胆汁
たんじゅう
肝臓でつくられる黄金色の液体で、肝管を経て総肝管に入り、十二指腸に流入する。しかし十二指腸乳頭にある括約筋が収縮していると、胆汁は胆嚢(たんのう)管や胆嚢へ引き戻される。ここで胆汁は蓄えられ、濃縮される。病気の診断のため(胆嚢炎など)、口から管を入れて胆汁を採取することがあるが、そのときまず出てくるのは総胆管にある胆汁で、これをA胆汁とよんでいる。次に胆嚢胆汁(B胆汁)が出て、最後に肝管胆汁(C胆汁)となる。
胆汁は、肝細胞から1日に250~1100ミリリットル分泌され、前述のように一時胆嚢に蓄えられる。食後、とくに脂肪の多い食事をとると、十二指腸の粘膜からコレシストキニンcholesystokininというホルモンが分泌される。このホルモンは、胆嚢を収縮させ胆汁を十二指腸に排出させる働きをもっている。なお、十二指腸からはパンクレオチミンpancreozyminというホルモンが出て、膵臓(すいぞう)からの膵液の分泌を盛んにさせるが、このホルモンとコレシストキニンとは同じものであることがわかり、CCK-PZ(コレシストキニン・パンクレオチミン)とよばれている。
胆汁は、胆嚢において10倍近くに濃縮される。したがって、胆嚢胆汁と肝臓からの肝臓胆汁とでは組成が異なっている。水分以外で、もっとも多く含まれている胆汁酸塩は、胆汁酸がナトリウムやカリウムと結合してできたものである。胆汁酸の働きとしては、(1)リパーゼの活性化、(2)脂肪の表面張力を減じて乳化する、(3)脂肪酸の吸収を促進する、(4)小腸の運動を盛んにする、などがあげられる。ヒトの胆汁は黄褐色をしているが、これはビリルビンbilirubinという胆汁色素の働きによる。肝臓で赤血球が壊されるとヘモグロビンが出て、ヘムとグロビンに分かれる。ヘムからはビリベルジンが生じ、これが還元されてビリルビンとなる。なお、ヘモグロビンから離れた鉄は、またヘモグロビンの合成に使われる。ビリルビンは、腸内細菌によってウロビリノーゲン(ステルコビリノーゲン)となって糞便(ふんべん)中に排出される。しかし、大部分のウロビリノーゲンは吸収されて血液中に入り、ふたたび肝臓に戻っていく(これを腸肝循環という)。
ビリルビンは、血液100ミリリットル中に0.2~0.8ミリグラム含まれているが、赤血球が大量に壊されると、ビリルビンの量が多くなり、皮膚や粘膜が黄色となる。これが黄疸(おうだん)とよばれる症状である。また、肝細胞での胆汁分泌機能が悪くなったり、胆管の狭窄(きょうさく)などによって胆汁の通過障害がおこっても黄疸となる。胆石症というのは、胆嚢や胆管に石ができる疾患である。胆汁中のコレステロールと胆汁酸塩のバランスが崩れてコレステロールが多量となると、コレステロールが沈殿して石が生じてくる。石にはコレステロール結石のほか、ビリルビン結石、カルシウム結石などがあり、多くは胆嚢の中でつくられる。
胆石は、しばしば胆嚢に炎症をおこすほか、石が胆管に出て、胆汁の通過障害をおこしたり、胆管が刺激されて、ひどい痛みを伴う。多くの場合、手術して石を取り除くが、石の種類によっては、薬で溶かす方法や超音波で石を砕く方法もとられる。
[市河三太]
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胆汁
たんじゅう
bile
肝臓で生成される消化液で肝管,胆嚢,総胆管を経て十二指腸に注がれる。最初は透明で黄金色を呈するが,胆嚢で濃縮されると,粘液が混って黄褐色あるいは緑色になる。主成分は胆汁色素,胆汁酸など。胆嚢にたくわえられた胆汁は,食物が十二指腸に入ると送り出されて脂肪の乳化にあずかり,その吸収を助ける。胆汁色素 (ビリルビン) はヘモグロビンの分解産物であるが,その一部は小腸で吸収されて,再びヘモグロビンの合成に使用される。胆汁のなかの色素は着色性が強く,糞便の着色もおもにこの色素による。溶血亢進や胆道疾患による胆汁逆流などで血液中にビリルビンが増量すると,皮膚や粘膜が黄色く見える。これを黄疸という。
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たん‐じゅう ‥ジフ【胆汁】
〘名〙 肝臓でつくられ胆嚢(たんのう)に一時貯えられ、輸胆管を通じて十二指腸に送られる消化補助液。主成分は胆汁酸と胆汁色素で、ふつう黄褐色を呈し、苦みをもつ。腸で半消化物の酸性を中和し、脂肪の消化、吸収をたすける。胆液。
