船組(読み)ふなぐみ

改訂新版 世界大百科事典 「船組」の意味・わかりやすい解説

船組 (ふなぐみ)

この言葉には四つの使いわけがある。(1)船主・船頭等の漁船所有者が数人以上あつまり,漁業生産をおこなうため,相互扶助的な面でかかわりをもつこと。広島県の安芸郡三津などでは,ボラ漁の際に〈ケタ船〉があつまることを〈組船(くみぶね)〉というが,このように漁船が何隻もあつまらなければ魚群を囲めないような場合,その組織,協力体制を船組とよぶ。(2)同魚種の漁獲をおこなう船主たちが,漁業生産を独占的におこなうために〈漁船制限〉をおこなって,他を排除しようとするために結成する〈船の組合〉をいう。こうした例は,新潟県三島郡出雲崎で伝統的におこなわれてきたタラ縄漁業にみえる。タラ縄漁をおこなう漁業者は特権的な〈タラ漁業株〉を近世以後もちつづけ,その納屋元に専用漁業証を下付することにより,タラ場の漁獲権を独占した。こうした例を〈船株〉とよぶ地域もある。(3)〈船組〉といっても,漁船あるいはその所有者の組織をいうのではなく,定められた漁船に乗り組ませるために漁夫を緊縛(きんばく)するためのしくみをいう場合。静岡県榛原郡御前崎(現,御前崎市)は近世以後,カツオ一本釣漁がさかんとなったが,熟練した漁夫を多数確保するために,船主あるいは船頭を中心とした血縁的な関係で家どうしが結ばれる〈船組〉が必然的に組織されてきた。この組織を〈カド〉とよぶ。また,この制度を強化するため,漁夫の家で男子が誕生すると,一定の〈代(しろ)〉を給し,成年後は漁夫として確実に〈船組〉の船に乗船させるという義務をもたせた。(4)漁船の遭難不慮の事故にそなえて,漁船の所有者が共済制度をつくったり,不良漁船の出漁取締りをおこなう場合。千葉県の富崎や布良(めら)にあった〈遭難者救助積立〉の制度などがそれである。そのほか,数隻の漁船が〈旅漁(たびりよう)〉に出る際に互いに安全を守るため結成する〈船組〉もある。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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