自然資産区域法(読み)しぜんしさんくいきほう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「自然資産区域法」の意味・わかりやすい解説

自然資産区域法
しぜんしさんくいきほう

国立公園や国定公園などのたいせつな自然環境を保全するため、地方公共団体(地方自治体)が観光客らから入域料を徴収できると明記した法律。超党派議員立法で2014年(平成26)6月に成立した。2015年6月までに施行する。正式名称は「地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律」(平成26年法律第85号)。「地域自然保全法」ともいう。従来、入域料の導入は負担を嫌って観光客が減少するのではないかとの懸念があり、観光地などでの合意形成がむずかしい面があった。自然資産区域法は環境保全目的の料金徴収に法的根拠を与え、自治体が受益者負担を求めやすくし、登山道、遊歩道、柵(さく)、駐車場、トイレなどの整備・維持・管理費、希少動植物の保護費、清掃費、遭難対策費などを確保しやすくするねらいがある。また、将来にわたって自然環境を守るべき土地を取得・管理する「自然環境トラスト活動」を推進すると規定。広く寄付を募って、保全区域を買い取る「トラスト活動」を、財政的に支援する基金を自治体主導で設けることができると明記した。しかし市民レベルでナショナル・トラスト運動を推進する団体などからはこの法律に対し、「行政介入がむしろトラスト活動を阻害する」「自治体の首長の判断ひとつで保全から開発へ転換する恐れがある」などという懸念が出ている。

 自然資産区域法では、自治体は土地所有者、住民学識経験者、関係団体などと協議し、環境を保全する上でとくに重要な区域を「地域自然資産区域」に指定できる。指定対象に想定しているのは国立・国定公園、学術上価値の高い史跡や庭園といった名勝地、特別天然記念物の生息地などである。自治体は地域自然資産区域への入域料水準、入域料の徴収方法、徴収対象、徴収時間帯、入域料の使途などを定めた地域計画を作成する。入域料を徴収するかどうかは各自治体の判断に任される。日本での、自治体による入域に関する料金の徴収例には、世界遺産に指定された静岡・山梨両県の富士山のほか、白神(しらかみ)山地(青森県西目屋(にしめや)村)の暗門(あんもん)の滝、岐阜県高山市の乗鞍(のりくら)、滋賀県米原(まいばら)市の伊吹山(いぶきやま)、鹿児島県屋久島(やくしま)町の屋久島、沖縄県伊是名(いぜな)村の伊是名島などがあり、観光客らに入山料などの名称で利用者負担を求めている。しかし強制徴収しているのは乗鞍などに限られており、多くは登山者を含む利用者らの任意判断に任されている。自然資産区域法の施行を受け、入域料を導入する自治体が増えるとみられるほか、これまで任意徴収であった負担制度を強制徴収に切り替える自治体も出てくる見通しである。

 なお自然資産区域法以外にも、自然公園法による利用調整地区制度や、エコツーリズム推進法による特定自然観光資源への指定など、利用者に課金などの負担を求める制度は存在する。自然資産区域法は入域料導入による利用者(入場者、観光客)抑制を目的としていないが、自然公園法の利用調整地区制度は過剰利用や混雑を緩和するための利用制限を目的としている。

[編集部 2015年1月20日]

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