永井荷風の長編小説。1916年(大正5)から17年にかけて《文明》に連載。17年,私家版50部限定として知友に配布し,翌年流布本(削除をほどこしたもの)を刊行。戦後は私家版500部限定の刊行などもあり,その系統の本文が読まれている。大正初期の新橋花柳界を舞台にしたいわゆる〈花柳小説〉。尾花家の抱えの駒代を主人公として,実業家の吉岡,役者の瀬川,姐さん芸者の力次,枕芸者の菊千代,芸者上がりの君竜などが,金と色の世界の〈腕くらべ〉を展開する。エロティックな描写で注目されたが,季節の推移を味わい深くとらえ,時勢の変化を文明批評的に浮き上がらせており,荷風文学の中期を飾る代表作となっている。
執筆者:竹盛 天雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
永井荷風の長編小説。1916年(大正5)8月から17年10月雑誌『文明』に連載、のち私家版50部限定として刊行(十里香館刊、17年12月の日付、実際は翌年1月)。荷風中期の代表作で、大正初めの新橋花柳(かりゅう)界を舞台とする「花柳小説」。尾花家(おばなや)の抱え駒代(こまよ)は実業家吉岡を旦那(だんな)にしているが、人気役者瀬川一糸に夢中になり、吉岡はその報復に菊千代を落籍し、また姐(ねえ)さん芸者力次は芸者あがりの君竜をそそのかして一糸を奪わせる。当世的な金と色と意地の腕くらべであるが、時勢おくれの尾花家の亭主と老妓(ろうぎ)、旧派の文学者南巣(なんそう)らの設定は、それらを相対化している。エロティックな描写を含むが、季節の推移と融(と)け込んだ年中行事や風俗の描出に別趣の詩的な味わいがある。
[竹盛天雄]
『『荷風全集6』(1962・岩波書店)』
《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...
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