いやしく‐も【苟も】
① かりにも。かりそめにも。いやしゅうも。
※大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)八「豈
(あに)苟
(イヤシクモ)時の
誉れを要すること得むや」
② 表面では卑下して、
ほんとうは自負心をもっている
気持を表わす。不相応にも。柄でもないのに。いやしゅうも。
※金刀比羅本保元(1220頃か)上「為義いやしくも弓矢の家にむまれて、父祖累葉の跡をつぎ、朝家の御固とし、めしつかはるといへども」
③ まことに。
※大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)八「苟
(イヤシクモ)言ふ所、理に合へしめつれば、尚を
天仙の
帰敬を得たり」
※文明論之
概略(1875)〈
福沢諭吉〉一「苟も人の
天性を妨ることなくば、
其事は日に忙はしくして其需用は月に繁多ならざるを得ず」
⑤ (後に打消の語を伴って) いいかげんにも。おろそかにも。
※かのや
うに(1912)〈
森鴎外〉「
卒業論文には、
国史は自分が
畢生の
事業として研究する積りでゐるのだから、苟くも筆を著
(つ)けたくないと云って、古代印度史の中から、題を選んだ」
[
語誌](1)「いやし」は、卑賤すなわち価値水準が
低劣であるということから、
地位、
身分、
財産、
品性などの一般的条件を充足する
段階に到達しない、不備があることをも表現する。
(2)相応する条件をみたさないが、ちょっと、かりそめにという意味で「苟」を「いやしくも」と訓読した。ところが、
漢語の「苟」には、「かりそめに」の
ほか、「まことに」「ただ」「もし」「あるいは」などの意味があるので、「いやしくも」の意味も
多様性をもつこととなった。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「苟も」の意味・読み・例文・類語
いやしく‐も【×苟も】
[副]《形容詞「いやし」の連用形+係助詞「も」から》
1 仮にも。かりそめにも。「苟も人の上に立つ者のすべきことではない」
2 もしも。万一。「苟もこれが事実なら、早急に対処すべきだ」
3 (あとに打消しの語を伴って)いいかげんに。おろそかに。「一字一句を苟もせず」
「畢生の事業として研究する積りでいるのだから、―筆を著けたくない」〈鴎外・かのやうに〉
4 不相応にも。柄にもなく。
「―勅命をふくんで、しきりに征罰を企つ」〈平家・七〉
5 まことに。
「さうしたお心を聞いてから、―いやましに思ひがこうなりました」〈浮・歌三味線・一〉
[類語]仮にも・かりそめにも
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