茶道/茶事用語(読み)ちゃどうさじようご

日本大百科全書(ニッポニカ) 「茶道/茶事用語」の意味・わかりやすい解説

茶道/茶事用語
ちゃどうさじようご

風炉(ふろ)正午の茶事を軸とした茶事用語を、茶事の進行に従い順を追って解説した。*印は別に本項目があることを示す。


茶事(ちゃじ)
 一服の濃茶(こいちゃ)を客に供することを目的として、懐石(かいせき)料理を出し、炭手前(すみでまえ)を行い、濃茶を供し、最後に薄茶(うすちゃ)を差し出すまでの茶会をいう。料理を昼食時にあてて行う正午の茶事(昼会)、暑い夏の早朝に行う朝会(あさかい)、冬の夜長を楽しむ夜咄会(よばなしのかい)、厳寒の夜明けを楽しむ暁会(あかつきのかい)、食事を済ませてからの飯後会(はんごのかい)、臨時の茶事ともいえる不時会(ふじのかい)、正式の茶事の客が辞去したのち、同じ道具で行う跡見会(あとみのかい)などがある。


〔主客の準備〕
習礼(しゅうらい)
 客を招く前に、亭主が、当日そのままの道具組みと順序で練習として茶事を行うこと。

前礼(ぜんれい)
 茶事に招かれた客が前日に挨拶(あいさつ)にうかがうことをいう。茶事の支度で忙しいときであるから玄関先で辞去するのが礼儀とされる。現在では書状にかえて挨拶する場合が多い。


〔客到来から迎付〕
水屋(みずや)*
 茶室に付属する勝手のこと。茶事や茶会に必要な道具類を準備しておく所で、流し、棚、物入れ、丸炉(がんろ)、仮置棚などが備えられる。

寄付(よりつき)*
 茶会に際し、客が最初に寄る所という意味。ここで連客(れんきゃく)を待ち合わせ、身支度を整えることから、待合(まちあい)、袴付(はかまつけ)ともいう。

露地(ろじ)*
 茶室の庭園のこと。仏教では三界の火宅を離れた境を露地というが、利休は茶庭をこれになぞらえ、露地に入るときは妄念(もうねん)を捨てて仏心を露出することと説いた。寄付(よりつき)、飛石(とびいし)、雪隠(せっちん)、蹲踞(つくばい)、灯籠(とうろう)、井戸などが配され、中門(ちゅうもん)を境に内(うち)露地と外(そと)露地とに区別される。

露地草履(ろじぞうり)
 露地用の草履で、藺(い)、竹皮などで編まれている。寄付(よりつき)から露地へ出る所へ客の人数分だけが用意される。雨天の場合には露地下駄(げた)が用いられる。

外腰掛(そとこしかけ)
 外露地に備えられた腰掛で、普通は片流れ屋根で、前は吹き抜けになっている。茶事に招かれた客が、身支度を整えたのち、この腰掛で亭主の迎付(むかえつけ)を待つ。

円座(えんざ)
(1)腰掛に用意する敷物。

(2)茶入など焼物の底が円形のべた底になっているもの。

煙草盆(たばこぼん)
 喫煙用具を入れる器で、火入れ、刻み煙草入れ、灰吹き(吸殻入れ)が収められ、煙管(きせる)2本を吸口が右になるように置く。寄付(よりつき)や腰掛、薄茶(うすちゃ)席に用意され、客は煙草を吸うほどのくつろいだ気分を味わう。

