巧はこらされているが人物の造型は甘く,全編の構成は拡散的で,内容には伝奇的な色彩が強い。初演後に宇治加賀掾座で大幅に改訂上演したとみられる正本がある。《外題年鑑(明和版)》が1709年(宝永6)竹本座上演と記す《おまん源五兵衛 蘆別舟》は,再演の際の外題であろう(正本未見)。近松作の世話物としては評価は低いが,後年のおまん源五兵衛物源泉となった点に歴史的意義がある。
おまん源五兵衛物
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android