艷めかしい(読み)なまめかしい

精選版 日本国語大辞典 「艷めかしい」の意味・読み・例文・類語

なま‐めかし・い【艷めかしい】

〘形口〙 なまめかし 〘形シク〙 (動詞「なまめく」の形容詞化) さりげなくふるまうさまから、奥ゆかしい、優美であるの意となって、中古の女流文学などに多く用いられた。
① 人の容姿、態度などについていう。優美である、上品である、もの柔らかである。「あて」や「清ら」などとともに用いられることが多い。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「はづかしう、なまめかしき顔姿にぞ物し給へる」
※夜の寝覚(1045‐68頃)五「花の中におりて、童(わらは)べとまじりてありき給ふは〈略〉あてに、にほひやかに、なまめかしく見え給ふ」
② 特に若い女性などの容姿をいうことが多いところから、次第に女性の若い魅力をいうようになり、後世は、女性の性的魅力を、さらに性的魅力一般を表現する語となる。色っぽい。つやっぽい。
紫式部日記(1010頃か)寛弘五年九月一一日「けさうなどのたゆみなく、なまめかしき人にて、暁に顔つくりしたりけるを」
※浜松中納言(11C中)三「艷(えん)なるねくたれの姿なまめかしうて」
※或る女(1919)〈有島武郎〉前「この媚(ナマメ)かしくもふしだらな葉子の丸寝姿を」
③ 広く一般の物品などに対していう。優雅である。優美である。
※枕(10C終)八九「なまめかしきもの〈略〉薄様の草子」
源氏(1001‐14頃)梅枝「侍従は、大臣(おとど)の御は、すぐれてなまめかしうなつかしき香なり、とさだめ給」
④ 人の性質・心柄や、情景風物などについて、情趣のあるさま、趣を解するさまなどをいう。風流である。
※延喜御集(967‐1000頃)「醍醐(だいご)ときこえさせ給けるぞ、なまめかしき御門におはしましければ」
徒然草(1331頃)一六「神楽(かぐら)こそ、なまめかしく、おもしろけれ」
[語誌](1)「源氏物語」までの用例では、王朝風上品・優美な感覚美を基調としてはいるものの、女性の性的官能美や華麗に飾り立てた美を押え込んだ、深みのある精神美と同調する優雅さを意味する。特に「源氏物語」では、さりげない振舞い・飾り付け等から、自然ににじみでる高雅な精神性に裏打ちされた美を形容した用法が特徴的に見られる。
(2)平安後期になると、②の挙例「浜松中納言物語」など官能的であるさまを形容する用法が見え始める。中世には、王朝風を懐古する文脈中に、王朝風用例も残存はするが、南北朝期以降は、女性の性的官能美を触発する、媚態重点が置かれるようになる。
なまめかし‐げ
〘形動〙
なまめかし‐さ
〘名〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android