棕櫚箒(しゅろぼうき)
 シュロの葉でつくる飾り箒で、外腰掛の下座(げざ)寄りの支柱に掛けておく。

中門(ちゅうもん)
 外露地と内露地との境にある軽快な造りの門。躙口(にじりぐち)に似て引き戸をたて敷居の高い中潜(なかくぐり)、杉皮葺(ぶ)きの屋根と簡単な簀戸(すど)を両開きにした梅見門(ばいけんもん)、杮(こけら)葺きか檜皮(ひわだ)葺きの編笠(あみがさ)状の屋根のある編笠門、萱(かや)葺き屋根の萱門、2本の柱に横木を渡し、簀戸を吊(つ)った半蔀(はじとみ)、青竹を折り曲げて枠をつくり、これに割り竹を菱目(ひしめ)に編んでわらび縄で結んだだけの枝折戸(柴折戸)(しおりど)などがある。

迎付(むかえつけ)
 露地の腰掛で待っている客を亭主が迎えに出ること。亭主は内露地と外露地との境の中門あるいは留石(とめいし)の所まで行き、門を開き、留石は取り除いて蹲(つくば)って黙礼をする。客も境まで歩み寄り、同様に黙礼をする。


〔席入り〕
留石(とめいし)
 止石とも書き、関守(せきもり)石ともいう。普通の石膏(せっこう)をわらび縄で十文字に縛ったもの。露地の飛石の上に置いて通行止めを意味する。これによって客は道を間違うことはない。

蹲踞(つくばい)*
 露地に備えられた手水(ちょうず)場。水鉢と、その正面にあって人がのる前石、左手に手燭(てしょく)を置く手燭石、右に湯桶(ゆおけ)を置く桶石が組まれているのが普通である。ここで手と口をすすぎ、心身を清める。

躙口(にじりぐち)*
 草庵(そうあん)茶室の客の出入口。「大坂ひらかたの舟付に、潜(くぐ)りにて出(でる)を、佗(わ)びて面白(おもしろし)とて、小座敷を潜りに易(えき)(利休のこと)仕始るなり」と『松屋会記』にある。

水張口(みずはりぐち)
 茶事の際に、亭主が露地を整えたり、蹲踞(つくばい)に水を張ったりするための出入口。客の出入口である貴人口(きにんぐち)や躙口(にじりぐち)とは別に、茶室に続く水屋や廊下に設けられている。

茶道口(さどうぐち)
 亭主が茶を点(た)てる際の出入口。茶立口(ちゃたてぐち)、亭主口(ていしゅぐち)、勝手口(かってぐち)ともよばれる。太鼓張りの襖(ふすま)の引き戸の場合が多く、2枚を引き違い建てにして一方を給仕口(きゅうじぐち)とすることもある。

床(とこ)
 床の間に同じ。床はきわめて重要な意味をもち、客は茶室に入ると最初に床前へ行き、掛物を拝見する。書院造の床から草庵(そうあん)の床へと移行する過程は茶道の本質を物語って興味深く、広い床から一間床、台目床(だいめどこ)、室床(むろどこ)、枡床(ますどこ)など、いまに伝えられている。置床、釣床(つりどこ)などもあり、初座(しょざ)には掛物(茶掛(ちゃがけ))、後座(ござ)に花をいける。

茶掛(ちゃがけ)
 茶席の床の掛物で、道具の取り合せの中心となり、茶会の主旨を示している。書院の茶室では中国の宋(そう)・元の時代の唐絵(からえ)が掛けられた。草庵(そうあん)の茶室への移行とともに墨跡が第一とされ、古画や絵巻物の絵画類、懐紙(かいし)、古筆切(こひつぎれ)、消息(しょうそく)、茶人の書画などが掛けられる。

墨跡(ぼくせき)
 掛物の一つで、茶掛(ちゃがけ)としてはもっとも尊ばれる。厳密には、中国の南宋(なんそう)から元にかけての臨済宗の僧侶(そうりょ)の筆跡をさしていうが、これらは遺品も少ないので、室町時代から江戸初期の高僧の書も含めて墨跡といっている。一般には禅宗の高僧の書いたものをいう。

