胆のうがん

EBM 正しい治療がわかる本 「胆のうがん」の解説

胆のうがん

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 肝臓でつくられた胆汁(たんじゅう)は、胆管(たんかん)と呼ばれる管を通って十二指腸(じゅうにしちょう)へと流れでます。胆のうは胆管の途中にある袋状の臓器で胆汁を一時的にためておく働きがあります。管にできたがんを胆管がん、袋にできたがんを胆のうがんといいます。両者をまとめて胆道(たんどう)がんと呼ぶこともあります。
 ある程度進行するまでとくに症状はありません。進行すると、上腹部しこり鈍痛(どんつう)がみられ、黄疸(おうだん)をおこすこともあります。胆石(たんせき)症を合併した場合は、発熱や疝痛発作(せんつうほっさ)(急に刺すような激痛がおこる)など胆石症特有の症状があります。
 なお、超音波検査の普及で胆のうに腫瘍(しゅよう)が見つかる機会が増えました。胆のうの腫瘤(しゅりゅう)には、悪性腫瘍である胆のうがん以外に腺腫(せんしゅ)や胆のうポリープなどの良性腫瘍もあります。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 胆のうがんの患者さんの50~60パーセントが胆のう結石を、5~10パーセントが膵胆管(すいたんかん)合流異常症を合併するといわれています。胆石手術例に胆のうがんを合併する確率は1~2パーセントですが、胆のう結石による炎症、または化生上皮などががんの発生母地となる可能性が指摘されています。
 胆石のある患者さんは、定期的に超音波検査などで胆のうがんの有無を調べることが望ましいでしょう。胆のう炎を合併したり、疝痛発作がひどく、日常生活にも支障をきたすような場合は、胆のうがんになる可能性も多少高まりますから、手術で胆のうを摘出したほうがよいと考えられています。
 また、膵胆管合流異常症を合併する胆のうがんの4分の3は女性であり、発症年齢が若いのが特徴です。膵管と胆管の合流異常からおこる膵液逆流によって、胆のう粘膜が慢性的に刺激を受けて過形成(細胞の増殖)がおこり、がんの発生母地となると考えられています。

●病気の特徴
 胆のうがんは60歳以上の女性に多く、男女比は1:2といわれています。
 胆のうの壁は内側から順に「粘膜」「固有筋層」「漿膜下層(しょうまくかそう)」「漿膜」から成り立っていますが、解剖学的特徴として粘膜筋板(粘膜内にある筋肉の層)がなく、Rokitansky-Aschoff sinus(ロキタンスキー・アショフ洞:胆のう壁にできた粘膜の陥没)があることがいえます。そのため、胆のうがんは容易に漿膜下層に浸潤(しんじゅん)し、進行がんとなりやすいとされています。
 早期胆のうがんは、リンパ節転移の有無にかかわらず、壁深達度(へきしんたつど)が固有筋層までのものをいい、有茎性(ゆうけいせい)または無茎性の胆のうポリープに分類されるものが多いです。
 漿膜下層に浸潤し進行胆のうがんになると、リンパ節転移、肝浸潤、胆管浸潤などの進展様式に加え、胃・十二指腸、結腸、膵臓(すいぞう)などの隣接臓器に浸潤します。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

■早期胆のうがん
[治療とケア]単純胆(たんじゅんたん)のう摘出術(てきしゅつじゅつ)を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 胆のうがんのうち、組織学的にがんの壁深達度が粘膜内または固有筋層内にとどまるものについては、単純胆のう摘出術が行われます。リンパ節転移の有無は問いませんが、実際にはリンパ節転移の報告はほとんどありません。早期にがんが発見された場合には、胆のうだけを切除する単純胆のう摘出術が行われ、切除後の5年生存率は90パーセント以上です。
 腹腔鏡下切除(ふくくうきょうかせつじょ)を選択する施設もありますが、がんが漿膜下層に浸潤している可能性もあり、とくに肝臓側にある場合は露出される危険性があるため開腹胆のう摘出術が望ましいとされています。術中迅速診断を行い、壁深達度を評価して、必要であれば追加切除を加えます。(1)

