胡床(読み)アグラ(英語表記)hú chuáng

デジタル大辞泉 「胡床」の意味・読み・例文・類語

あ‐ぐら【胡床/胡坐】

胡坐)両ひざを左右に開き、両足を組んで座ること。こざ。「―を組む」
貴族着座する、床の高い台。あごら
材木を組んで高い所へ上れるようにつくった足場
「―を結ひあげて」〈竹取
一種の腰掛けで、脚を交差させて折り畳めるようにしたもの。
「―どもを召したり」〈胡蝶
[類語]横座り立て膝割り膝

こ‐しょう〔‐シヤウ〕【×胡床/××牀】

中国北方の胡国から伝えられたという、一人用の腰掛け。戸外行事の席や休息のために用いた。床几しょうぎ。あぐら。

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改訂新版 世界大百科事典 「胡床」の意味・わかりやすい解説

胡床 (こしょう)
hú chuáng

中国の折りたたみ式の携帯用座具。胡牀とも表記される。日本では〈あぐら〉と読まれる。日本の床几(しようぎ)と同じく上板に革縄などを張り,X状に脚を交差する。不用の際には,たたんで壁,柱などに掛けておかれた。胡床は,床の字に〈胡〉の字が冠せられているように,もともと中国固有の座具ではない。中国の古代における座法は,後の時代のごとく倚座ではなく,日本と同じく平座が普通であった。敷物などの上に危座正座),箕踞(ききよ)(なげあし),蹲踞(そんきよ)(たてひざ),趺座(あぐらかき)したのである。礼儀にかなった座法は危座であった。胡床が西方あるいは北方民族より中国にもたらされたのは遅くとも東漢の霊帝(在位168-189)のときである。まず宮廷において珍重された。魏晋南北朝時代(3~6世紀)になると,軽便な座具であったためか,その用途もひろがり,室内,庭先,楼上はもとより戦場の軍事作戦,狩猟,競射など広範囲に用いられた。唐末五代(9~10世紀)になるといすの使用が始まるが,携帯用の胡床はなお〈交床〉の名称で,各家庭に備えられた。北京では〈馬扎児〉と呼ばれ,今日なお使用されている。

 ところで日本でも胡床と認められる埴輪が出土しており,文献のうえでは《日本書紀》の継体元年(507)の条に〈胡床〉の名がはじめてみられる。中国の胡床との関係については議論があるが,朝鮮半島を経由して伝播されたと考えるのが穏当であろう。なお座法の〈あぐらかき〉は〈あぐみ〉ともいわれ,足組みの意である。一般的には胡床の和訓〈あぐら〉と同一語源から出るとされるものの,必ずしも明らかではない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「胡床」の意味・わかりやすい解説

胡床
あぐら

腰を掛ける座具の一種。胡座、呉床とも書く。脚を左右に交差して組み、尻(しり)受けに革、布、縄や紐(ひも)などを張り、折り畳んで移動に便利なようにつくられた腰掛である。この名称は古く記紀にみえるが、『延喜式(えんぎしき)』には、朝廷の儀式に列席する武官が用い、上に虎(とら)皮を敷いたとあり、「緒料緋絲、基別八両、塗料漆、基別一合」ということから、脚を漆塗りとし、尻受けの緒が緋の縄や紐というつくりであったことがわかる。また、床几(しょうぎ)、合引(あいびき)ともいい、戦陣や狩り場の野外で武将が使用する腰掛をいうこともある。

[郷家忠臣]


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家とインテリアの用語がわかる辞典 「胡床」の解説

あぐら【胡床】

古墳時代からあったと思われる腰掛け。中国から伝来し、当初は舶来の腰掛け一般をいったが、のちに折りたたみ式のものに限るようになった。平安時代以降は、貴人の神社参拝・儀式などに携帯用として戸外で使用。◇「こしょう」ともいう。

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世界大百科事典(旧版)内の胡床の言及

【いす(椅子)】より

…この成果をもとにして,よいいすを選定する条件をまとめると,(1)いすの座高と奥行きが自分の脚部の寸法に適合すること,(2)座面の体圧分布が坐骨結節に集中していること,(3)シートと背もたれの位置と傾斜角度が正しい姿勢の保持に適合していること,(4)いすのシートの弾性が適性であるか否かをチェックすることである。【鍵和田 務】
【中国】
 中国でも古くは地上に莚(むしろ)を敷いて座る生活であったが,後漢末期になって台床の上に座るようになり,また胡床(こしよう)とよぶ折りたたみ式交椅(こうい)が使われだした。しかし,当時の中国では腰掛けることははなはだしい不作法とされていたため,胡床は特異な風俗と見られていた。…

【曲彔】より

…脚が折りたたみ式の交椅(こうい),座が円形の円椅(えんい),方形の方椅(ほうい)などがある。交椅は胡床,摺畳椅(たたみあぐら)ともよばれる。鎌倉時代ころに中国(宋)から入ったが,中国では曲彔とはいわずに交椅とか椅子とよんでいる。…

【牀】より

…唐代末期以降は,倚座が普及するようになり,以来,一般に,牀はベッド,榻は周囲に囲いのついた高い平座用の台状家具をそれぞれ指していう。一方,漢代の文献に見える〈胡床(牀)〉は,これらとは異なるもので,その名のごとく当時西北地方より伝来した,本来は軍隊の携帯用折り畳み椅子で,後世の交椅,日本でいう床几(しようぎ)に相当する。漢代の画像,宋代以前の絵画に描かれた室内家具や現存する明・清時代の家具遺品を見ると,一般的な平台式ベッドの牀のほか,上部に蓋(おお)いのつく架子牀,榻と同様の周囲に囲いのある羅漢牀,下部を炕(カン)(オンドル)にした炕牀など,さまざまな類型がある。…

【床几】より

…座にひもや皮,布などを張り,脚はX形に組み,持ち運ぶのに便利に作られている。古代から中世にかけては胡床(牀)(こしよう)と呼ばれていた。胡床はすでに古墳時代後期の埴輪にみられ,戦陣や狩場,また宮廷の儀式や貴族の外出用に用いられた。…

※「胡床」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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