腕足類(読み)わんそくるい

精選版 日本国語大辞典 「腕足類」の意味・読み・例文・類語

わんそく‐るい【腕足類】

〘名〙 腕足動物門に属する、シャミセンガイホオズキガイなどを含む動物群。海産。からだは背腹に付いた非相称の二枚の石灰質の殻に包まれ、肉質の柄で他物に定着する。軟体は二枚の外套膜に包まれ、口の両側方に二個の触手を担う台座がよく発達し、複雑な腕となり、そこに触手列が見られる。雌雄異体。現生の種類は古生代地質から発見される化石と大きな変化はなく、「生きた化石」の一つとされている。〔英和和英地学字彙(1914)〕

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デジタル大辞泉 「腕足類」の意味・読み・例文・類語

わんそく‐るい【腕足類】

腕足綱触手動物の総称。海産で、二枚貝のような貝殻をもつが、殻は体の背腹に位置する。殻外へ肉質の柄を伸ばして他の物に付着する。シャミセンガイホオズキガイなど。古生代カンブリア紀に出現し、「生きている化石」といわれる。

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改訂新版 世界大百科事典 「腕足類」の意味・わかりやすい解説

腕足類 (わんそくるい)

古生代に繁栄した海生無脊椎動物で,中生代以降は衰退の一途をたどり,現在の生物界の中ではきわめて小さな位置を占めているにすぎない。したがって,地質学古生物学では重要視されているが,生物学や海洋学の中ではあまり重用されず,また一般にもなじみの薄い生物といえる。

 軟体部が2枚の殻によって包まれているという基本的な形態が二枚貝類とよく似ているが,二枚貝類が形も大きさもほぼ等しい2枚の殻をもっているのに対し,腕足類の殻は形も大きさも違う。加えて,発生から幼生までの段階が大きく異なるので,二枚貝類が軟体動物に属するのに対し,腕足類は腕足動物として独立した1門Brachiopodaをなしているが触手動物門の1綱とすることもある。この奇妙な名称は,当初殻の内部にある触手冠と呼ばれる集餌器官を軟体動物の移動器官とまちがえて,それぞれ腕と足を意味するラテン語brachiumとpodを結びつけてBrachiopodaとしたことに由来する。

2枚の殻は腹殻(茎殻),背殻(腕殻)と呼ばれ,前者は後者よりも大きいのがふつうで,それぞれの殻の中央を通る面で左右対称である。腕足類は殻を連結させ,その開閉をつかさどる機構の違いによって,無関節類と有関節類に二大別される。前者は殻のふくらみが弱いが,後者は強いものが多く,両凸型,凹凸型などのほかに,角笛形の腹殻とふた状の扁平で小さな背殻をもつ奇形のものもみられ,変化に富む。殻の組成はキチン質とリン酸カルシウム(リン灰石)からなるものと,炭酸カルシウム方解石,アラレ石)からなるものがあるが,無関節類の多くは前者,有関節類の多くは後者である。

 2枚の殻の内部にはいろいろな構造がみられるが,有関節類では腹殻に歯,背殻に歯槽があり,そこがちょうつがいとなって,筋肉の伸縮により両殻を開閉する。無関節類は歯と歯槽を欠き,両殻が外套(がいとう)膜と筋肉によって結合されている。多くの種類は両殻の後端付近に茎孔をもち,この穴から肉茎を出して他物に付着するが,茎孔の位置の違いが大きな分類の目安とされていたこともある。背殻内には触手冠を支える腕骨があり,簡単なものはリンコネラRhynchonellaのように1対の単なる突起にすぎないが,チョウチンガイTerebratulinaのように長くのびてリボン状になったものや,スピリファーのようにらせん状を呈するものなどいろいろで,分類や系統発生を考えるうえで重要視されている。殻の表面は平滑で成長線しかみられないものもあるが,同心円状,放射状の条線・ひだ,大小のとげなどによって覆われていることが多い。2枚の殻の間には,各種の内臓器官が外套膜に包まれて収められている。

 消化管は触手冠の基部に開く口から食道,胃,終腸を経て,外套腔に肛門が開く。しかし有関節類では肛門がなく,不消化物は口から出される。腸の背側に心臓があり,血管は前方にのびて腕に達し,無色の血液が流れている。

 大部分は雌雄異体で,無性生殖はしない。生殖物は肛門の近くに開いている排出孔から外套腔に出される。発生がすすむと,トロコフォラに似た幼生になって遊泳し,その後変態して着生生活または砂中生活に移る。

腕足類はシャミセンガイのように汽水域にすむごく少数のものを除いては,大部分が海生で,海水中のケイ藻や栄養塩を摂取して生活しており,化石として産した場合には,含有層が海成であることを示す良好な示相化石となる。現生のものは汀線(ていせん)付近から数百mの深さの間にすむものが多いが,まれには数千mの深海からも発見される。また15℃前後の比較的冷水を好むとされており,このため温帯の日本近海には,チョウチンガイなどの現生種が多く生息している。大部分の腕足類は,肉茎,とげ,腹殻などによって岩石や他生物に付着して生活する固着・表生型であるが,肉茎が失われて自由に海底に横たわるものもある。古生代の終りころに栄えたプロダクタスProductusの仲間のあるものは,カキのように殻でぴったりと岩石に付着していたと考えられているし,同じころの海にすんでいたコネーテスChonetesの仲間は,薄い凹凸型の殻をもっており,ホタテガイのように,瞬間的に殻を閉じて水流を噴出させて移動したとされている。また一方では,シャミセンガイのように,砂泥質の内海の浅所に穴を掘ってすむ内生型のものも,ごくまれにある。

