菅義偉内閣(読み)すがよしひでないかく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「菅義偉内閣」の意味・わかりやすい解説

菅義偉内閣
すがよしひでないかく

(2020.9.16~2021.10.4 令和2~3)
2020年(令和2)に成立した自由民主党自民党)と公明党による連立内閣。同年8月に病気を理由に首相の安倍晋三(あべしんぞう)が退陣を表明すると、官房長官であった菅義偉はただちに自民党幹事長の二階俊博(にかいとしひろ)(1939― )に総裁選出馬の意向を示し、二階派が菅支持を打ち出すと、最大派閥の細田派筆頭に党内各派閥が次々と支持を表明した。この結果、9月の総裁選では約7割の得票で岸田文雄石破茂(いしばしげる)(1957― )に圧勝し、第26代自民党総裁に就任した。9月16日の衆参両院での首班指名選挙内閣総理大臣に指名され、第99代内閣総理大臣に就任して内閣を発足させた。組閣にあたっては、自身が務めていた官房長官に安倍内閣の厚生労働大臣だった加藤勝信(かとうかつのぶ)(1955― )を起用したほか、副総理兼財務大臣に麻生太郎(あそうたろう)、外務大臣茂木敏充(もてぎとしみつ)(1955― )、文部科学大臣に萩生田光一(はぎうだこういち)(1963― )など、あわせて11名を再任ないしは横滑りさせ、安倍政権からの継続性を印象づけた。就任の記者会見で菅内閣を「国民のために働く内閣」と名づけ、10月の所信表明演説では温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする目標を示したほか、デジタル庁の新設、携帯電話料金の引き下げ実現を掲げた。また「自助共助、公助、そして絆」を、目ざすべき社会像であるとし、新自由主義的社会観を披露した。経済政策ではアベノミクスの継続を明言した。政権発足時の支持率(『朝日新聞』の世論調査、以下同じ)は65%(不支持率は13%)と順調な滑り出しであった。しかし、政権の足を引っ張ったのは新型コロナウイルス感染症(COVID(コビッド)-19)への対応であった。経済優先を掲げたため、対策がつねに後手後手に回った。首相自らが旗振り役となった「GO TO トラベル」がその象徴で、2020~2021年の年末年始の感染拡大を抑えるためとして、12月に全国一斉停止を発表せざるをえなかった。2021年に入ると、そうそうに首都圏に2度目の緊急事態宣言を発出したが、この間ワクチンの供給不足のためにワクチン接種が大幅に遅れる事態となり、医療提供体制は危機的な状況へと追い込まれた。また、1年延期となった東京オリンピック・パラリンピックの開催に執念を燃やし、感染拡大のなか開催にこぎつけたものの実質的に無観客開催となり、期待した政権浮揚にはつながらず、オリンピック閉幕後の8月13日には、全国の新規感染者が初めて2万人を突破した。内閣発足時、政府のコロナウイルス感染症対策への国民の期待は高く、首相の取組みに「期待できる」は63%で、「期待できない」の22%を大きく上回っていた。しかし翌年8月には、政府のコロナウイルス感染症対策を「評価する」は23%で「評価しない」は66%に上り、また、内閣支持率も28%にまで落ち込み、不支持率は53%と初めて50%を超えた。内閣発足直後の2020年10月1日には日本学術会議が推薦した会員候補者のうち6名の任命を拒否したことが明らかになったが、野党や学術会議からの再三にわたる任命拒否の撤回と拒否の理由の開示の要求にはいっさい答えなかった。内閣支持率が低迷するなか、2021年4月に行われた三つの衆参補欠選挙・再選挙で自民党は全敗、7月の東京都議会議員選挙でも自公で過半数を獲得できず、事実上の敗北とされた。自民党総裁選と衆議院の総選挙が近づくなか、7月17日に出演したテレビ番組で総裁再選に意欲を示したが、8月末に二階幹事長の交代を含む党役員人事を行うことと、9月中旬に衆議院を解散し、総裁選を先送りとするという選択肢を党に示すと猛反発を受け、9月3日に総裁選不出馬を表明した。9月29日、岸田文雄が自民党総裁に就任し、10月4日の国会での首班指名選挙で第100代内閣総理大臣に指名されたことを受け、菅内閣は総辞職した。在任期間は384日であった。

[伊藤 悟 2022年3月23日]

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