胆管結石を内視鏡的に治療した後に胆嚢摘出術をするべきか

六訂版 家庭医学大全科 の解説

胆管結石を内視鏡的に治療した後に胆嚢摘出術をするべきか
(肝臓・胆嚢・膵臓の病気)

 胆管結石に対しては、従来の開腹手術に比べて体への負担が少なく、また治療効果も高いことから、内視鏡的治療が第一選択の治療法であると考えられています。一方で、開腹手術の場合は胆管結石を取り出すのと同時に胆嚢も摘出しますが、内視鏡的治療では同時に胆嚢を摘出することはできませんので、別の日に胆嚢摘出術を行わなければなりません。

 そこで、「自分は胆管結石の治療目的に入院して、胆管結石は内視鏡的に取り除いたのに、そのあとにあえて胆嚢を摘出する必要があるのだろうか?」という疑問が出てきます。この疑問に対する回答は胆嚢の状態(胆嚢結石の有無)によって異なります。

 十二指腸乳頭を電気メスで切って広げる内視鏡的乳頭括約筋(にゅうとうかつやくきん)切開術(EST)後には乳頭のはたらきが低下するため、十二指腸の内容物が逆流して胆嚢内に入り込み炎症を起こすことが懸念され、胆嚢結石の有無に関わらず胆嚢を摘出することがすすめられていた時期がありました。しかしその後の検討で、胆嚢結石のない場合には胆嚢を摘出しなくても問題がないことが判明したので、現在では胆嚢摘出術は行われなくなっています。

 一方で胆嚢結石がある場合には、たとえ胆管結石の治療時には胆嚢結石の症状がなくても、将来的に胆嚢結石が胆管に落ちてきたり、急性胆嚢炎を起こしたりする可能性があります。そのためEST後には胆嚢摘出術を受けることが推奨されています。

 また東京大学消化器内科の実績では、乳頭を風船バルーン)で広げる内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)で胆管結石を取り除いた後に胆嚢結石を放置した場合、EPBD後3年たった時点で約25%の方が、胆嚢結石が胆管に再落下したため治療を行ったというデータがあります。そのため患者さんの全身状態が許せば、EPBD後には胆嚢摘出術を行うことを前提として外科医に相談することをすすめています。

 しかしこの“25%”の頻度をどのように受け止めるかは、患者さんによって異なります。「25%もまた治療が必要になるのか」ととらえる方もいますし、逆に「75%は何も起きないのか」と考える方もいます。また、「もう2度とあんな痛い思いをしたくないので、胆嚢を早く取ってください」という方もいますし、「手術を受けるのは怖いので、また胆管結石ができたら内視鏡でとってください。胆嚢についてはその時に考えます」と手術を拒否される方もいます。

 医師側ができることは、胆管結石の治療後に胆嚢結石を残した時の危険性と胆嚢摘出術の安全性についてきちんと説明して理解していただくことで、その後の判断はその方および親類の方にゆだねるのが現状です。

 ただし社会的に責任のある立場の方や海外によく出かけられる方の場合には、より強く胆嚢を摘出することをすすめています。なぜならば、胆嚢結石がいつ胆管に落ちるのかは誰にもわかりませんし、緊急で入院しなければならないこともあるかもしれません。でも、胆嚢摘出術を受ける場合には、仕事や旅行のスケジュール調整をしてから余裕をもって手術を受けることが可能だからです。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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