苦界(読み)くがい

精選版 日本国語大辞典 「苦界」の意味・読み・例文・類語

く‐がい【苦界】

〘名〙
① (仏語「苦海」からの語) 苦しみの多い世の中。人間界娑婆(しゃば)。苦海。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)大坂「此苦界(クカイ)にうかうかとの長生」
② (━する) (「公界(くがい)」を「苦海」の意にとって) 遊女のつらい境遇。つらい遊女の勤めをすること。また、遊女の世界
※俳諧・独吟一日千句(1675)第四「袖の露身の泥川を落されて くかいにすめば月も格別
洒落本・郭中掃除雑編(1777)「女郎の恥はぬしの恥、ぬしの恥はわっちが恥、くがいする身の上だから、たのまいではさ」
③ (━する) 苦しい生活を送ること。また、その境遇。
歌舞伎韓人漢文手管始唐人殺し)(1789)三「わしも苦界する身じゃ」
※夢醒真論(1869)〈貞方良助〉「只人は導かざれば悪に陥り、終には苦界に沈む」

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デジタル大辞泉 「苦界」の意味・読み・例文・類語

く‐がい【苦界】

《「苦海」から》苦しみの多い世界。生死を繰り返して流転するこの世。人間界。
遊女のつらい境遇。公界くがい。「苦界に身を沈める」
[類語]この世うつし世現世地上人界下界娑婆此岸肉界人間界世界

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改訂新版 世界大百科事典 「苦界」の意味・わかりやすい解説

苦界 (くがい)

仏教語。すべての衆生の苦しみが無限であることを海にたとえて苦海(くかい)という。例,〈我,諸ノ衆生ヲ見ルニ,苦海ニ没在セリ〉(《法華経》寿量品)。この海に界の字をあてて苦界とする。例,〈極楽世界に行きぬれば,長く苦界を越え過ぎて〉(謡曲《実盛》)。近世になると,遊女の境遇に多く用い,公娼のみならず私娼にも用いる。〈苦界とは見えぬ廓(くるわ)の夕景色〉(《柳多留》72)。江戸時代では奉公契約の年限は最長10年,遊女奉公も同じで〈苦界十年〉という語が生まれる。例,〈親のためとて色里(いろざと)にくがい十年と定め〉(浄瑠璃《暦》)。
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