自然学(読み)しぜんがく(英語表記)physica[ラテン]

精選版 日本国語大辞典 「自然学」の意味・読み・例文・類語

しぜん‐がく【自然学】

〘名〙
ギリシア哲学で自然を対象とする部門アリストテレスでは理論的な学問分野一つで、第一哲学形而上学)、数学と並び、第二哲学とも呼ばれる。ストア学派エピクロス学派では論理学後者では規準論)、倫理学とともに哲学を構成する。
※心づくし(1897)〈小金井喜美子訳〉「自然学(シゼンガク)に関する書物いと少なく候へば」
※如何にして大文学を得ん乎(1895)〈内村鑑三〉「十九世紀後半期に於ける自然学の進歩は」

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デジタル大辞泉 「自然学」の意味・読み・例文・類語

しぜん‐がく【自然学】

ギリシャ哲学で、自然を研究対象とする部門。ストア学派エピクロス学派では、論理学または規準論・倫理学とともに哲学の3部門をなす。→自然哲学

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改訂新版 世界大百科事典 「自然学」の意味・わかりやすい解説

自然学 (しぜんがく)
physica[ラテン]

近代的な精密科学に発展する以前の,思弁的傾向の強い自然に関する学問をいう。欧米語では物理学と自然学が同一の語で表されるが,これは自然学が概念的変貌を遂げるなかで,物理学へ転化していったことを如実に示している。古代ギリシアでは早くもイオニア学派が神話的解釈に満足せず,自然について独自の原理的な考察を行ったことが知られている。だが学問としての自然学を確立し,後世に巨大な影響を及ぼしたのはアリストテレスである。彼は学問全体を,それぞれ理論,実践,制作にかかわる三つの部門に分類し,自然学を形而上学および数学とともに理論的部門に位置づけた。もともと〈自然学(フュシカ)〉というラテン語自体,この分野に関するアリストテレスの著作を総称的に指すために使われたギリシア語〈自然学的諸著述(タ・フュシカ)〉に由来する。彼によれば,〈自然(フュシス)〉とは事物の運動と静止の原理であり,これらの原理とその具体的現象形態を研究するのが自然学であった。したがって彼の構想した自然学の範疇(はんちゆう)には,天体や気象の研究から生物や人間の研究にいたるまで,まさにあらゆる自然の研究が含まれている。アリストテレスの自然学体系は後に中世のアラビアやヨーロッパに伝えられたが,そこでは個々の具体的内容に関していくつかの注目すべき展開がみられるものの,枠組み自体はほとんど変わらなかった。しかし17世紀にガリレイやデカルトらによっていわゆる科学革命が遂行され,アリストテレス=スコラ的な世界像が崩壊すると,それにともない自然学の枠組みも大きく変化せざるをえなかった。そしてその結果,電気,磁気,熱,光などの無機的な自然界の基本現象を数量的実験的に研究するのが,自然学の新たな目標とみなされるようになった。だがこれらの研究の基礎が数学的に固められ,学問としての近代物理学が誕生するのは,19世紀に入ってからのことである。ちなみに〈物理学者physicist〉という英語が初めて使われたのは,1840年である。
物理学
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百科事典マイペディア 「自然学」の意味・わかりやすい解説

自然学【しぜんがく】

ラテン語physica,英語physics,ドイツ語Physik,フランス語physiqueなどの訳で,欧語はいずれも物理学とも訳される。元来,アリストテレスの学問分類にあって,第一哲学(形而上学)・数学とともに理論学の一つ。生成変化する自然界の個物に関する知の謂であり,天体から生物までを包摂していた。したがって,古代,中世の自然研究は基本的に自然学であり,科学革命を経て成立した〈物理学〉の語を近代以前に用いることは適当でない。→物理学
→関連項目形而上学

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「自然学」の意味・わかりやすい解説

自然学
しぜんがく

自然哲学」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の自然学の言及

【アルベルトゥス・マグヌス】より

…その成果は彼の著作のほぼ半分をしめ,百科全書の観を呈している。また,自然現象や動植物の観察に強い関心を示し,さまざまの魔術伝説が生まれたほどであるが,実際には彼の自然研究者としての功績は,当時優勢であった数学的方法による自然現象の説明に対抗して,固有の対象と方法をもつ自然学を確立したことである。【稲垣 良典】。…

【形而上学】より

…哲学の諸分野,諸原理の最高の統一に関する理論的自覚体系。語源的には,アリストテレスの講義草稿をローマで編集したアンドロニコスが,《自然に関する諸講義案(タ・フュシカ)》すなわち自然学の後に(メタ),全体の標題のない草案を置き,《自然学の後に置かれた諸講義案(タ・メタ・タ・フュシカ)》と呼び,これがメタフュシカmetaphysicaと称されたことに基づく。内容的には,第二哲学としての自然学に原理上先立つ存在者の一般的規定を扱う第一哲学,自然的存在者の運動の起動者としての神を扱う神学を含む。…

【自然哲学】より

…自然的世界の原理的反省を課題とする哲学の一分野。〈自然哲学philosophia natu‐ralis〉という言葉はセネカに始まるが,起源はソクラテス以前の自然学者たちによる自然(フュシス)の原理探究にさかのぼる。アリストテレスは運動する存在者に関する自然学を第二哲学と呼び,運動の起因者としての神の探究はこれを第一哲学(形而上学)にゆだねた。…

【哲学】より


【近代西欧の哲学】
 キリスト教における〈神的な知〉への愛としての哲学は,近代西欧の哲学において,地上的な人間存在による知への愛としての哲学へ転回せしめられた。近代西欧の哲学は,17世紀に新しい哲学としての自然学を生み出し,18世紀には人間学すなわち今日の社会科学や人文科学へと展開された。しかしそれらは,18世紀後半に至るまでなお,今日の意味における〈科学〉ではなく実は〈哲学〉であり〈形而上学〉であった。…

【物理学】より

… physicsの語源はギリシア語のフュシスphysisで,諸説あるが,ここでは,〈みずから成長する〉という意味のphyseinから生まれたと解しておく。直接的にはギリシア語のphysika,すなわち〈自然の事物〉の意を受け,アリストテレスの《自然学physika》に象徴されるように,それを扱う学問の意味で用いられた。ちなみに自然学として,ラテン語でもphysicaがそのまま転写して使われるが,意訳されるときは〈de rerum natura〉とされるのが習慣で,これを日本語で〈ものの本性について〉と訳すのは適切ではない。…

※「自然学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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