苦鉄質岩(読み)クテツシツガン(英語表記)mafic rock

デジタル大辞泉 「苦鉄質岩」の意味・読み・例文・類語

くてつしつ‐がん【苦鉄質岩】

橄欖石かんらんせき輝石角閃石かくせんせきなどの苦鉄質鉱物有色鉱物)の体積が、40パーセントから70パーセントを占める火成岩玄武岩斑糲岩はんれいがんなどが知られる。マフィック岩。→超苦鉄質岩

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「苦鉄質岩」の意味・わかりやすい解説

苦鉄質岩
くてつしつがん
mafic rock

火成岩を鉱物組成に基づいて分類したとき、苦鉄質鉱物(有色鉱物)を40~70%含む岩石をさす。マフィック岩ともいう。苦鉄質鉱物は、マグネシウムや鉄に富む鉱物で、橄欖(かんらん)石、斜方輝石orthopyroxene、単斜輝石clinopyroxene、普通角閃(かくせん)石、黒雲母(くろうんも)などが代表的なものである。苦鉄質岩としては、玄武岩、ドレライト粗粒玄武岩)、斑糲(はんれい)岩などがある。苦鉄質岩はほとんどの場合、二酸化ケイ素SiO2シリカ、ケイ酸)を45~52%含有する塩基性岩であるが、苦鉄質岩と塩基性岩は定義が異なるため厳密には同義ではない。苦鉄質岩は有色鉱物の体積%による分類の用語であり、塩基性岩は二酸化ケイ素の重量%による分類の用語である。苦鉄質岩は、大陸地殻下部の斑糲岩層(玄武岩層)や海洋地殻を構成する岩石である。陸上に産出するオフィオライト中の苦鉄質岩は、後述する超苦鉄質岩の上にあり、その上に海洋地殻下部を構成していた斑糲岩、地殻上部を構成していたドレライトの岩脈群と厚い枕状(まくらじょう)溶岩(玄武岩)がこの順番に重なっている。玄武岩は、噴出岩として火山体をつくっていたり、大洋島や大陸の玄武岩台地に大規模に分布する。

[村田明広 2015年2月17日]

超苦鉄質岩ultramafic rock

苦鉄質鉱物(有色鉱物)を70%以上含み、長石や石英などの珪長質(けいちょうしつ)鉱物をほとんど含まないか、まったく含まない岩石をさす。超マフィック岩ともいう。火成岩の分類の仕方によっては、苦鉄質鉱物を90%以上含むものに限定して用いられる場合もある。

 超苦鉄質岩としては、橄欖石と輝石を主成分とする橄欖岩(ペリドタイトperidotite)、ほとんど橄欖石からなるダナイトdunite(ダン橄欖岩)、ほとんど輝石(斜方輝石、単斜輝石)からなる輝岩pyroxenite、ほとんど角閃石からなる角閃石岩hornblenditeなどがある。また、超苦鉄質岩は、橄欖石、斜方輝石、単斜輝石の三種の鉱物の組成比により、ダナイト(橄欖石90%以上)、ハルツバージャイトharzburgite(おもに橄欖石と斜方輝石)、ウェールライトwehrlite(おもに橄欖石と単斜輝石)、レールゾライトlherzolite(橄欖石、単斜輝石と斜方輝石)などさまざまな岩石名がつけられている。

 超苦鉄質岩はほとんどの場合、二酸化ケイ素が45%以下の超塩基性岩であるが、次のような例外があるため、超苦鉄質岩と超塩基性岩は同義ではない。たとえば、ほとんど輝石からなる輝岩は超苦鉄質岩であるにもかかわらず、二酸化ケイ素は45%以上あり超塩基性岩ではない。また、霞岩(かすみがん)nepheliniteのように、二酸化ケイ素は35%程度で超塩基性岩であるのに、有色鉱物の割合が少ないため超苦鉄質岩ではない岩石がある。超苦鉄質岩を構成する橄欖石や輝石は、水が加わると蛇紋石に変化することが多く、地表では蛇紋岩として広く分布することになる。超苦鉄質岩は、比重が3.2~3.5程度で重い岩石であるが、蛇紋岩に変化すると比重が2.6程度と軽くなる。

 超苦鉄質岩は、マントルを構成する岩石であり、マントルから噴出してきた玄武岩に含まれる捕獲岩として、ダナイトなどが知られている。ダナイトに含まれる橄欖石はペリドットという宝石であり、少なくとも深さ400キロメートルまでのマントルにはペリドットという宝石がびっしりと詰まっていることになる。超苦鉄質岩は、陸上に産出するオフィオライトの主要な構成岩石である。この超苦鉄質岩は、マントル最上部を構成していたものであり、海洋地殻下部の斑糲岩、地殻上部のドレライトの岩脈群・枕状溶岩といっしょに、オフィオライトを構成している。北海道、日高帯の幌満(ほろまん)橄欖岩体には、アポイ岳周辺のダナイトをはじめとする超苦鉄質岩が広く分布しており、マントル物質が地表に衝上してきたと考えられている。西南日本の黒瀬川帯には、ハルツバージャイトやレールゾライトなどの超苦鉄質岩を起源とする蛇紋岩が広く分布している。蛇紋岩は地すべりを起こしやすく、青ザレという悪地形をつくることが知られている。蛇紋岩が分布する地域では、ダムなどの構造物をつくる際にすべり面ができやすいため注意する必要がある。

[村田明広 2015年2月17日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「苦鉄質岩」の意味・わかりやすい解説

苦鉄質岩【くてつしつがん】

有色鉱物(カンラン石,輝石,角セン石,黒雲母など)を多く含み,色指数が70(または90)〜40と高く,黒っぽい色をした火成岩。斑レイ岩,粗粒玄武岩,玄武岩など。塩基性岩とほぼ同義。
→関連項目中性岩

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

改訂新版 世界大百科事典 「苦鉄質岩」の意味・わかりやすい解説

苦鉄質岩 (くてつしつがん)

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の苦鉄質岩の言及

【マフィック岩】より

…マフィック(鉄,マグネシウム(苦)に富む)鉱物を多く含む岩石のことで,火成岩に対して用いられることが多い。苦鉄質岩ともいう。マフィック鉱物の量は40~70%ぐらいのものを指す。…

※「苦鉄質岩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android