腰痛(症)(読み)ようつうしょう(英語表記)Lumbago, Low Back Pain

家庭医学館 「腰痛(症)」の解説

ようつうしょう【腰痛(症) Lumbago, Low Back Pain】

◎腰痛はほとんどの人が経験する
[どんな病気か]
[原因]
[検査と診断]
◎手術せずに治ることが多い
[治療]

[どんな病気か]
 背骨(せぼね)は、くびの骨(頸椎(けいつい))から尾骨(びこつ)まで、約32~35個の積み重なった脊椎(脊椎骨(せきついこつ))から成り立っています。このうち、腰椎(ようつい)は5個です。頸椎は7個で、くびの長いキリンでも同じ数です。
 この背骨によって、頭や胸、おなかが支えられています。また、背骨は、積み重なった構造をしているので、からだを曲げたり伸ばしたり、ねじったりすることができます。
 人間は四足動物から進化し、二足で直立生活をするようになりました。そのため、背骨を横からみると、くびと腰の部分では前方に凸のカーブをつくり、胸の部分は後方に凸になっています。
 腰は、体重を支えるのにもっとも大きな役割(負担)を受け持ち、からだを曲げ伸ばしするときや、物を持つときにも、いちばん負担の加わるところです。このために、人間は腰部に弱点をもつようになったと考えられます。
 背骨の大きさは、スポーツで鍛えて大きくなった人は例外ですが、肥満体の人でも、大きいということは、まったくありません。
 身長や性別が同じ人では、その大きさは、ほとんど差がありません。
 腰椎(ようつい)(腰骨(こしぼね))のいちばん下の部分には、全体重の60%がかかります。
 腰を前に曲げたときには、その4倍の荷重がかかります。
 ですから、肥満体の人は、非常に大きな負担増となるわけです。
 一般に、腰の骨や周囲の筋肉など、このあたりに痛みがあることを、広い意味で、腰痛(症)といいます。
 せまい意味の腰痛症とは、ほかの病気によっておこっている一部分症としての腰痛や、背骨や神経にはっきりした原因のある腰痛を除いた、あまり原因のはっきりしないものをいいます。
 頻度の非常に高い病気で、整形外科の外来患者さんの20~30%が腰痛を訴えて来院されます。
 腰痛の患者さんは、高校生くらいまでは、たいへん少ないのですが、30~40歳代にもっとも多くなり、おとなでは、ほとんどの人が、一生のうちに一度は経験するといわれるほど、よくみられるものです。しかし、その大部分は容易に治るものです。
 おもしろい調査結果があります。腰痛や坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)(脚(あし)にまで痛みが走るもの)がある50歳以上の整形外科医を追跡調査したところ、3か月以上痛みが続く人は、約1割しかいなかったそうです。
 つまり、多くの腰痛症は、それほど心配するものではない、ということです。しかし、なかには、たいへんな病気の1つの症状であったり、なんらかの治療をしなければ治らない腰痛もあります。ですから、まずもって専門医である整形外科を受診して、原因を調べてもらってください。
 内臓の病気などが原因となっているものでは、さらに他科の受診も必要となります。

[原因]
 腰痛の原因は、つぎの5つに分類されます。
①背骨やその周囲の筋肉などの病気に由来するもの。
②内臓の病気に由来するもの(婦人科の病気も含む)。
③神経の病気に由来するもの。
④血管の病気に由来するもの。
⑤心因性のもの。
 もっともよくみられる腰痛は、やはり整形外科的な原因によるもので、①に分類されるものです。
 ほんのわずかの体位の変化、たとえば、朝起きて顔を洗おうとしてちょっと前かがみになったとか、重いものを持ち上げようとしたなどで、突然、腰に激痛がおこるものを急性腰痛症(きゅうせいようつうしょう)(ぎっくり腰(ごし))といいます。
 こういう急性期を過ぎても、長く持続する腰痛や、くり返しおこる腰痛を、慢性腰痛症(まんせいようつうしょう)といいます。
 腰の痛みだけでなく、全身状態が悪く、突然に発症した場合には、おなかの中の大きな血管の破裂なども考えなければなりません。
 また、内臓の病気(胆石(たんせき)など)が原因となっている可能性も考えてみる必要があります。
 安静にしていても痛みがある腰痛や、どんな姿勢をとっても四六時中痛みがある場合には、重い病気のことがあるので、必ず病院を受診してください。先にも述べたように、ふつうの腰痛は、そんなに長く続くことはありません。
 子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)や月経異常など、婦人科の病気によっても腰痛はおこります。女性で、下腹部にも痛みがあるときは、婦人科を受診することも必要です。
 心の病が原因となって、腰痛を訴えることもあります。このような心因性腰痛(しんいんせいようつう)では、いろいろな整形外科的な検査を行なっても、異常をみつけ出せないものです。
 もっとも頻度の高い腰痛は、つぎのような、整形外科的な原因によっておこるものです。全身状態に問題がない場合は、まず整形外科を受診してください。他科の病気と考えられるときは、それを専門とする科(医師)を紹介してくれます。
●脊椎自身の病気によるもの
 椎間板(ついかんばん)ヘルニア、変形性脊椎症(へんけいせいせきついしょう)(多くは老化による)、脊椎分離(せきついぶんり)症・すべり症、脊椎炎(せきついえん)、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、脊椎腫瘍(せきついしゅよう)など。
●脊髄(せきずい)の病気によるもの
 背骨の中を通っている脊髄に腫瘍(しゅよう)や癒着がおこったもの。
●脊髄から出て、脚に向かう神経の病気
 腫瘍や、なんらかの原因によって神経が圧迫されたもの。
●筋肉や筋膜(きんまく)、腰の周辺の小さな皮膚神経に障害がおこったもの
●いわゆる腰痛症
 X線検査で、腰椎になんの変化もみられず、また、心因性のものでもない、腰部の痛みを訴えるもの。

