航海法(読み)こうかいほう(英語表記)Navigation Acts

精選版 日本国語大辞典 「航海法」の意味・読み・例文・類語

こうかい‐ほう カウカイハフ【航海法】

〘名〙
① (Navigation Acts の訳語) イギリスクロムウェルが、一六五一年、イギリスの外国貿易から外国船を排除し、特にオランダ仲介貿易覇権を打倒するために制定した条例。第一次・二次英蘭戦争一因となった。一八四九年廃止。広義には、一四世紀以降、イギリスで制定された船舶・貿易の保護を目的とする諸法令の総称として用いられる。航海条例。〔英和商業新辞彙(1904)〕
② 航行中の船舶に適用される法律。
蟹工船(1929)〈小林多喜二〉二「蟹工船は〈略〉『航船』ではない。だから航海法は適用されなかった」

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デジタル大辞泉 「航海法」の意味・読み・例文・類語

こうかい‐ほう〔カウカイハフ〕【航海法】

1651年、英国が貿易から外国船を排除するために定めた法令。特にオランダ船仲介貿易から締め出す目的をもっていたので、第一次・第二次の英蘭戦争の原因となった。1849年廃止。航海条例。

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改訂新版 世界大百科事典 「航海法」の意味・わかりやすい解説

航海法 (こうかいほう)
Navigation Acts

リチャード2世以来のイギリス政府が発布した海運・貿易規制のための諸法令の総称。航海条令とも訳される。とくに1651年の通称クロムウェル航海法,60年の海上憲章,63年の貿易促進法が重要で,これらの諸法令によって完成した航海法体系は,重商主義政策の柱となった。51年法は,イギリスおよび植民地に輸入されるヨーロッパ以外の商品は,大部分の船員がイギリス人であるイギリス船で輸送さるべきこと,ヨーロッパ物産はイギリス船ないし生産国の船で輸入さるべきことなどを規定し,オランダ船による中継貿易の排除をめざした。翌年第1次英蘭戦争が勃発したのはこのためである。60年法では,とくに重要な交易品--砂糖,タバコインジゴなどの新世界物産,東インド物産,北欧の海運資材など--を列挙し,これらの商品のヨーロッパ向け輸出は必ず本国経由でなされるべきことを規定した。さらに,63年法では植民地に輸入される商品もすべてイギリスを経由すべきことが規定された。以後も96年まで細かな改訂がなされるものの,政策の骨格はここで確立したといえる。これらの政策についての評価は分かれているが,当時の経済・国防に対してそれが一定の役割を果たしたことはまちがいないし,ピューリタン革命以後の地主と外国貿易商人を担い手とする支配体制の象徴となってもいた。したがって,産業革命の進展でこの体制が崩壊すると,1849年この法体系も廃棄される。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「航海法」の意味・わかりやすい解説

航海法
こうかいほう
Navigation Acts

イギリスが自国船による貿易独占をはかった法律の総称。航海条例ともいう。 14世紀末リチャード2世の治世より数次にわたって発布されたが,最も有名なのは清教徒革命中の 1651年共和国政府が制定したもの。イギリスとその植民地にヨーロッパ以外の地から輸入される商品は,船主,船長,船員の全部がイギリス人である船舶によって輸送されること,ヨーロッパからの輸入物品はイギリス船かその物品生産国または最初の積出し国の船で輸送すること,などを規定した。この法律は若干の変更を加えて 60年王政復古後も再確認されたが,60年の法律は以前の法律を強化したもので,船舶もイギリスまたはイギリス植民地で建造されたものを使用することがつけ加えられた。 63年の法律はさらにきびしいもので,ヨーロッパ諸国の商品は,イギリス本国を経由しなければならないとした。これらの法律により,植民地の商人はそれだけ余分な航海を強いられるとともに,2度のイギリス=オランダ戦争 (1652~54,65~67) の原因ともなった。しかしオランダの海上輸送の独占を打破して,イギリス海運の発展に寄与した。 18世紀後半より自由貿易の主張が強まるとともに,航海法も批判を受けるようになり,1849年廃止された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「航海法」の意味・わかりやすい解説

