芝居絵(読み)しばいえ

精選版 日本国語大辞典 「芝居絵」の意味・読み・例文・類語

しばい‐え しばゐヱ【芝居絵】

〘名〙 歌舞伎題材にして描いた、肉筆画、版画浮世絵や錦絵。役者絵絵看板など。歌舞伎絵
随筆守貞漫稿(1837‐53)三二「一艘屋根船に芝居絵等を描く行燈ある者に乗じ」

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デジタル大辞泉 「芝居絵」の意味・読み・例文・類語

しばい‐え〔しばゐヱ〕【芝居絵】

歌舞伎を題材にした絵画の総称。劇場・舞台面役者などを描いた浮世絵に多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「芝居絵」の意味・わかりやすい解説

芝居絵 (しばいえ)

歌舞伎に直接取材した絵画の総称。芝居町の風俗や劇場内外の景観を大観的にとらえるものから,人気役者の舞台上の舞踊や演技の態あるいは日常生活の場における姿を写すものなど,包含される題材は広範囲に及ぶ。別に〈歌舞伎絵〉の語も用いられ,一部は〈役者絵〉とも重なる。芝居絵の発生は,慶長年間(1596-1615)の京都におけるお国歌舞伎の流行と同時に始まる。すなわち桃山時代から江戸時代初頭にかけての肉筆風俗画では,はじめ〈洛中洛外図〉や〈京名所図〉などの屛風画の一部に,北野神社社頭や四条河原の歌舞伎小屋が描き込まれ,ついで歌舞伎小屋とその周辺にくりひろげられる風俗事象を活写した〈歌舞伎屛風〉が成立する。こうして芝居絵は,いわゆる近世初期風俗画の重要な部分をになうことになるが,残された多くの作例の中から今かりに《阿国歌舞伎草紙》(大和文華館),《阿国歌舞伎図屛風》(山本家),《采女(うねめ)歌舞伎図巻》(徳川黎明会),《若衆歌舞伎図屛風》(大津賀家),そして伝菱川師宣筆《歌舞伎図(中村座内外図)屛風》(東京国立博物館)という各時期の代表的な作例をたどってみると,お国歌舞伎から遊女,若衆,そして野郎歌舞伎へと展開した初期歌舞伎の様態の変遷を,一目して了解することができる。芝居絵が,単に美術鑑賞の期待にこたえるばかりでなく,歌舞伎研究の貴重な画証資料として尊ばれるゆえんである。また,師宣には《北楼及演劇図画巻》(東京国立博物館)という肉筆画巻もあり,遊里とともに二大悪所と目された芝居町の風俗を多様な角度からとらえているが,木版画の一枚絵を主たる表現手段とした以後の浮世絵師は,個々の役者の姿絵に芝居絵の範囲をほぼ限定していくようになる。

 そうした中で,西洋画遠近法を採り入れた〈浮絵〉の手法により劇場の内部を統一的に描いた奥村政信(1686-1764)や,三都の芝居町の楽屋内の模様をそれぞれ大判三枚続きの大画面に精細に報告した歌川国貞(1786-1864),あるいは土壁への釘による落書になぞらえて滑稽な役者似顔の戯画を生んだ歌川国芳(1797-1861)らの,異色の画業が特筆されるであろう。さらには,幕末の土佐に出て,奔放な筆致と原色的な色彩を用い,地方土着の激情を台提灯絵(だいちようちんえ)の芝居絵に発散させた絵金(1812-76)の活躍も注目に価するものがある。
役者絵
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「芝居絵」の意味・わかりやすい解説

芝居絵
しばいえ

歌舞伎(かぶき)関係の絵画の総称で、歌舞伎絵あるいは劇画(げきが)ともいう。歌舞伎の発生した慶長(けいちょう)年間(1596~1615)から早くもその舞台や客席のようすを伝える風俗画が描かれているが、元禄(げんろく)年間(1688~1704)以降、明治前半ころまでの浮世絵において、もっとも盛んに制作された。楽屋や茶屋までを含めた劇場図から、舞台上の役者の演技の態、さらには役者の日常生活のようすなどを、多くの浮世絵師が肉筆画と版画の両分野で競作している。歌舞伎界の慣習に慣れた鳥居(とりい)派が絵看板や芝居番付(ばんづけ)など劇場関係の仕事を終始独占したが、安永(あんえい)年間(1772~81)以降は勝川派や歌川派が版画の分野で主導権を握り、1794年(寛政6)から翌年にかけての一時期、東洲斎写楽(とうしゅうさいしゃらく)が役者似顔絵(にがおえ)に新風を吹き込んだ。幕末期には江戸の浮世絵風が地方にも及び、京・大坂の上方(かみがた)役者絵をはじめ、東北のねぶたや凧絵(たこえ)、土佐の絵金(えきん)の台提灯絵(だいちょうちんえ)など、特色のある芝居絵を各地に誕生させている。

[小林 忠]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「芝居絵」の意味・わかりやすい解説

芝居絵
しばいえ

浮世絵のなかで歌舞伎を題材としたもの。役者の姿態を描いた役者絵が主流で,明和期 (1764~72) には,似顔絵とともに多色摺の錦絵が現れて一大飛躍をとげた。このほか遠近画法による浮絵の劇場内外図,舞台画などがある。画家には,初期の菱川師宣 (ひしかわもろのぶ) ,18世紀の初頭から劇界と深い結びつきをもった鳥居清信,清倍,清長,歌川豊国,国貞 (のち3世豊国) ,国芳,豊原国周 (くにちか) ,特異な画風の東洲斎写楽などがいる。

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世界大百科事典(旧版)内の芝居絵の言及

【鳥居派】より

…浮世絵の一流派。元禄年間(1688‐1704)から現代に至るまで約300年間,歌舞伎界と密接な関係を保ち,芝居絵,役者絵を専業として家系をつないだ。劇場の絵看板(看板絵)や番付絵,役者姿絵の版画などは,いずれも演目と配役が決まりしだい上演に先立って作画にかかる必要があり,芝居にくわしく歌舞伎界のしきたりに通じていなくては難しい領域であった。…

※「芝居絵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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