懐紙(かいし)*
(1)歌や詩を書くのに用いる正式な料紙で、奉書紙、美濃(みの)紙を用い、大きさは書く人の身分によって異なる。後鳥羽(ごとば)上皇の熊野参詣(さんけい)を機に書かれた熊野懐紙(くまのかいし)や後陽成(ごようぜい)天皇が聚楽第(じゅらくだい)で書いた聚楽懐紙、そのほか北山懐紙、二条懐紙などがあり、茶掛(ちゃがけ)として尊ばれる。

(2)茶席で客がつねに懐中している紙。懐石(かいせき)料理の器をふくとき、菓子をとるとき、濃茶(こいちゃ)の飲口をふくときなど、いろいろに用いる。大小2型あり、大型は男子のみが用いる。

古筆切(こひつぎれ)
 掛物の種類で、平安から鎌倉時代の歌集や写経などの断片を掛物に仕立てたもの。紀貫之(きのつらゆき)の高野切(こうやぎれ)、藤原行成(ゆきなり)の升色紙(ますじきし)、西行(さいぎょう)の白河切(しらかわぎれ)などのようによばれている。

消息(しょうそく)
 掛物の種類で、平安から鎌倉、桃山期の高僧や茶人の書簡を掛物に仕立てたもの。弘法大師(こうぼうだいし)、足利義満(あしかがよしみつ)、千利休(せんのりきゅう)、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)のものなど数は多い。

点前畳(てまえだたみ)
 茶席で亭主が茶を点(た)てる畳。この畳の上の天井は他より一段と低く張られている場合が多く、客に対する亭主の気持ちを表している。風炉釜(ふろがま)、棚に水指(みずさし)、風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)などが置かれ、道具畳、亭主畳ともいう。

風炉(ふろ)*
 席中で、火を入れて釜(かま)をかけ、湯をわかす道具。立夏から立冬までが風炉の時節となる。唐銅(からかね)、鉄、土などの材質に分けられるが、形の好み物も種々ある。

茶釜(ちゃがま)*
 茶の湯に使う釜。点茶(てんちゃ)において釜一つあれば茶の湯はなるといわれるほど重要な道具である。鉄で鋳造されたものが多いが、まれに金、銀などもある。釜には、形、口造(くちづくり)、鐶付(かんつき)、蓋(ふた)、膚(はだ)、由来など委細が特徴となり、茶の心が示されている。

水指(みずさし)*
 水差とも書く。点前(てまえ)中、釜(かま)に足す水や茶筅(ちゃせん)をゆすぐ水を入れておく蓋(ふた)付きの器。金属、焼物、木、竹などでできている。元来は他目的の容器を転用したもので、それだけに種類が多い。

風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)
 点前(てまえ)畳の前方に立てられる二枚折りの屏風で、広間で用いる。もとは寺院で用いた僧侶(そうりょ)の席をくぎるための木柵(もくさく)の結界(けっかい)を茶の湯に利用した。席中で点前畳と客座、または通い畳との境に置く。

東(とう)
 亭主役、案内役をいう。昔中国では、西方浄土になぞらえ客を西にもてなし、亭主役はこれに対して東に座した。東を助ける役を半東という。

詰(つめ)
(1)正客(しょうきゃく)と他の連客(れんきゃく)の末席に控え、末客ともいう。寄付(よりつき)、腰掛、茶室の後始末をするばかりでなく、亭主へ茶事の進行状態を示すなど重要な役である。

(2)茶を製造した茶師の名。茶の産地はもとより製造状態もわかる。一年分の葉茶を茶壺(ちゃつぼ)に詰めることからいう。


〔初座〕
初座(しょざ)
 初入りの席のこと。客が入席すると亭主が席中へ出て挨拶(あいさつ)を交わす。正客(しょうきゃく)は寄付(よりつき)から露地(ろじ)、腰掛、蹲踞(つくばい)と風情(ふぜい)を賞し、行き届いた心配りに礼を述べる。掛物の表具や裂地(きれじ)、由緒なども尋ね、今日の茶事の主旨をくみ取る。風炉(ふろ)正午の茶事では懐石(かいせき)の時刻となる。