■早期胆のうがん以外の場合
[治療とケア]拡大胆のう摘出術を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 粘膜とその直下の固有筋層を超えてがんが広がっているときは、拡大胆のう摘出術が行われるのが一般的です。胆のうだけでなく、隣接している肝臓の一部や所属リンパ節なども一緒に取り除く手術です。治療成績は、単純胆のう摘出術より良好であることが臨床研究によって確認されています。両者を比較した場合、5年生存率は同等でも、生存中央値(対象者を生存期間の長さで並べた場合、ちょうどまん中に位置する人の生存期間)は拡大胆のう摘出術のほうが明らかに長いと報告されています。(2)

■切除不能・再発の胆のうがんの場合
[治療とケア]化学療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 根治切除ができたものの、がんのリンパ節転移や肝浸潤が認められた例、遠隔転移などを認め切除の適応にならなかった例などに対して、ゲムシタビン塩酸塩、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤とプラチナ製剤を主体とした化学療法を行います。(3)~(8)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗がん薬
[薬名]ジェムザール(ゲムシタビン塩酸塩)(5)(6)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ティーエスワン(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤)(7)
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] この2剤を中心にほかの薬剤との組み合わせで化学療法を施行しています。まだ確立された治療内容はなく、臨床試験が行われています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
もっとも有効な治療は、手術で胆のうを摘出すること
 胆のう摘出術のみが、もっとも確かな治療と考えられています。胆のう炎や胆石症のために胆のうを切除し、病理学的検査で胆のう粘膜内にがんが偶然発見された場合は、予後が非常に良好です。しかし、手術時に外科医が腫瘍に気づくことができるほど大きくなっている場合は、たとえ胆のうに隣接する部分の肝臓や胆管、所属リンパ節などを切除したとしても、5年生存率は50パーセント以下とされ、現在でも治療が非常に難しいがんのひとつとされています。

化学療法の有効性は不確実
 胆道がんで治癒の期待できる治療法は現在、外科的切除に限られることから、化学療法は切除不能あるいは切除後再発例が対象となります。全身状態良好かつ胆管炎など合併症がコントロールされている場合に限られるものの、生存期間延長の効果が期待できる治療と考えられます。
 最近の化学療法として分子標的薬が大きな注目を集め、多くのがん種で良好な効果が得られています。

胆石のある人は定期的に胆のうがんのチェックを
 発症頻度は高くありませんが、胆石は胆のうがんの危険因子であることは確かです。胆石のある患者さんは、定期的に超音波検査などで胆のうがんの有無を調べてもらったほうがよいでしょう。
 また、胆のう炎を合併したり、疝痛発作の頻度がある程度高く、日常生活にも支障をきたしたりするような場合は、胆のうがんになる可能性も多少高まりますから、手術で胆のうを摘出したほうがよいと考えられます。

(1)Shirai Y, Yoshida K, Tsukada K, et al. Inapparent carcinoma of the gallbladder. An appraisal of a radical second operation after simple cholecystectomy. Ann Surg. 1992;215:326-331.
(2)Donohue JH, Nagorney DM, Grant CS, et al. Carcinoma of the gallbladder. Does radical resection improve outcome? Arch Surg. 1990;125:237-241.
(3)胆道癌診療ガイドライン作成出版委員会編. エビデンスに基づいた胆道癌診療ガイドライン改訂第2版. 医学図書出版. 2014.
(4)Glimelius B, Hoffman K, Sjödén PO, et al. Chemotherapy improves survival and quality of life in advanced pancreatic and biliary cancer. Ann Oncol. 1996;7:593-600.
(5)Okusaka T, Ishii H, Funakoshi A,et al. Phase II study of single-agent gemcitabine in patients with advanced biliary tract cancer. Cancer ChemotherPharmacol.2006;57:647-653.
(6)Valle J, et al.Cisplatin plus Gemcitabine versus Gemcitabine for Biliary Tract Cancer. N Engl J Med. 2010;362:1273-1281.
(7)Furuse J, Okusaka T, Boku N, et al. S-1 monotherapy as first-line treatment in patients with advanced biliary tract cancer:A multicenter phase II study. Cancer ChemotherPharmacol. 2008;62:849-855.
(8)Takada T, Amano H, Yasuda H,et al. Study Group of Surgical Adjuvant Therapy for Carcinomas of the Pancreas and Biliary Tract. Is postoperative adjuvant chemotherapy useful for gallbladder carcinoma? A phase III multicenter prospective randomized controlled trial in patients with resected pancreaticobiliary carcinoma. Cancer.2002;95:1685-1695.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

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