腕足類は早期カンブリア紀にはすでに種数,個体数ともに多く,その形態もかなり進化したものが少なくないので,その発生は先カンブリア時代末期にさかのぼると考えられているが,化石としては発見されていない。その後しだいに繁栄して,デボン紀には属の数が1000にものぼり,ピークに達する。古生代末の二畳紀にはまだ500属ほどあったものが,中生代に入ると,200属近くに急減し,古・中生代境界付近で多くのグループが姿を消してしまう。中生代,新生代を通じて新しく出現した種類は少なく,衰退を重ねて現在に至っており,地史学上の重要性も古生代とは比べるべくもない。

現在生存している腕足類は属の数にして約100である。

 現生の腕足綱は,前述のように無関節亜綱Inarticulataと有関節亜綱Articulataとに分けられる。前者にはミドリシャミセンガイLingula unguis,イカリチョウチンCraniscus japonicusなど,後者にはタテスジチョウチンガイTerebratulina japonica,カメホウズキチョウチンTerebratalia coreanica,タテスジホウズキガイCoptothyris grayi,ホウズキチョウチンLaqueus rubellus,コカメガイPictothyris pictaなどが知られている。水深15~500mの海底で他物に固着して生活している。

腕足類は地質学や古生物学の中で,示準化石や示相化石として役に立ったり,その分布の特徴から当時の古生物地理や,地質時代に行われた大陸移動などを推定するための根拠として用いられたりするが,一般生活の中では現生種が少ないこともあって,利用度はきわめて低い。わずかに,中国で古くから,腕足類化石の殻が漢方薬(石燕)として用いられたり,九州有明海産のシャミセンガイがつくだ煮やみそ汁の実などとして食用に供されている例があるのみである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腕足類」の意味・わかりやすい解説

腕足類
わんそくるい

触手動物門の1綱Brachiopodaを構成する動物群。すべて海産で、シャミセンガイの仲間(無関節亜綱)とホオズキガイの仲間(有関節亜綱)とに二大別される。2枚の殻と、殻の根元から出る肉茎とよばれる柄をもち、海底の砂泥中に潜るか、岩などに付着してすむ。外見上、軟体動物の二枚貝類とよく似ているので間違われるが、2枚の殻は体の背腹に位置し、互いに形が異なっていることで区別できる。殻長数センチメートルくらいの種が多い。

 殻の中には、内臓の詰まった軟体部、殻を分泌する膜状の外套(がいとう)、そして触手冠が収まっている。触手動物門のほかの2綱(コケムシ類とホウキムシ類)に比べて、腕足類の触手冠はとくによく発達していて大きく、特別に腕(うで)とよばれる。この腕を支えるために、背側の殻の内側には腕骨(わんこつ)とよばれる構造が発達している。種の同定には、化石種の場合はとくに、この腕骨の形が重要となる。

 消化管はU字形で、肛門(こうもん)は触手冠の外側に開く。ホオズキガイの仲間は肛門をもたない。血管系は閉鎖型。排出器と生殖輸管を兼ねた1対の腎管(じんかん)をもつ。雌雄異体。シャミセンガイ類の幼生は2枚の殻をもち、しばらく浮遊したのちに着底して変態せずにそのまま成体となる。ホオズキガイ類の幼生は殻をもたず、孵化(ふか)後1日ほどで着底し、成体へと変態する。

 腕足類は、古生代カンブリア紀に出現した古い動物群である。各地質時代ごとに、それぞれ特徴的な多種多数の化石が産出するため、古生物学や地質学においても重要な動物群である。なお、分類学上、この動物群を門の段階に昇格させて扱うこともある。

[馬渡峻輔]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腕足類」の意味・わかりやすい解説

腕足類
わんそくるい
Brachiopoda; lamp shell

触手動物門腕足綱に属する種類の総称。体は2枚の殻でおおわれ,一見二枚貝類に似るが,二枚貝類では体の左右に貝殻がある (したがって両殻を右殻,左殻という) のに対し,本類では体の背腹に殻をもつため背殻,腹殻と呼ぶ。殻は一般に石灰質であるが,革質のものもある。殻の内部には2枚の外套膜と2個の腕および内臓嚢がある。腕は半円形または角状に巻き,そこに触手が1列に並び,内部に腕骨がある。幼生はトロコフォラで,プランクトン生活をする。単独生活性で雌雄異体。多くは殻孔から長い肉柄を出して,あるいは直接,岩などに付着するが,砂泥中にすむものもある。タテスジホオズキガイミドリシャミセンガイなど約 260種が知られているが,化石種が多く (約 8000種) ,現代よりは古生代に繁栄していた類である。

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百科事典マイペディア 「腕足類」の意味・わかりやすい解説

腕足類【わんそくるい】

触手動物腕足綱の総称。軟体部は2枚の殻で包まれるが,殻は二枚貝類と違って背腹に位置する。多くは海生で他物に着生するか,砂泥中にもぐって生息。移動する能力はない。カンブリア紀初期にすでに500種以上存在し,古生代に最も栄えたが,中生代以降は衰退したが,その後のあらゆる地質時代から知られ,シャミセンガイ(汽水域にすむ),ホオズキガイ,チョウチンガイなど約70属250種が現存する。

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