(読み)こし

精選版 日本国語大辞典 「腰」の意味・読み・例文・類語

こし【腰】

[1] 〘名〙
① 人体で、背骨の下部、脊椎(せきつい)と骨盤の連絡する部分。からだを回したり、曲げたりできる部分。他の動物についても、これに準じて用いる場合がある。腰部(ようぶ)
※古事記(712)中・歌謡「海が行けば 許斯(コシ)(なづ)む 大河原の 植草 海がは いさよふ」
※宇治拾遺(1221頃)三「引目して射ければ、狐の腰に射あててけり」
② 袴や裳などの腰にあたる部分。また、そのあたりで結ぶ紐。
※古事記(712)中「即ち御腹を鎮めたまはむと為(し)て、石を取りて御裳の腰に纏(ま)かして」
③ 壁、障子、乗物、書物などの、中程より少し下部をいう。また、器物等の中程の部分、または台脚の部分。
※松屋会記‐久政茶会記・天文一三年(1544)二月二七日「香炉せかい内角あつく、腰の上下に指のあと程のすじ二づつあり」
④ 山の麓に近い所。すそ。
※平家(13C前)五「甲斐、信濃の源氏ども案内は知って候、富士のこしより搦手(からめで)にや廻り候ふらん」
⑤ 兜(かぶと)の鉢の周縁部に巻いた帯金物。しころつけ。玉垣。たてはぎの板。
⑥ 和歌の第三句の五文字をいう。また、漢詩で、第五、第六句の対、または五言の第三字、七言の第五字をいう。
※類従本元永元年十月二日内大臣忠通歌合(1118)「腰の文字づかひ、幼き也」
⑦ 「こしおし(腰押)」の略。
※浄瑠璃・関取千両幟(1767)二「ムム、聞えた、こりゃ九平太が腰ぢゃな」
⑧ 屈伸したり、物をもちこたえる力。また、押し通す意気。気勢。勢い。「および腰」
※俳諧・類船集(1676)己「腰(コシ)〈略〉筆」
※虞美人草(1907)〈夏目漱石〉一四「言葉の腰がふらふらしてゐる」
⑨ (⑧から転じて) 餠や練った粉などの粘り気や、そば、うどんの弾力。
⑩ 布、紙など、形がくずれにくいような弾力性、強靱さ。
※笹まくら(1966)〈丸谷才一〉二「画用紙で結構なんですが、やはり多少とも腰があるほうがいいみたいですね」
[2] 〘接尾〙
① 袴、刀など腰につけるものの数を数えるのに用いる。
※法隆寺伽藍縁起并流記資財帳‐天平一九年(747)二月一一日「裳壱腰〈鳩染色〉」
※平治(1220頃か)上「いか物作りの太刀一腰」
② 矢を盛った箙(えびら)を数えるのに用いる。
※今昔(1120頃か)二八「船に胡録三許取り入て」
③ 蟇目(ひきめ)の矢四筋をいう語。
[補注](二)は「こし」と「よう」の両用の読み方があるが、「よう」項には確例だけを入れた。

よう エウ【腰】

〘接尾〙 袴(はかま)・帯・太刀など、腰のあたりにつけるものを数えるのに用いる。「こし」とよむのが普通。
※運歩色葉(1548)「一腰 いちヨウ 太刀」 〔北史‐柳裘伝〕

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デジタル大辞泉 「腰」の意味・読み・例文・類語

こし【腰】

[名]
人体で、骨盤のある部分。脊椎が骨盤とつながっている部分で、上半身を屈曲・回転できるところ。腰部ようぶ。「が曲がる」「をおろす」
はかまなどの1にあたる部分。また、そのあたりに結ぶひも。
物の1に相当する部分。中ほどより少し下部。
㋐壁や建具の下部。「の高い障子」
㋑器具の下部。また、器具を支える台や脚。
㋒山の中腹より下の方。「山のを巡る道」
かぶとの下部につける帯状の金具。
和歌の第3句。「の折れた歌」
もち・粉などの粘り・弾力。
紙・布などのしなやかで破れにくい性質。
(他の語の下に付き、「…ごし」と濁って)何かをする際の姿勢・構え。「けんか」「及び
[接尾]助数詞
刀・袴など腰につけるものを数えるのに用いる。「刀ひと」「袴ひと
矢を盛ったえびらを数えるのに用いる。「矢ひと
[下接語]足腰襟腰しっしり(ごし)居合い腰浮き腰受け腰後ろ腰裏腰海老えび大腰及び腰ぎっくり腰喧嘩けんか小腰高腰中腰強腰釣り込み腰逃げ腰二枚腰粘り腰はかま跳ね腰払い腰二重ふたえ腰・り腰細腰本腰前腰丸腰物腰柳腰・弓腰・弱腰
[類語]腰部小腰

よう【腰】[漢字項目]

常用漢字] [音]ヨウ(エウ)(呉)(漢) [訓]こし
〈ヨウ〉
こし。「腰骨腰椎ようつい腰痛腰部細腰楚腰そよう蜂腰ほうよう柳腰
中ほどから下の部分。「山腰
〈こし(ごし)〉「中腰ちゅうごし本腰丸腰物腰柳腰弱腰

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腰」の意味・わかりやすい解説


こし

腰あるいは腰部についての明確な定義はないが、腰椎(ようつい)の高位と考えればよい。腰椎は胸椎の下位に5個あり、その下位には仙骨があって、仙骨は骨盤の一部となっているので、腰椎は脊柱(せきちゅう)の土台といえよう。

 腰椎は生理的に軽度の前彎(ぜんわん)を示しているが、強力な靭帯(じんたい)、筋肉によって支持されており、腰筋膜も強靭である。腰椎の運動は屈伸運動がもっともできやすく、左右屈運動もできるが捻転(ねんてん)運動は少ない。ヒトは起立位をとるため腰部にかかる負担はきわめて大きく、とくに腰椎下部に力学的負担が集中的に加わる。そのため、腰椎椎間板ヘルニアは第4―第5腰椎椎間にもっとも多く、脊椎分離症は第4腰椎と第5腰椎に多く発生し、退行性変化である変形性脊椎症も腰椎下部に好発する。これらの疾患は腰痛の原因になるが、そのほかに腰筋痛などもおこりやすい。

 このような腰痛の発生は、起立しているヒトの宿命であるともいえる。日常、座位および起立位での姿勢をよくすること、腰部体操などを行って腰部筋力の強化に努めることが必要である。

[永井 隆]

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世界大百科事典 第2版 「腰」の意味・わかりやすい解説

こし【腰】

一般に背骨の下部,上半身を曲げたりひねったりすることのできる部位を指す語。解剖学的には腰部の範囲は狭小だが,日常語としての〈こし〉が指す部分はあいまいで広い。〈こしぼね〉には寛骨や仙椎も含まれ,〈こしをかける〉とは実は尻をかけることである。柔道で相手を臀部に乗せて回し投げる技を腰車という。武士腰刀を側腹部に差していた。くびれた腰の線とは側腹部を後ろから見た輪郭のことである。このようなあいまいさは他の言語にもある。

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