[検査と診断]
 腰痛が発生した時期や、どのような出来事(姿勢、事故の状態など)が腰痛の引き金となったかを聞き、X線検査、腰の動きの程度、それによる痛み、押さえて痛い場所、脚へと走る痛みなどを調べて原因を追究します。
 椎間板ヘルニア脊髄腫瘍などが疑われるときには、MRIやCTを使って検査を行ないます。また、全身的な病気や細菌感染(化膿性(かのうせい)の病気)が疑われるときには、血液や尿の検査も行なわれます。
 以上の検査結果などを総合して診断します。
 ふつうの腰痛は、まず3か月以上も続くことはありません。したがって、長く腰痛が続く場合は、他科の病気によることもありますので、内科などを受診するとともに、いろいろな精密検査が必要になります。
 さらに、医師といっても万能であるはずはありません。症状が長引く場合は、他の医師の意見も聞くべきです。

[治療]
 腰痛は、格別な治療を行なわなくても自然に治るものもありますが、治療としては、つぎのような保存的療法が適当です。手術を要するのは、椎間板ヘルニアや腫瘍など、特別な場合だけです。
●急性期
 背骨やその周辺の筋肉などの負担を軽くするために、横になって休むなど、安静をとることがもっともたいせつです。
 寝るときも、本人がもっとも楽な姿勢、痛みのない姿勢をとるのがよいのですが、多くは、エビのように腰を曲げた状態がよいと思います。
 症状が強い場合は、消炎鎮痛薬や筋肉の緊張を取り除く薬を服用しますが、これは医師の指示にしたがうべきものです。
 また、ぜんそくの持病のある人は、ふつうの鎮痛薬は、ぜんそくを誘発することがあるので、自分で市販薬を買って服用することは危険です。
 受診するときも、必ずぜんそくがあることを、医師に告げてください。
 また、他の病気で薬を服用している人も、必ず医師にそのことを伝えてください。併用によって、副作用が現われることもあるからです。
 いわゆるぎっくり腰など、強い痛みがあるときは、硬膜外(こうまくがい)ブロックなどの注射が、非常に有効です。
慢性期
 急性期を過ぎて激痛はなくなったが、痛みが続く人や、初めから強い痛みはないが、くり返し痛みがある人には、つぎのような治療がよいと思われます。いずれにしても、専門医である整形外科医に診察してもらって、適当な治療を行なってください。
 牽引療法(けんいんりょうほう) 腰痛の治療にもっとも多く行なわれている療法で、骨盤牽引(こつばんけんいん)といわれています。
 これによって腰部を安静にできることや、筋肉の緊張をゆるめることなどで、痛みがやわらぐと考えられます。
 物理療法 腰部を温めたり冷やしたりする方法で、腰部の血行をよくし、痛みや筋肉の緊張の緩和をもたらします。ホットパック、温めたパラフィン、赤外線、超短波や超音波、氷水などを使用して行なう療法です。
 装具療法 コルセットや腰椎装具を使って、腰椎の運動を制限または固定させる療法です。いろいろな型の装具がありますが、もっとも重要なことは、自分にきっちりと合ったものを装着することであり、したがって既製品ではなく、整形外科病院で、医師の指示のもとに、その人に適したものをつくるべきです。
 ブロック療法 麻酔薬や炎症を鎮める薬を注射して、腰髄(ようずい)の神経を遮断(ブロック)する方法です。即時に痛みを取り除くことができます。
 薬物療法 症状に応じて、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬(きんしかんやく)を使いますが、薬物アレルギーのある人や、ぜんそくのある人は、必ずそのことを医師に伝えてください。
 運動療法 よい姿勢を保つには、脊椎を伸ばす筋肉と曲げる筋肉とが、バランスよくはたらくことが必要です。
 また、立ったり座ったりするときに脚(下肢(かし))の筋力も必要です。
 したがって、腰や全身の筋肉をバランスよく強化し、また、拘縮(こうしゅく)(ちぢこまり)をとることが重要になります。
 そのために、腰痛体操(図「腰痛体操(1)」図「腰痛体操(2)」図「腰痛体操(3)」図「腰痛体操(4)」)やストレッチ訓練を行ないます。
 生活指導 日ごろから運動をして、全身を鍛えることがたいせつです。そのためには、すぐに自動車やエレベーターなどを使うことなく、歩いたり階段をのぼるように心がけましょう。
 心臓などに問題のない人がエレベーターを使用するのは、自分のからだを弱めていることになります。
 日ごろから、よい姿勢を保つように心がけることがたいせつです。
 一定の姿勢を長時間続けることはよくありません。ときおり、姿勢を変えるべきです。
 立って仕事を続ける人は、片側の足を10cmくらいの高さの台にのせ、股(また)や膝(ひざ)の関節を軽く曲げ、ときどき足を交代するようにします。
 また、座る仕事などでは、背もたれに背を平らにつけるように腰かけ、足が床について、膝が少しいすから浮くくらいがよいと思われます。こうした姿勢になるように、いすや机の高さを調整するとよいでしょう。
 肥満も腰痛の敵ですので、注意しましょう。水泳はよい運動ですが、腰痛のある人は、クロールか背泳ぎ、横泳ぎに限るべきです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android