(読み)えん

精選版 日本国語大辞典 「艷」の意味・読み・例文・類語

えん【艷】

〘名〙 (形動) 自然や人事についての感覚的、官能的な美を表わす。
① はなやかな趣向美。華麗美。
(イ) 自然や事物の、つややかな美しさ。
※枕(10C終)二三九「あをき薄様をえんなる硯の蓋(ふた)に敷きて」
(ロ) 人の性情、ふるまいのあでやかさ。色めかしさ。
源氏(1001‐14頃)紅葉賀「女はなほいとえむに恨みかくるを」
古今著聞集(1254)一六「或僧此尼を見て、たへがたくえむにおぼえけれどもいかがはせん」
② (①の美にみやびな風情が加わって) 自然、事物、人事の優美、優雅なさま。やさしく上品な美しさ。
落窪(10C後)一「えんにをかしうて侍りし、まめやかに聞えさせ侍らん」
③ (②の美にさらに深みが加わって)
(イ) 自然の情景や、自然を背景としての人事の、ほのぼのとした趣深い美しさ。
※枕(10C終)一八〇「いまは往ぬらむと遠く見送るほど、えもいはずえんなり」
(ロ) 人の気配、様子、態度がひかえめで深みのあるさま。意を含み、思わせぶりなさま。
※源氏(1001‐14頃)末摘花「いたう言(こと)こめたれば、『例のえむなる』と憎み給ふ」
④ 歌や詩で用いる語。
(イ) 表現・内容ともに美しくはなやかなことを讚えた。
※凌雲集(814)序「睿知天縦、艷藻神授」
(ロ) あだっぽい美しさ、色めかしさ、浮薄の美を表わした。
古今(905‐914)真名序「其大底皆以艷為基。不和哥之趣
(ハ) 中世以降の歌論、連歌論、俳論などでは、みやびやかな美しさ、優美、妖艷美を表わし、美的理念の一つとされた。
古来風体抄(1197)上「うたは〈略〉なにとなくえんにもあはれにもきこゆる事のあるなるべし」
[語誌]類義語「うるはし」の、きちんと整っている、あるいは礼儀正しいという意味を帯びた華麗性に対し、きらびやかさに、親しみやすい王朝風風情、風流な趣向美を加えたのが「えん」で、和文脈中にも用いられた。俊成・定家は、それに注目し、中世以降の、歌論・連歌論・俳論では美的理念の一つとされた。

つや【艷】

〘名〙
① あざやかにうつくしく光ること。光沢。なめらかな表面にあらわれる光。
※枕(10C終)三〇二「濃き衣のいとあざやかなる、つやなど月にはえて、をかしう見ゆる、かたはらに」
※俳諧・乙二七部集‐附録(1830‐44)下「名月やことしは米に光沢のある〈夕山〉」
② 若々しい張りや弾力を感じさせる美しさ。うるおいのある強さ。
※わらんべ草(1660)四「つやと、にほひと、ゆふと、是、にたる物にて、名もかハリたり」
③ 好ましく、また、いとおしい情感をおこさせるような態度やことば。愛敬。しな。
※評判記・色道大鏡(1678)四「床にいりては、ふるもよしふらぬもよし。此日ふるふらぬは、其男のかかりとつやによるべきなり」
④ 相手をうれしがらせるようなことば。お世辞。追従
浄瑠璃仮名手本忠臣蔵(1748)七「じつは心に、思ひはせいで、あだな、ほれたほれたの口先は、いかひつやでは有はいな」
⑤ 添えてとりつくろうもの。飾り。粉飾おまけ
※歌舞伎・茶臼山凱歌陣立(1880)二幕「包む心も母親に気を落させじと重成が、帰城を約す詞の艷(ツヤ)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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