草摺引(読み)くさずりびき

精選版 日本国語大辞典 「草摺引」の意味・読み・例文・類語

くさずり‐びき【草摺引】

〘名〙
和田義盛一門の酒宴の際、曾我五郎時致の草摺を、朝比奈義秀がつかんで宴席に引き込もうとして力くらべになった話。「曾我物語」から幸若舞曲の「和田酒盛」となり、後世、多くの浄瑠璃歌舞伎に仕組まれた。また、舞踊化されて草摺引物の一系統を形成した。
歌謡・松の葉(1703)四・草摺引「扇団扇(うちは)婆娑羅絵(ばさらゑ)にも、腕押、首引、くさずりひき」
② (転じて) 互いに引き合うこと。
※雑俳・柳多留‐三八(1807)「はたごやの草摺引は七ツ過ぎ」

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改訂新版 世界大百科事典 「草摺引」の意味・わかりやすい解説

草摺引 (くさずりびき)

歌舞伎舞踊系統の一つ。親の仇敵工藤祐経ありと聞いた曾我五郎が,鎧を小脇に駆けこむのを,小林朝比奈が草摺を捕らえ,引き止めて意見忠告する筋。これを舞踊化した作品のすべてを〈草摺引物〉という。発生は古く,江戸歌舞伎の初春狂言として〈曾我物語〉に材をとる慣習が式例化すると,数多の同類作品が生じた。しかし現在もなお《草摺引》と称して上演されているのは,1787年(天明7)正月江戸桐座初演,長唄《菊寿の草摺(きくじゆのくさずり)》(通称《勢い》,1世杵屋正次郎作曲)と,1814年(文化11)正月江戸森田座初演,長唄《正札附根元草摺引(しようふだつきこんげんくさずりびき)》(通称《正札附》,4世杵屋六三郎作曲)の2作だけ。前者は荒事芸の手ほどきとして,舞踊修業の初歩段階に教えられ,舞台でも相応に子供が上演。後者は歌舞伎本興行のほかに一般舞踊会でも上演。ただし朝比奈を朝比奈女房,舞鶴の役に直し,女方が演じる場合が多い。約束事や決りの型が多く,双方とも古風で正月らしい味わいが十分な作品である。
帯引物 →曾我物
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「草摺引」の意味・わかりやすい解説

草摺引
くさずりびき

歌舞伎(かぶき)演出の一系統、またはこれに基づく舞踊劇の通称。『曽我(そが)物語』の一節、および幸若舞(こうわかまい)『和田酒盛(わだのさかもり)』にある、曽我五郎が兄十郎の危難を救おうと鎧(よろい)をつかんで駆け出すのを、小林朝比奈(あさひな)が引き留めるが、引き合ううちに2人とも大力なので、鎧の草摺がちぎれるという話を脚色したもの。1688年(元禄1)初めて歌舞伎に扱われ、98年5月江戸・中村座で初世市川団十郎の五郎、初世中村伝九郎の朝比奈によって演じられた荒事(あらごと)の『兵根元曽我(つわものこんげんそが)』が演出の基盤。その後長唄(ながうた)の舞踊劇として多くつくられたが、1814年(文化11)1月江戸・森田座の7世団十郎の五郎、初世市川男女蔵(おめぞう)の朝比奈による『正札附根元(しょうふだつきこんげん)草摺』(通称「正札附」。4世杵屋(きねや)六三郎作曲・藤間大助振付け)が決定版として今日に伝わった。なお、朝比奈を女の役にしたのは1787年(天明7)の『菊寿(きくじゅ)の草摺』(通称「いきおい」)が最初だが、「正札附」でも俳優の都合で朝比奈のかわりに和田の舞鶴(まいづる)で演じる型が現代でもよく行われている。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「草摺引」の意味・わかりやすい解説

草摺引
くさずりびき

歌舞伎舞踊曲。長唄。本名題『正札付根元草摺 (しょうふだつきこんげんくさずり) 』。別称『正札付』。文化 11 (1814) 年江戸森田座で『双蝶々仮粧曾我 (ふたつちょうちょうよそおいそが) 』の1番目所作事として,7世市川団十郎,1世市川男女蔵により初演。鶴屋南北ほか作,4世杵屋六三郎作曲,藤間大助振付。草摺引物の代表作の一つ。剛直な荒若衆である曾我五郎と,悪身 (わりみ。男が女を滑稽にまねる振り) をするなど愛敬のある小林朝比奈とを対照的に描く。朝比奈の代りに男まさりの妹舞鶴が出される演出も多く行われる。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「草摺引」の解説

草摺引
(通称)
くさずりびき

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
兵根元曾我 など
初演
元禄8.4(江戸・山村座)

草摺引
(別題)
くさずりびき

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
草ずり引
初演
享保1.2(江戸・中村座)

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世界大百科事典(旧版)内の草摺引の言及

【帯引物】より

…その作品の一群を〈帯引物〉という。《曾我物語》を初春狂言の題材に選ぶことが,早くに式例化した江戸歌舞伎では,五郎を軸に展開し,なかんずく五郎と朝比奈による〈草摺引〉と呼称する力競べの場を舞踊化して上演するのが常であった。しかし時と場合によっては五郎を演じる俳優より,少将役の女方俳優の方が芸格・人気・勢力が上のこともあり,五郎を少将の役に置き換えて力競べの場を上演する必要があった。…

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