懐石(かいせき)*
 茶事に出す食事。禅宗のことばで、温石(おんじゃく)を懐中して空腹をしのぐ程度の食事という意味をもっている。茶事の目的は濃茶(こいちゃ)を供することであるから、この濃茶を味わうのに最適な腹加減になるようにくふうされた食事を用意する。

初炭(しょずみ)
 初座(しょざ)に行う炭手前(すみでまえ)をいう。亭主は炭斗(すみとり)に炭、火箸(ひばし)、羽箒(はぼうき)、鐶(かん)、釜敷(かましき)、香合(こうごう)などを仕組んで持ち出す。茶事の主要たる濃茶(こいちゃ)を点(た)てる炭であるから、そのときに火相(ひあい)、湯相(ゆあい)ともに最適となるよう心して炭を直す。

炭斗(すみとり)
 茶の湯の釜(かま)をたぎらせる炭手前(すみでまえ)の炭を入れる器で、種類は多い。籐(とう)組み、竹組みによる細工で、中国において古くから食物菜などを入れて用いられた菜籠(さいろう)、瓢(ひさご)、曲物(まげもの)、折敷(おしき)、炭台、平炭斗などがある。

炭(すみ)
 胴炭(どうずみ)、毬打(ぎっちょう)(平安時代の遊戯用具で木毬(きまり)をたたく槌(つち)に見立てた)、割毬打(わりぎっちょう)、管炭(くだずみ)、割管炭(わりくだずみ)、添炭(てんずみ)、枝炭(えだずみ)などがある。三千家ともに一定の寸法に切られ、炭斗(すみとり)に盛られる。炉用の炭寸法は胴炭と管炭は5寸(1寸は約3センチメートル)、毬打と添炭は2寸5分。風炉(ふろ)用炭の寸法は胴炭と管炭は4寸、毬打と添炭は2寸である。枝炭は石灰を塗って化粧した細い枝の炭で、置炭の景趣と、火移りのよいために添える。炉用は6寸、風炉用は5寸で、二本立と三本立の2種がある。

羽箒(はぼうき)
 炭手前(すみでまえ)の道具で、炉の周辺、風炉(ふろ)、釜蓋(かまぶた)などを清めるのに使用する。左羽の広い物、右羽の広い物、真ん中に芯(しん)の通った諸羽(もろは)を、炉、風炉に使い分ける。ツル、カモなどの羽を用い、羽を3枚重ねて竹皮で巻き止めてあるので、三つ羽(みつばね)ともいう。

鐶(かん)
 釜(かま)を持つときに用いるもので釜の鐶付(かんつき)に通す。形は種々で、真の鐶、蛭(ひる)鐶、蜻蛉(とんぼ)鐶、上張(じょうはり)鐶などがある。

香合(こうごう)*
 香を入れる器で、塗り物、焼物、貝、木、竹などでつくられ、種類が多い。炉の時季には煉香(ねりこう)を、風炉(ふろ)の時季には香木(こうぼく)を用いるのが一般的である。

主菓子(おもがし)
 濃茶(こいちゃ)を喫茶する前に客に勧める菓子。きんとん、練り菓子、餅(もち)菓子、蒸し菓子などがあり、縁高(ふちだか)、食籠(じきろう)、鉢(はち)、銘々(めいめい)皿などに盛られる。

縁高(ふちだか)
 菓子器。正式の茶事などに主菓子(おもがし)を盛り、上蓋(うわぶた)に客人数分の楊枝(ようじ)(黒文字)をのせて用いる。五つ重ねの重箱(じゅうばこ)形で角(すみ)切りがしてある。黒真(くろしん)塗りが一般的で、ほかに一閑張(いっかんばり)、溜(ため)塗り、春慶(しゅんけい)塗、蒔絵(まきえ)のものなどがある。

