能力検定(読み)のうりょくけんてい(英語表記)performance test

翻訳|performance test

改訂新版 世界大百科事典 「能力検定」の意味・わかりやすい解説

能力検定 (のうりょくけんてい)
performance test

一般には特定の仕事のできる力を一定の基準に照らして検査し定めることだが,畜産では,家畜の生産能力を検査して評価,判定することを意味し,家畜育種を進めるために重要な選抜の一手段である。検定の指標は家畜の種類によって異なるが,一般に家畜の生産能力を最高に発揮させて比較する絶対能力検定と,経済的な見地から給与した飼料との相対的な生産性を比べる相対能力検定とがある。経済能力検定と呼ばれるものは後者であり,経済動物である家畜にとっては,この成績の高いことが望まれる。また検定の実施の方式には,家畜を飼養している個々の農家において検定を実施する現場検定と,一定の施設へ集めて検定する集合検定の二つがある。検定の公正や飼養条件の斉一といった点からは集合検定が望ましいが,検定頭数が制限される点や輸送の手間のかかる点などから,乳牛などでは現場検定が行われることが多い。

 また泌乳能力産卵能力のように,雄では測定できない能力については,その雄の生産した娘の検定成績から雄親の遺伝的能力を調べる後代検定が行われる。後代検定は屠殺(とさつ)しなければ検定できない屠体形質などにも適用されるが,これは親の遺伝子型を評価して種畜選抜を行う方法であり,育種上の意義の大きい検定方法である。現在,日本で行われている能力検定には次のようなものがある。

乳用家畜の能力として検定される項目としては,総乳量,乳脂率,乳脂量,無脂固形分率,泌乳期間などがある。総乳量は1泌乳期を通しての産乳量であるが,泌乳期間によって大きく影響されるので,1ヵ年(365日)とか10ヵ月(305日)の乳量を検定する場合が多い。乳量は年齢,産次,搾乳回数など環境要因により影響を受けやすいので,成績の評価にあたっては補正係数を用いて比較する。乳脂率はゲルベル法やバブコック法によって測られ,乳量に乳脂率をかけて脂肪量が算出される。現場検定では泌乳中の一定時期に検定員の立会いのもとで乳量,乳脂率の測定が行われる。無脂固形分率はゴールデンビーズ法によって測定される。

肉牛については,肥育中の増体量(肥育性)と屠殺した際の枝肉歩留り,肉質,肉脂率(赤肉と脂肪の割合)など(屠肉性)が指標とされる。肥育性は肥育中の一定期間をくぎってその間の増体総量,あるいは1日当りの増体量,期間前後の体重の比率を計算した増体率などで表される。また増体1kg当りに要した飼料量を考慮して飼料要求率を算出する。屠肉性は屠殺,解体して検定される。屠肉量はウシでは頭,ひざから下の四肢,皮,血液,内臓(腎臓は残す)を除いたものである。肉質については,日本ではとくに筋肉内の脂肪の交雑状況が重視され,いわゆる霜降肉が珍重される。

 ブタも肉牛とほぼ同様であるが,肥育の時期が生後6~7ヵ月齢までの若齢のものについて行われる点や,屠肉性については背脂肪厚(背部の皮下脂肪層の厚さ)が重視される点が異なっている。

卵用家禽(かきん)の能力検定では産卵個数(年間),卵重が検定項目となる。また卵の質としてハウユニット(濃厚卵白の高さ)なども取り上げられる。昔は家禽1羽1羽の能力が問題とされ,翼帯で個体識別したものにつきトラップネスト(産卵箱)で個別に検定したが,最近では群として産卵能力を検定する場合が多い。その場合,検定期間中の総産卵数を検定開始時の羽数で除したヘンハウス産卵数(産卵率と生存率の両者によりきまる)や総産卵数をその期間中の生存鶏の延べ羽数で除したヘンデイ産卵数が指標として用いられる。

毛用家畜の能力は外貌から検定しうるうえに,雌雄ともに検定しうるので選抜上ひじょうに有利であり,体型審査の項目の中に体型とともに羊毛も入っている。検定は毛量と毛質について行われ,毛量としては汚毛量,純毛量,洗浄歩留りなどが,毛質としては繊度(太さ),毛長,強伸度などが取り上げられる。

役畜については,所定の重量の荷車を所定の距離ひかせて歩様,疲労度,所要時間などをはかる輓曳(ばんえい)能力検定や,スピードを重視する競走馬につき,一定の距離を走らせた前後における呼吸数,体温,心拍数,血圧,血液性状などの値の変化と,これらの回復率を見る検定法が実施されている。

繁殖力はすべての家畜種において生産性にかかわる重要な能力である。性成熟に達する年齢の早晩(早熟性)や,産次を順調に重ねるか否か(連産性)などは種畜の評価に重大な意味をもつ。ブタのように多胎の動物では,一腹の産子数の多少(多胎性)や離乳時までの育成率(哺育性)も重要で,これらの成績については産子検定が実施されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「能力検定」の意味・わかりやすい解説

能力検定
のうりょくけんてい

家畜の種々の能力を数量化して,その優劣を判定すること。家畜の種類や検定する形質によって方法が異なるが,乳牛における泌乳能力,肉牛や豚における産肉能力,めん羊における産毛能力,鶏における産卵能力の検定などが広く行われている。優秀な家畜を選抜するのに有効な手段の一つであり,特に種畜の選抜,育種に不可欠のものである。

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