航海法
こうかいほう
Navigation Acts

航海条例ともいわれる。イギリス海運業の発達と貿易の保護ならびに王室収入の確保をねらいとする制定法の俗称。この趣旨の法律は14世紀以降しばしば制定されたが、ピューリタン革命期の共和国政府の出した1651年のものがもっとも有名である。ヨーロッパ以外の地域の産物をイギリスおよび植民地に運ぶ場合には、乗組員の大多数がイギリス人であるイギリス船もしくは植民地船に限ること、またヨーロッパの産物をイギリスあるいは植民地に輸入する場合は、イギリス船、産地国船もしくは最初の積出し国の船に限ることを規定した。これは、当時、北欧・バルト海を中心にヨーロッパの海運を支配していたオランダの中継貿易を排除することをねらったもので、制定直後に第一次イギリス・オランダ戦争を引き起こした。王政復古後の1660年に再制定され、また63年にはカリブ海域の物産の独占を図るためにさらに補強された。このように航海法はイギリス重商主義体制の基軸としての地位を占め続け、イギリスの植民地帝国の建設に多大の寄与をしたが、1820年代に入って自由貿易の主張の高まりとともにその規制は緩和され、ついに1849年に廃止された。

[今井 宏]

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百科事典マイペディア 「航海法」の意味・わかりやすい解説

航海法【こうかいほう】

英国で14世紀末以来例は多いが,ピューリタン革命期の1651年に共和制政府が発布したものが最も有名。英国とその植民地に輸入されるヨーロッパ以外の地の産物は英国船で輸送すること,ヨーロッパからの輸入品は英国船または産地国か最初の積出国の船で輸送することなどを規定し,オランダ海運業の締出しを図った。英国・オランダ戦争(英蘭戦争)の原因となり,重商主義帝国建設の支柱としての役割を果たしたが,1849年廃止。
→関連項目自由貿易主義ハスキッソン

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「航海法」の解説

航海法(こうかいほう)
Navigation Act

1651年イングランド共和政政府によって制定された海運・貿易立法。60年に議会制定法として再制定された。イングランドと植民地間の海運をイングランド船のみに制限することを定めた。その直接のねらいは当時中継貿易によって覇権を握っていたオランダに挑戦することにあり,王政復古後も再確認されて,3度のオランダ‐イギリス戦争の原因となった。以後もイギリス重商主義政策の根幹をなす法として,その海外進出を支えたが,1849年自由貿易の高まりによって廃止された。

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旺文社世界史事典 三訂版 「航海法」の解説

航海法
こうかいほう
Navigation Act

イギリス貿易から外国船を排除することを目的として出された法令
14世紀後半からしばしば発布されたが,クロムウェルとチャールズ2世によって出された1651・60・63年のものが最も有名。1651年には,ヨーロッパ以外の国の商品を輸入する際にはイギリス船によること,ヨーロッパ各地からの輸入品はその生産国の船かイギリス船で輸送されるべきこと,魚類はイギリス船で輸入すべきことなどを規定し,60・63年には主要商品のヨーロッパ大陸・イギリス植民地間の貿易は,必ず本国を経由すべきことを追加した。これはオランダ打倒を目標としており,英蘭戦争の原因ともなった。のちに,産業資本家が発達し,自由貿易が主張されるようになり,1849年廃止された。

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世界大百科事典(旧版)内の航海法の言及

【英蘭戦争】より

…当時両国間には北海の漁業や貿易・海運,植民地をめぐって深刻な対立が生じていたが,全盛期のオランダがイギリスを圧倒する勢いにあった。イギリスはクロムウェル政権の登場とともに,1651年有名な航海法(海運法)を布告して,全面的にオランダに反撃に出た。また市民革命により王位を追われたスチュアート家と,オランダの総督職にある名門オランイェ(オレンジ)家が,姻戚関係にあったことも両国間の政治的緊張の原因となっていた。…

【ピューリタン革命】より

…これが今日の〈アイルランド問題〉のひとつの原点となっている。また51年議会が〈航海法〉を制定したため対オランダ戦争が勃発し,3回にわたって戦われたこの戦争(1752‐54,65‐67,72‐74)を通して,イギリスはオランダの海上覇権に挑戦し,植民地帝国建設に向けての第一歩を踏みだした。この間,暫定的に共和政の政権を担当していた残部議会は,いたずらに保身を図って軍を敵視したため,53年4月クロムウェルはこの軍の不満を背景にして議会を武力解散した。…

※「航海法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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