胡籙(読み)やなぐい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「胡籙」の意味・わかりやすい解説

胡籙
やなぐい

右腰に帯びる矢入れ具の一種。古代の靫(ゆぎ)が発展したもので、7世紀中期ごろから8世紀中期ごろに主として公家(くげ)の儀式用として急速に広まった。平胡籙(ひらやなぐい)と壺胡籙(つぼやなぐい)の2種があり、籐(とう)、葛(つづら)、木などでつくられる。平胡籙は箙(えびら)を薄くしたような形をしており、その方量はおおよそ高さ1尺(約30センチメートル)、方立(ほうだて)の前幅7寸(約21センチメートル)、後幅6寸(約18センチメートル)、同深さ1寸8分(約5.5センチメートル)、同奥行2寸3分(約7センチメートル)で、下地は木製が多く、これを漆塗りとし蒔絵(まきえ)または螺鈿(らでん)仕上げとする。方立の前面には眼象(げんじょう)(格狭間(こうざま))を透かし、緒をつける。壺胡籙は筒状をしており、前面中央に手形の穴があり、漆塗りまたは螺鈿仕上げとする。胡籙を儀仗(ぎじょう)用として使用する場合、公卿(くぎょう)は蒔絵螺鈿、非参議次将は木地螺鈿木地蒔絵の胡籙と定められていた。またこれに盛る矢は長さ2尺2~3寸の塗箆(ぬりの)で、3~4寸の金銅または鉄鏃(やじり)をつけ、二立羽、水晶筈(はず)または角筈(つのはず)とする。上差(うわざし)は水晶、金、銅、木などの鏑(かぶら)を用いる。矢数は14筋に鏑矢1筋、または20筋に鏑矢2筋、その他諸説ある。胡籙の用法は、羽を上にして盛り、緒で右腰に帯び、矢は箙と同じように下の方へ抜き取る。古い胡籙としては正倉院宝物「白葛平胡籙(しろつづらひらやなぐい)」が有名である。

[入江康平]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「胡籙」の意味・わかりやすい解説

胡籙
ころく

胡禄とも書く。矢を入れる奈良時代の盛り矢具の一種。同じく上古・奈良時代に用いた盛り矢具の (ゆぎ,ゆき。靭とも書く) とは使用法が異なり, (やじり) を下にして矢を入れ,腰につけて用いる。その源流高句麗古墳壁画にみるように,北方騎馬民族の文化に求められるであろう。平安時代以後,胡 籙を「やなぐい」と読むが,これと区別して奈良時代のものを「ころく」と称している。

胡籙
やなぐい

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