※解体新書(1774)一「牙児 此翻二胆汁一 其色黄而其味苦」
※或る女(1919)〈有島武郎〉前「胆汁(タンジフ)の漲ったやうなその顔を」 〔孔平仲‐二二日大風発長蘆詩〕
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胆汁
肝臓で分泌される液体で、消化酵素 (リパーゼ) を活性化させ、脂肪を水に溶けやすくすることで、脂質の消化吸収を助ける作用があります。主成分には赤血球の老廃物であるビリルビン、コレステロール、胆汁酸があり、一度胆のうに蓄えられたあと十二指腸から排泄されます。
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デジタル大辞泉
「胆汁」の意味・読み・例文・類語
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胆汁
肝臓で合成され,胆管を通して十二指腸へ分泌される消化液.胆汁酸を含み,脂質の消化吸収に必須.胆汁酸は吸収されて再び胆汁成分となり肝臓から腸へ戻る.この循環を腸肝循環という.
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たんじゅう【胆汁 bile】
胆汁は肝臓で生成される消化液(ただし消化酵素を含まない)であるが,その約半分は胆管を通って胆囊内に入り,そこで濃縮,貯蔵される。空腹時においても胆囊はリズミカルに収縮し,少量ずつ胆囊胆汁を十二指腸へ流出させているが,一般的には食餌が十二指腸に入ることにより,その中に含まれるアミノ酸,脂肪酸などが十二指腸,空腸粘膜を刺激し,そこからコレシストキニンという消化管ホルモンが放出され,これが胆囊壁に直接作用して,強い胆囊収縮をおこし,大量の胆汁が十二指腸に放出される。
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世界大百科事典内の胆汁の言及
【肝臓】より
…〈肝心(または肝腎)〉〈肝要〉などの熟語にみられるように,人体にとってたいせつな器官として認識されてきた。 消化管に付属した体内最大の腺であるが,胆汁と血漿タンパク質の分泌のほかにも,消化管から吸収した各栄養素の代謝や貯蔵,解毒作用など,多様な働きを行う器官である。重量は,成人で1200~1400g,成長に伴う重量変化は,0~5歳と10~17歳で最も著しく,20~23歳で最も重くなり,以後しだいに減少する。…
【十二指腸】より
…第1部は腹腔内にあるが,残りは後腹膜に癒着しており腸間膜はなく,可動性がない。第2部中部の内側には,総胆管が主膵管と合流しつつ開口し,膵液や胆汁の流入口となっている。この開口部は粘膜上に隆起しており,主乳頭(または大十二指腸乳頭,ファーター乳頭Vater’s papilla)とよばれる。…
【体液】より
…中国や日本など東洋の医学で,昔から気や風の変化から疾患を〈病む気〉,つまり〈病気〉として説明してきたのとはきわめて対照的で,こうした体液病理学による医学的思考は,ルネサンス以後に解剖学が進歩して器官の病理学(固体病理学)と入れかわるまで,ヨーロッパで支配的だった。 古代ギリシア・ローマでヒッポクラテスやガレノスらにより取り上げられるのは,粘液phlegm,血液blood,黒胆汁melancholy(black bile),胆汁(黄胆汁choler,yellow bile)という4種の体液であり,これらの平衡と調和を保つことが健康の条件で,ある体液に過剰,不足,移動などが起これば,心身の変調や病態が生じると考えられた。例えば,癲癇(てんかん)の発作は,冷たい粘液が突然脈管内に流れ込んで血液を冷却,停滞させる場合に起こるが,粘液流が多量で濃厚なときには,血液を凝結させるから,直ちに死を招く。…
【胆囊】より
…肝臓でつくられた胆汁を一時蓄えておく役目をする囊で,発生的には(輸)胆管壁の膨出として生じ,胆囊管により総胆管に開く。脊椎動物全般にみられるものだが,ヤツメウナギや鳥類,哺乳類のなかには胆囊を欠くものもある。…
※「胆汁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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