脳皮質形成異常、滑脳症、多小脳回、異所性灰白質

内科学 第10版 の解説

脳皮質形成異常、滑脳症、多小脳回、異所性灰白質(先天奇形)

(7)脳皮質形成異常(cortical dysplasia),滑脳症(liss­encephaly),多小脳回(polymicrogyria),異所性灰白質(ectopic gray matter)(図15-13-8〜5-13-10)
概念
 胎生10週から22週にかけての大脳の発生期には,脳室周囲胚細胞層から幼弱神経細胞が脳表に遊走し脳皮質を形成する.この機転に何らかの異常が生じると,無秩序に神経細胞が配列し,正常な6層構造の皮質が形成されない.こうした病変が脳皮質形成異常と総称され,局所性病変から脳全体におよぶ滑脳症までさまざまな程度がある.病変部は形態的には皮質の厚みが増すとともに,その部分の脳溝は減少し脳回の幅が広い所見を呈する.滑脳症などでのこうした形態的変化は,無脳回あるいは厚脳回とよばれている.これに対し,多小脳回では敷石状と表現される細かく浅い脳溝が認められ,これは本来の脳溝が癒合した結果として厚脳回になっている.異所性灰白質は,脳室周囲からの神経細胞の遊走の異常により,皮質まで到達しなかった細胞が脳室周囲あるいは白質内に集簇している所見である.
病因
 滑脳症の原因としてLIS1,DCX,ARX,RELN,VLDLRなどの遺伝子が同定されている.DCX遺伝子が原因の場合には形成異常の所見は前頭部優位で,LIS1およびARX遺伝子が原因の場合には後頭部優位となる傾向がある.また,Millert-Dieker症候群は,LIS1遺伝子領域を含む隣接遺伝子症候群で,重度の滑脳症に加えて特有の顔貌(額が目立ち側頭部が陥凹,上向きの鼻など)を認める. 多小脳回は,福山型に代表される先天性筋ジストロフィに合併する丸石様皮質異形成の群と,先天性サイトメガロウイルス感染などの胎生期の感染や血管障害などの外因や先天異常症候群,染色体異常(22q11.2欠失など)や先天性代謝異常(ペルオキシゾーム病など)に伴ってみられる場合がある.感染や虚血などによる多小脳回は,両側のSylvius裂周囲にみられることが多い.
 異所性灰白質の原因としては,フィラミンA遺伝子異常による脳室周囲結節状病変や,DCX遺伝子などの滑脳症の原因遺伝子による皮質下帯状病変が有名であるが,そのほかの先天異常症候群や胎生期の異常も原因となる.
臨床症状
 皮質形成異常の病変部は,正常な皮質の構造を欠き機能も失われている.神経症状は病変の範囲により多様で,さまざまな程度の精神遅滞脳性麻痺てんかんを呈するが,特に病変が広範な滑脳症では重度心身障害の病像となる.局所性の皮質形成異常は,てんかんの原因として診断される場合が多い.異所性灰白質自体は直接症状を呈さないが,合併する皮質の異常により精神遅滞やてんかんなどの症状を呈する.[岡 明]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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