肺寄生虫症

内科学 第10版 「肺寄生虫症」の解説

肺寄生虫症(感染症)

 肺寄生虫症は,わが国では生活様式や保健衛生の向上により減少していたが,海外旅行者や発展途上国からの入国者の増加,グルメ志向による食生活の多様化,ペットブームなどにより再び増加傾向にある.多くは寄生虫の卵や幼虫の付着した物を経口的に摂取することによる.その種類は多く,①肺が好発部位であるもの(肺を好んで住みつき増殖する肺吸虫),②幼虫期に肺組織に侵入した後にほかの臓器成虫になるもの(回虫,鉤虫など),③成虫から産生された幼虫の一部が肺組織に移行するもの,④ヒトが固有宿主ではないため成虫まで成長できず,幼虫のままヒト体内を移行して肺病変を生じるものがある.おもな肺寄生虫症について示すとともに(表7-2-7),最近比較的多いとされる肺吸虫症および回虫類による内臓幼虫移行症について述べる.
肺吸虫症(paragonimiasis)【⇨4-17-2)も参照】
 ウェステルマン肺吸虫(図7-2-18)と宮崎肺吸虫が知られており,第2中間宿主であるサワガニモクズガニ待機宿主であるイノシシの肉を経口摂取することで感染する.摂取された幼虫(メタセルカリア)は小腸内で脱囊し,腸管壁を貫通して腹腔内に出たのち,いったん腹腔内の筋肉内に穿入する.そこで発育後,腹腔内から横隔膜を穿通して胸腔内に侵入し,臓側胸膜を貫いて肺実質内へ侵入して成虫となり周囲に囊胞を形成する.
 咳,血痰,胸痛などの症状,好酸球増加を認め,胸部画像では浸潤影,結節,空洞影のほか,胸水貯留や気胸を認めることがある.診断は痰,便,気管支洗浄液,生検検体中に虫卵を証明するか,血清学的に抗体陽性を証明すること(ELISA法,Ouchterlony法など)でなされる.治療としてプラジカンテルの内服が有効である.
(2)トキソカラなどの内臓幼虫移行症(visceral larva migrans)
 トキソカラ(イヌ回虫(図7-2-18)またはネコ回虫),ブタ回虫など動物由来の回虫類による幼虫移行症は,いずれも感染経路や臨床症状が類似しており,経口摂取した幼虫包蔵卵が小腸で孵化し,幼虫は腸管粘膜から門脈を経て肝,肺および全身に移行してさまざまな症状,画像所見を呈する.以前は砂場で遊ぶ子供が経口摂取して生じる例が問題となったが,近年ではペット愛好家による固有宿主との接近,有機野菜流通の増加,グルメブームによる待機宿主の肉の生食により成人発症例が頻発している.
 診断は血清学的な抗体検出が主体である.イヌ回虫症では約半数で肺病変や呼吸器症状を認め,好酸球増多,Löffler症候群,肺野の多発性小結節病変などを呈する.胸部画像において,短期間に移動もしくは消失と出現を繰り返す結節状陰影,なかでもCTにてハローサイン(halo sign)を呈する結節影(図7-2-19)をみた場合は,本症を念頭においた血清寄生虫抗体のスクリーニング検査が勧められる.治療としては,アルベンダゾールが第一選択薬として用いられている.[石井 寛・門田淳一]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「肺寄生虫症」の解説

肺寄生虫症
はいきせいちゅうしょう
Parasitic lung disease
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 肺に感染症を起こす寄生虫の種類は多く、その生活史から、

 ①肺が好発部位であるもの(肺吸虫(はいきゅうちゅう)

 ②幼虫期に肺組織に侵入したあと、他の組織で成虫になるもの(回虫(かいちゅう)など)

 ③成虫から産生された幼虫の一部が肺組織に移行するもの(糸状虫(しじょうちゅう)など)

 ④ヒトが固有宿主(しゅくしゅ)ではないために成虫まで成長できず、幼虫のままヒト体内を移行して肺病変を生じるもの(イヌ回虫など)

 に分けられています。

 日本では、寄生虫疾患は生活様式や保健衛生の向上などによって減少の一途をたどっていましたが、海外旅行者や発展途上国からの入国者の著しい増加、グルメ傾向による食生活の多様化、ペット愛好家の増加などにより、最近、再び増加傾向にあります。

 ここでは、日本で比較的多いとされる肺吸虫症およびエキノコックス症について説明します。

宮下 修行


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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