胆道ジスキネジー(読み)たんどうじすきねじー(英語表記)biliary dyskinesia

日本大百科全書(ニッポニカ) 「胆道ジスキネジー」の意味・わかりやすい解説

胆道ジスキネジー
たんどうじすきねじー
biliary dyskinesia

胆道運動失調症、胆道機能不全ともいう。胆汁流出装置(オッデイ括約筋、胆管、胆嚢(たんのう))の機能障害によって生じる病態で、胆石症、胆道の炎症が除外されたものである。内科、外科、精神科の医師が個々の評価を行い胆道痛と診断した疼痛(とうつう)で、器質的な消化管疾患あるいはその他の腹痛の原因となりうる疾患の存在を示す臨床的根拠の欠如が必要である。

 症状としては胆石症を思わせる疼痛、右季肋(きろく)部(右側の最下方にある肋骨(ろっこつ)部)鈍痛、悪心(おしん)、便秘、下痢、全身倦怠感、食欲不振などがある。

 診断としては除外診断で、超音波検査、CT、磁気共鳴胆管膵管検査(MRCP)、直接胆道造影法などで胆道の器質的変化、結石の有無について十分に検討を加える必要がある。また、心身症、とくに過敏性腸管症候群、神経症を合併することがあり、診断上参考になる。

 治療方針は病態により多少異なるが、過労暴飲暴食を避け、心因性の因子が考えられる場合には精神的な原因を除くことがたいせつで、鎮静剤、精神安定剤の投与も効果的である。

[中山和道]

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改訂新版 世界大百科事典 「胆道ジスキネジー」の意味・わかりやすい解説

胆道ジスキネジー (たんどうジスキネジー)
biliary dyskinesia

ジスキネジーはもともとドイツ語で,運動障害を意味し,語源はギリシア語dyskinēsia。胆道(胆囊と胆管)に胆石,炎症や腫瘍などの器質的病変がないにもかかわらず,胆囊や胆道括約筋の運動・緊張異常が原因で,疼痛を訴える病態を指す。胆道の平滑筋組織は,胆囊,総胆管末端部(オッディ括約筋),胆囊頸部・胆囊管移行部(リュートケンズ括約筋)に発達しており,胆囊の収縮弛緩の運動や括約筋の緊張状態の変動・保持,ならびに胆囊と括約筋の協調作用により胆汁の十二指腸への流出や胆囊内への流入・流出を調節している。疼痛は,胆囊の運動亢進(過度の収縮)や緊張低下(過度の弛緩),括約筋の緊張亢進や緊張低下,ならびに胆囊と括約筋の協調運動の失調などによってもたらされる。これらの平滑筋の運動や緊張は筋自体の性質のほかに,自律神経を介した神経反射や,コレシストキニンcholecystokininを含めた消化管ホルモンの体液性の因子にも左右される。そのため胆道ジスキネジーの誘因として,精神的緊張,過労,環境の不適,自律神経失調,糖尿病,甲状腺疾患,妊娠,アレルギー性などの全身的異常や,胃・十二指腸疾患,虫垂炎,膵炎,肝炎などの局所的異常まで広い範囲にわたって考えられる。胆道造影(胆囊造影),放射性同位元素使用による動態観察の可能な胆道シンチグラフィー,十二指腸ゾンデ法,超音波検査などが診断の参考となる。しかし,器質的変化を除外して,純粋な機能異常を証明することは困難であり,臨床的に胆道ジスキネジーの病名を用いることはほとんどない。一般に,胆道の機能障害の一つの病態的概念として用いられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「胆道ジスキネジー」の意味・わかりやすい解説

胆道ジスキネジー
たんどうジスキネジー
biliary dyskinesia

胆道運動失調症ともいう。 K.ウェストファールが提唱した (1931) 概念で,胆汁排出装置の純機能的障害と定義されている。右上腹部またはみぞおちの疼痛,吐き気,嘔吐,ときに黄疸を伴うが,胆石症,胆嚢炎,胆管炎などの器質的疾患が証明されないときに診断できる。病型としては,緊張亢進性ジスキネジー,緊張低下性ジスキネジー,運動亢進性ジスキネジーがある。病因については,迷走神経緊張説,心因説のほかに,胆嚢を収縮させる消化管ホルモンの失調説もある。しかし,症状,胆管内圧の変化,手術所見などに相関がほとんどないため,本症を一つの疾患単位として認めることに疑問をもつ学者も多い。

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