食籠(じきろう)*
 主菓子(おもがし)を盛る蓋物(ふたもの)の器で、菓子箸(ばし)一膳(ぜん)を添える。形式は多様で、唐物(からもの)の堆朱(ついしゅ)、堆黒(ついこく)、蒟醤(きんま)、螺鈿(らでん)、鎌倉彫などがあり、季節により使い分ける。

黒文字(くろもじ)
 クロモジの枝でつくられた楊枝(ようじ)である。縁高(ふちだか)などには1人に1本ずつ添えられる。通常は、菓子を手元にとり、使用後持ち帰るのが礼儀である。


〔中立〕
内腰掛(うちこしかけ)
 露地が二重、三重露地で、待合(まちあい)腰掛(外腰掛)が茶室から遠いときに内露地に設けられる。内腰掛の柱には蕨箒(わらびぼうき)を掛けておく。菓子をいただいたあといったん外へ出て(中立(なかだち)という)、ここで一時休息のため待ち合わせる場所である。

蕨箒(わらびぼうき)
 露地箒の一つで内腰掛に掛けておく飾り箒である。わらび縄をほぐして青苧(あおからむし)で結んでつくられている。

銅鑼(どら)
 小間(こま)で催される茶事において、中立(なかだち)あとの迎付(むかえつけ)の合図に使われる鳴物用具。大小大小中中大と打たれ、初めの音で客は腰掛を離れ蹲(つくば)って静かにこれを聞く。鳴り終わったら手水(ちょうず)を使ってふたたび茶席へ入る。

喚鐘(かんしょう)
 広間で催される茶事において、中立(なかだち)あとの迎付(むかえつけ)の合図に使われる青銅製の小さな鐘。大小中中大と打つ。正客(しょうきゃく)が貴人や宗匠のときは初座(しょざ)の席入り同様亭主が迎付に出る。


〔後座〕
後座(ござ)
 茶事の中心となる濃茶(こいちゃ)の席。床(とこ)には花がいけられ、点前(てまえ)畳には濃茶入が置かれ、客の入室を待つ。中立(なかだち)までの懐石(かいせき)、初炭(しょずみ)は、この濃茶のための準備である。

茶花(ちゃばな)*
 茶席にいける季節の新鮮な花。香りの高い花、悪臭を放つ花、名称の悪い花、利休最期のときに茶室に飾られていた金盞花(きんせんか)は禁花としている。

点前(てまえ)*
 客の前で茶を点(た)てる所作をいう。古くは、勝手で茶を点て客前に茶を運ぶ形をとっていたが、足利義政(あしかがよしまさ)のころから客前での所作が始まったといわれる。多くの茶人の努力を得て、今日では自然の流れに沿ったむだのない合理的な所作となっている。

濃茶(こいちゃ)*
 抹茶の一種。抹茶を1人分茶杓(ちゃしゃく)約3杯とし、一碗(わん)に客の人数分を入れて点(た)てる。葉茶は、日光を避けた古木の若芽が採取される。

茶禅一味(ちゃぜんいちみ)
 茶人が茶に対する態度を表現することば。茶道は禅道と一体であるという意味で、村田珠光(じゅこう)が一休宗純(いっきゅうそうじゅん)に参禅しこの清境を会得した。

茶入(ちゃいれ)*
 濃茶(こいちゃ)を入れる陶製容器で、裏に金箔(きんぱく)を貼(は)った象牙(ぞうげ)の蓋(ふた)をかぶせ、名物裂(めいぶつぎれ)でつくった袋(仕服(しふく))に包んで用いられる。

仕服(しふく)
 仕覆とも書く。茶入を包む袋で、金襴(きんらん)、緞子(どんす)、間道(かんどう)、印金(いんきん)、蜀巴(しょうは)、モールなど、いわゆる名物裂(めいぶつぎれ)とよばれる舶来の裂地(きれじ)を用いる。袋の口をとじる緒(お)には染め上げた組紐(くみひも)を用いる。名物茶入は数枚の替(かえ)の仕服をもっている。

名物裂(めいぶつぎれ)*
 特定の渡来織物。名物茶入の袋に用いたので名物裂とよばれる。本来は中国から渡来したものが中心で、ほかに中近東、南方諸島、ヨーロッパのものもある。

唐物(からもの)
 唐、宋(そう)から輸入された美術品。元、明(みん)、清(しん)と王朝がかわってからの輸入品も等しく唐物として尊重された。茶道においては、唐絵、青磁、天目茶碗(てんもくちゃわん)、堆朱(ついしゅ)、堆黒(ついこく)、胡銅(こどう)、金襴(きんらん)、緞子(どんす)などがある。足利義満(あしかがよしみつ)・義政(よしまさ)のころに能阿弥(のうあみ)、相阿弥(そうあみ)などにより将軍家の美術工芸品が東山御物(ひがしやまぎょぶつ)として記録されている。

唐物茶入(からものちゃいれ)
 中国から伝来された茶入の総称で、単に唐物ともいう。中国では薬器、香料入れなどであったと思われる。宋(そう)から元代のものを漢作、明(みん)初期から中期のものを唐物、加藤四郎左衛門景正(瀬戸焼の陶祖)が中国から持ち帰った土と釉(うわぐすり)で焼いたものを藤四郎唐物として区別している。唐物茶入の多くは名物となっている。唐物に対して島物(しまもの)、国焼(くにやき)がある。

島物(しまもの)
 茶道具で、中国、朝鮮、日本以外でつくられた種々の陶器。桃山時代前後、中国南部、琉球(りゅうきゅう)、その他東南アジア方面で製作された茶入、茶壺(ちゃつぼ)が多い。粗野な土もので、わび茶に独特な趣(おもむき)を添えている。

国焼(くにやき)
 唐物(からもの)に対して日本国内産の焼物をいうが、江戸時代には瀬戸および瀬戸系以外の茶入を国焼茶入として分類していた。また、国焼茶碗(ちゃわん)というと楽焼(らくやき)以外の茶碗をさしていた。

蓋置(ふたおき)*
 釜蓋(かまぶた)を置く器台で、点前(てまえ)中にこの上に柄杓(ひしゃく)を引くのにも用いる。書院の茶において唐物(からもの)の金属器か青磁の特殊な器であったようで、ほかの器具が転用され、唐物や和物を問わず種々の趣味的なものが多い。「穂屋(火舎)(ほや)、一閑人(いっかんじん)、栄螺(さざえ)、五徳、三つ人形、蟹(かに)、三つ葉」の七種蓋置などがある。

建水(けんすい)*
 翻(こぼし)、水翻(みずこぼし)ともいい、点前(てまえ)中に湯水を捨てる容器。古くは唐銅(からかね)、砂張(さはり)、南鐐(なんりょう)(銀)、七宝(しっぽう)などでつくられ、陶磁は桃山時代より使われ南蛮(なんばん)物、備前(びぜん)、信楽(しがらき)が多く、江戸時代には各窯で種々焼かれた。木地の曲物(まげもの)、春慶(しゅんけい)塗の曲物、桜皮の曲物などもある。

茶杓(ちゃしゃく)*
 茶匙(ちゃさじ)ともいう。茶入(または薄茶器)から抹茶をすくって茶碗(ちゃわん)に移す匙。中国唐・宋(そう)代の薬用匙が源流といわれる。竹を素材とした茶杓の初見は村田珠光(じゅこう)と伝えられ、武野紹鴎(たけのじょうおう)時代には竹茶杓に節(ふし)を残した形式に変化し、利休時代に、折溜(おりだめ)茶杓が流行し、節を中央にくふうした形式が完成される。

茶筅(ちゃせん)*
 茶を点(た)て練る道具。流儀によって竹の質や穂の形に違いがある。

茶巾(ちゃきん)
 茶碗(ちゃわん)をふく布。麻の布、越後晒(えちごさらし)、奈良晒が使われる。長さ30センチメートル、幅15センチメートルの長方形で、表裏反対に撚(よ)り縫い、平縫いなどにする。

茶碗(ちゃわん)*
 茶を喫する器で、茶道具のなかでもっとも種類が多い。亭主は、茶事の内容にふさわしい茶碗を選ぶことに心配りをする。

茶銘(ちゃめい)*
 茶の湯に用いる葉茶につけられた名称。

袱紗(ふくさ)*
 帛紗、服紗とも書く。道具をふいたり、茶碗(ちゃわん)その他道具の下に敷き、観賞の際に用いる。点前(てまえ)の使い袱紗、濃茶(こいちゃ)の茶碗に添えられる出し袱紗もある。袱紗は亭主の象徴ともいえ、亭主はつねに袱紗を帯につけておく。

後炭(ごずみ)
 濃茶(こいちゃ)が終わって薄茶(うすちゃ)に移る前に火を直す炭手前(すみでまえ)をいう。釜(かま)の煮え加減で客と閑談をし、十分の湯相(ゆあい)のときには略す。

薄茶(うすちゃ)
 単にお薄ともいい濃茶(こいちゃ)に対してのことば。棗(なつめ)をはじめ、薄茶器に入った抹茶で点前(てまえ)を行う。濃茶に比べて淡泊な味わいである。

棗(なつめ)*
 薄茶を入れる漆器の一種。ナツメの実に形が似ているのでこの名がある。

薄茶席(うすちゃせき)
 後炭(ごずみ)のあとの薄茶。席には座ぶとん、煙草盆(たばこぼん)、干菓子が用意される。このことはふとんに座し、喫煙するほどに気分を緩め、閑談も差し支えないことを意味している。客が多ければ面合(おもあい)にしたり、主客閑談のうちに亭主が自服(じふく)を勧められることもある。しかし亭主は一段と気を引き締め、点前(てまえ)は真(しん)の心で行う。

干菓子(ひがし)*
 主(おも)菓子に対し、乾製した菓子をいう。落雁(らくがん)の類、金平糖(こんぺいとう)の類、煎餅(せんべい)の類に分けられる。原則として薄茶(うすちゃ)のときに、塗り物、一閑張(いっかんばり)、南鐐(なんりょう)、砂張(さはり)、モール、焼物、竹製品などの盆に盛られて出される。

面合(おもあい)
 薄茶は一つの茶碗(ちゃわん)に1人分の茶を点(た)て1人で喫するのが普通であるが、亭主が1人ずつ茶を点てる労を察して、客のほうから「面合でどうぞ」と挨拶(あいさつ)する。亭主はこれを受けて一碗に倍の茶を入れて点て、客は2人で半分ずついただく。茶に限らず、2人で分け合うときにこの挨拶をする。

自服(じふく)
 亭主が自分で点(た)てた茶を自分で喫することをいう。客に薄茶が行き渡り、正客(しょうきゃく)から「どうぞ御自服で」と挨拶(あいさつ)があった場合に亭主も相伴(しょうばん)する。


〔後礼〕
後礼(ごれい)
 客が茶事の翌日、亭主宅に参上し、茶会の謝辞を申し述べることをいう。使者、書簡などで拝趨(はいすう)にかえてもよい。前礼とともに茶事一会(いちえ)中のたいせつな礼儀である。

一期一会(いちごいちえ)*
 主客において催される一会は、再現しえない一世一度のことと思い、亭主も客も親切、誠意を尽くして交わることが肝要であるという心得を説いた語。

一座建立(いちざこんりゅう)
 茶事において、亭主、客ともに、一期一会(いちごいちえ)の交会で和敬静寂を会得し、心を働かせ精神の昇華した一会にすること。

[矢島和子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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